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86 推し好みの衣装
しおりを挟む「テオドール殿下、