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105 推しと俺の執事
しおりを挟む少し待っていると、応接室のメイド達は下げられ、一人の青年が入ってくる。
テオのお付きの執事と数人の執事は残る。
短く切り揃えられた黒い髪と黒い瞳で、今にも泣きそうな顔をした可愛らしい青年だ。
背は俺より低いが、顔立ちは幼く美少年って感じ。
俺と同い年だと聞いて、子供を守る時に、両親の頭に俺がよぎったのではないかなと思った。
父様もそれを知っていたから、俺に言い出せなかったんだろうな。
「…初めまして。サーディン・オレントと申します」
「初めまして。私はトーレ王国ジャメル侯爵のレスだ。こちらは息子のギルだ」
「初めまして」
軽く挨拶を交わし、サーディンはヤンダークの隣に座る。
やはり、少し術が掛かっている様だ。
「サーディン殿。その魔術はご自身で掛けたものですか?」
早速俺が突っ込むと、俺以外が驚いた顔をしている。
あれ?
もしや皆気が付いてないの?
「魔術とは?サーディンには何か術が掛けられているのですか?」
ヤンダークが焦った顔をする。
そうか、彼も魔術師だったよね。
「はい。…そうですね。これは魔力制御でしょう。そして、サーディン殿の魔力を吸収する様な。そばに居たら、間違いなくサーディン殿の魔力を眠らせてしまう魔術です。こちらに身を寄せたのは正解だと思います」
ちょっとよく分からない魔術だね。
俺が告げると、皆驚愕している。
チラリとサーディンを連れてきた執事を見ると、顔色が悪い様だ。
「テオ。そちらの執事は?」
俺に凝視され、執事はビクリと体を震わせる。
若い執事だが、上手に隠しながら、魔力を使っているのは分かるんだぜ?
「捕えよ!」
テオの指示が飛んだ瞬間に、俺も魔術でその男を抑える。
「…!う、動けな…!」
「あなたは誰の犬でしょうか」
俺の冷たい声に、サーディンまでビクッとしてしまうけど、気にせずに男を壁に貼り付けにする。
顔立ちは地味だけど、この若さで上手に魔術が使えるって中々よね。
変装しているらしき髪色やらを元に戻してやると、ヤンダークは目を見開く。
「お主、王城勤めのジックでは無いか!?辞めたとは聞いていたが。誰の命令でサーディンを苦しめておったのだ!!」
ほほう。
王城術師だったんだね。
つまりはオレント伯爵筋が濃厚か。
「…ふむ。黒髪で茶色い瞳の中々の美人ですが。お知り合いでしょうか?」
俺の言葉に、ジックも目を見開いて驚く。
黙秘するつもりだった?
ごめんねぇ!
俺の見える人物像に心当たりが有る様で、サーディンの瞳が揺れている。
「…もしや、レンか」
ヤンダークの呟きで、知り合いだとわかる。
話を聞くと、サーディンの二つ上の兄で、優秀な魔術師として王城に勤めているんだとか。
なるほど、兄が弟の力を押さえつけてたのか。
でも何の為に?
自分の能力を超えるのを恐れた?
「…私は、まだ兄様に嫌われているのですね」
少し寂しそうに呟くサーディンに、ジックは首を振る。
「違います!レン様は!」
お、レンで確定か。
しかし、否定するって事は何か理由があるんだろうね?
俺はクイクイッと指を動かして、ジックを椅子に座らせて拘束する。
周りが感心しているが、とりあえず魔術具で拘束させてもらうね。
「さて、何か理由があるなら素直に話してもらいましょうか?あなたに魔術をかけて自白させるのは、簡単ですからね」
俺の言葉に、ジックはガックリと項垂れる。
そして、静かに話し始めた。
「レン様は、サーディン様が別の貴族へ養子に出されると知り、魔力が出せなくなった様に魔術を掛けたのです…」
どーゆー事??
話を続けさせるとこうだ。
父親であるオレント伯爵は愛妻家で、最愛の妻に容姿の似た息子を直視出来なくなったんだと。
嫡男のアルバスも、母親の愛を一身に受けていたサーディンが許せず、冷たく当たっていたらしい。
小さい子供だよー!?
そりゃ三人兄弟だったら、一番下が手が掛かるでしょうに。
ふざけんなよと思いつつ、顔には出さずに話を続けさせる。
「黒髪黒目ですし、魔力の高さは保証されていると言う事で、親戚の貴族に養子に出すと話が出たそうなんです。しかし、レン様はその貴族の良からぬ噂を聞いており、サーディン様の力を隠そうとしたそうなんです」
中々の小児性愛者だったんだと。
オレント伯爵潰したろか?
俺の目が少しずつ据わるのを、父様が視線で宥めてくる。
「魔力を失ったサーディン様を養子に出すと言う話は無くなりましたが、お屋敷での扱いも酷くなり…。それに、今度は養子ではなく嫁にと言う貴族も出て来て。その相手も良からぬ噂が多かったので、レン様はそれとなくお祖父様であるヤンダーク様に情報を流し、サーディン様を離れさせたのです」
なるほどね。
それにしても、もしかしたらレンも立場が弱かったりするのかな?
俺の疑問に、ヤンダークが悲しい顔をする。
「…今の当主であるコンは、娘婿でして。長男のアルバスはコンに瓜二つ。しかしレンは私の姉に似ていたのです。母親であるキクにも似ておらず…。そして、娘はあの日、レンの誕生日祝いにねだられたモノを買いに行っていた所だったのです。そのせいか、レンにも冷たく当たる様になりました」
お、潰す?潰す?
俺の目が益々物騒になるので、父様にストップを掛けられる。
「ギル、落ち着きなさい」
分かってるけど、分かってるけどさぁ!!
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