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103 推しと領地での出会い
しおりを挟む「凄い!一面がレモンの木だ!」
簡単な審査を受け、レモルトに入ると、一面にレモンの木が見える。
こちらまで良い香りがしてきて爽やかだ。
「大きさも凄いな。ギルはこのレモンで何か考えているのか?」
「これだけ大きければ果肉も多そうですね。レモンのお酒もですが、ジャムも爽やかで好まれそうですね」
俺がワクワクしながら言うと、お酒好きの父様はそれは楽しみだと笑う。
テオの婚約者が来ると言う情報が回っている様で、俺たちの馬車に手を振る平民も多い。
俺は惜しみなく笑顔を向け、見やすい様に手を振る。
「テオドール殿下の婚約者様は、賢者様なんですって!」
「凄いわねぇ!皇帝弟殿下と賢者様が治めるのね!」
楽しそうな民の声に、俺も上機嫌になる。
良かった。
賢者って結構良いイメージみたい。
レモン畑を過ぎると、今度は温泉地帯だ。
「あれが温泉か。周りも随分と開発が進んでいるな」
「本当ですね。周りも綺麗に整備されてますし、宿も建築してる様です」
父様と湯気の立つ泉を眺めつつ、周りの発展に驚く。
テオは俺の話を聞いて、すぐに開発を始めたんだって。
周りの民の仕事にもなるし、移住も増えそうだから嬉しい。
「お、お屋敷が見えてきたぞ」
父様の声で前を見ると、中々立派な屋敷が建っている。
元領主の家で、今は近所に住む元王城勤めの魔術師が、お孫さんと管理してくれてたんだって。
「ジャメル侯爵とギル様ですね。ようこそおいでくださいました。私現在レモルトに隠居しております、元オレント伯爵のヤンダークと申します」
屋敷の前に着くと、立派な黒髪黒目黒髭のご老人が、執事達とお出迎えしてくれる。
名前を聞いて、一瞬だけど父様が反応した。
知ってる人なのかと伺うが、父様は俺が気が付いていないと思ってるみたいだから、黙っておく。
それにしても、執事が十人にメイドが十五人、料理人達が五人とは、結構いるんだね。
他にも通いの庭師や御者や馬小屋の管理人らも居るんだって。
さすが皇帝弟の屋敷だ。
彼らも、一緒にトール国に移住して来てくれたり、元々トール出身の人達と聞いた。
「まさか、テオドール殿下の婚約者が賢者様とは驚きました。トール出身の者に聞いた所、トールの賢者は自由な冒険者だと言う例えがあるそうで。テオドール殿下とお似合いですな」
「ありがとうございます」
「それにジャメル侯爵も、レッドドラゴンリーフの栽培に成功なさったとは。魔力拒否症で苦しむ者は多いですからね。私も友人を失いました。感慨深いです」
「そうでしたか。すぐに帝国にも薬が出回るはずです。私もギルも、息子の病を治すのに必死でしたからね。努力が報われ一安心していますよ」
手際よくお茶も準備され、俺が提案したスタイルで軽食が提供される。
ヤンダークはお喋り上手な様で、テオが来るまでの相手役になってくれている。
「こちらの軽食のスタイルもギル様のご提案なんでしょう?」
「はい。病み上がりの兄に、少しでも召し上がって頂きたくて…」
俺の言葉に、周りのメイド達も感心していた。
料理長にも様々な話は行っている様で、柑橘のデザートやソースも挑戦中なんだって。
「ギル様考案の小型保冷箱は、大変重宝しているんですよ。レモルトは海から遠いですからね」
「こちらの傷薬もギル様とお兄様の考案だとか。香りも良くて傷にも良くて。テオドール様がお土産に配ってくださったんですよ」
料理長やメイド達も嬉しそうに話してくれるので、どうやら歓迎されているみたいだ。
「喜んで貰えて嬉しいです。レモルト特産の柑橘類で、他にも色々商品化出来たらと考えています」
よしよし、猫を被りすぎない様にしつつも、良いイメージを持って貰わないと!
「あの暖かい泉も、観光地として開発を提案されたとか。あの泉は年寄りにも好評でしてね。テオドール様が、より使いやすく入りやすい様にすると仰ってくださって、楽しみにしているんですよ」
「はい。文献で温泉の良さを知っていたので、ここの名物に出来たらと。貴族向けと平民向けに分けて、さらにその中でも差別化し、贅沢をしたい方々向けと、気軽に利用したい方々向けにしていけたらと」
俺の理想は、貴族は貴族向けの場所にして、平民にはちょっと背伸びした宿と、気軽に来れる場所を分ける感じだ。
平民向けのお店とかは、一緒にするけどね。
「素晴らしいお考えです。完全に貴族向けにするより、民も楽しめる様にと考えてくださったんですね」
「はい。こちらで働いてくださったり、レモルトに住んでいる民には、割引をしたらどうかなとも考えているんです」
その土地ごとにあるよね、そう言う割引。
実はジャメル領の領民も乗合車の割引があるし、利用しやすい様にしてるんだ。
それは父様の考えも大きい。
当主になった時に、若い父を支えてくれたのもまた領民だから、恩返しもあるんだ。
その事を伝えると、ヤンダークは驚きつつもとても感心してくれる。
「何と、領民に割引とは」
「この地を守り、一緒に発展させて行く仲間ですからね。領地を守り領民に施すのも、領主の勤めだと父からの教えですから」
父様を見ると、その通りだと頷いてくれる。
「領民に何かを返す事は大事な事だからな。それがジャメルの考えだ。ギルも、レモルトでその考えを繋いで欲しい」
「もちろんです」
俺と父様のやり取りは、とても好印象だった様だ。
ふふ。
テオドール様の婚約者は間違いないでしょ~う?
そう思いつつヤンダークを見ると、少し複雑そうな顔をしてすぐ笑顔に戻る。
んん?何だろう今の表情…。
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