99 / 247
97 推しと愚かな結末
しおりを挟む本命の結婚を告げると、エパは一段と騒ぎ出す。
え、その物語だとコンヌル一家は容姿が酷いのだろうか。
ヨンジ様は別格に美しいし、父親も兄も綺麗な顔してんのに。
ニルケス殿下から怒りを感じるが、父様が止めてくれている。
「…拝見された事無いんでしょうか。ヨンジ様はまるで天の使い様にとても美しいですし、ご家族も品のある上品な方々ですよ?」
「そんな…。嘘でしょう…」
呆然とその場に座り込んでしまうエパに、俺は淡々と話を続ける。
「それに、サンジカラはもはや国として機能しておらず、ラッカルに取り込まれる未来が見えますし、セイレート王国の泉は枯れる事も聞きませんね」
「そ、そんな。リリーはそんな事言ってなかったわ…。サンジカラは帝国を治めることになるけど、それは帝国が民を酷い扱いをしていて悪くて、サンジカラが良い国にして行くんだと…。物語の通りだったはずなのに」
サンジカラと帝国の立場逆になってない?
きちんと周りの勉強をしていたら、そこら辺にも気が付きそうなのに。
テオが不機嫌そうにしているので、後でフォローしとこ。
「そもそも、あなたは宝石商の令嬢でもないですしね。そのお話では宝石商の令嬢だったのでしょう?」
「…そうよ。お父様は優秀な宝石商で財を成していて、私は生まれた時に魔力の高さから聖女と言われるの…。学園でも成績は優秀で、友人も多くて、私の力でみんなを幸せに…。おかしいわ。ルートを間違えたのかしら…」
いやいや、生まれた時点で違うならルートもクソも無いだろうに。
魔力も微量だし、成績も最優秀クラスだった事無いよね。
努力もせずに最優秀クラスに選ばれるとでも思ってたのか。
「…今現在のあなたは聖女と言われた訳ではないのですね?」
「そ、それは」
「オール殿下。こちらの令嬢の診断をやってみても?」
オール殿下に確認すると、俺が診断が出来る事に驚きつつ、エパの本人証を持って来させる。
エパも、真実が分かるはずだとノリノリだが、愚かだよね。
こんなにも話が違うんだから、違うって事の証明なのに。
エパの本人証には、既に罪人の文字が出ているので、それが消えるとでも思ってるのかもね。
早速俺が診断を始めると、周りは息を飲んで待つ。
すぐに終わり、俺は本人証をチラリと見て殿下へ渡す。
「…殿下。どうぞこれを」
「ふむ。…聖女の文字は無いな。取り調べの際ザーガルドの診断ではっきりと罪人の文字が出ているし、その診断結果と同じだ。ん?この隣の文字はなんだ?汚れだろうか」
「…何かの模様でしょうか」
嘘だ。
薄っすらだが、日本語で偽物って書かれてる。
殿下はエパに見えるよう本人証を見せつけると、エパはまた座り込んだ。
「偽物…。私が偽物だって言うの…?そんな、そんな…」
エパは日本から来た様で、その文字を理解し、そのまま壊れた様に嘘だと呟き続ける。
そしてこれ以上聞くことは無さそうだと殿下に向き直る。
「…やっと現実を理解した様ですね」
「さて、話はもう良いだろうから撤退しよう」
殿下の言葉に、ゾロゾロと皆で外に出る。
あの本人証が何を言いたいのかは分からなかったけど、彼女が偽物って事は本物が居るのかな?
でも、登場人物達のストーリーが違い過ぎるから、本物が来ても話は変わらなそうな気がする。
警戒する事に越した事は無いから、取り敢えず情報は絶えず入る様にしておかないとな。
そのまま、王城の広い部屋で話し合いになる。
リーカイ様やジェレミー兄様、フロル様も合流したのだが、先程の令嬢の話はただの妄想という結果になった。
「あまりにも話が違い過ぎたからな。母上とターンが殺害されるなど不愉快極まりない」
「兄上がリーカイ殿以外に気に入りの令嬢がいるなど、あり得ませんしねぇ。私も騎士の道を誇りに思っていますし。そもそもがドラゴンに消された伯爵などと、彼女は周りの情勢の勉強もしていなかったのでしょう」
マクドル殿下に茶化されつつも、オール殿下とリーカイ様は微笑みあって頷いている。
「それにしても、我が息子のジャカルを狙っていたとは。ヤツは令嬢に興味など無いと言うのに」
そうなのだ。
ドンク公爵の次男である、リリーに狙われていたジャカルは、男性にしか興味が無いんだよね。
それも年上の。
貴族なら知ってそうな話なのに、物語に執着し過ぎて周りが見えてなかったのだろうか。
「…情けないが我が息子は道を間違った。早い段階で動く事が出来て幸いだった。リーナイト公爵家にも迷惑をかけたな」
ダイヤ公爵が謝ってる!?
自分も同じ様な事してたから、ちょっと立場無いよね。
ま、ヨハンとは違って成績は優秀で武器の商才に優れてるから、廃嫡は無かったんだろうけど。
「多くの貴族が手玉に取られていたからな、ヨハン殿だけが責められる話では無いさ。それに、フロルには良い縁があったからな。ヨハン殿も良い縁があって良かった」
シェル様の貴族的な答えに、ダイヤ公爵はそうかと頷く。
フロル様は良い縁だけど、ヨハンはどうなんだろう。
エロエロイケオジの幼妻ってヤツだろ?
いや、案外ヨハンには良い道だったのかも知れないけど。
356
お気に入りに追加
1,282
あなたにおすすめの小説
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな
七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」
「そうそう」
茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。
無理だと思うけど。
愛されない皇妃~最強の母になります!~
椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』
やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。
夫も子どもも――そして、皇妃の地位。
最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。
けれど、そこからが問題だ。
皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。
そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど……
皇帝一家を倒した大魔女。
大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!?
※表紙は作成者様からお借りしてます。
※他サイト様に掲載しております。
【BL】婚約破棄で『不能男』認定された公爵に憑依したから、やり返すことにした。~計画で元婚約者の相手を狙ったら溺愛された~
楠ノ木雫
BL
俺が憑依したのは、容姿端麗で由緒正しい公爵家の当主だった。憑依する前日、婚約者に婚約破棄をされ『不能男認定』をされた、クズ公爵に。
これから俺がこの公爵として生きていくことになっしまったが、流石の俺も『不能男』にはキレたため、元婚約者に仕返しをする事を決意する。
計画のために、元婚約者の今の婚約者、第二皇子を狙うが……
※以前作ったものを改稿しBL版にリメイクしました。
※他のサイトにも投稿しています。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
転生して悪役になったので、愛されたくないと願っていたら愛された話
あぎ
BL
転生した男子、三上ゆうきは、親に愛されたことがない子だった
親は妹のゆうかばかり愛してた。
理由はゆうかの病気にあった。
出来損ないのゆうきと、笑顔の絶えない可愛いゆうき。どちらを愛するかなんて分かりきっていた
そんな中、親のとある発言を聞いてしまい、目の前が真っ暗に。
もう愛なんて知らない、愛されたくない
そう願って、目を覚ますと_
異世界で悪役令息に転生していた
1章完結
2章完結(サブタイかえました)
3章連載
【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺
福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。
目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。
でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい…
……あれ…?
…やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ…
前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。
1万2000字前後です。
攻めのキャラがブレるし若干変態です。
無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形)
おまけ完結済み
王命で第二王子と婚姻だそうです(王子目線追加)
かのこkanoko
BL
第二王子と婚姻せよ。
はい?
自分、末端貴族の冴えない魔法使いですが?
しかも、男なんですが?
BL初挑戦!
ヌルイです。
王子目線追加しました。
沢山の方に読んでいただき、感謝します!!
6月3日、BL部門日間1位になりました。
ありがとうございます!!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる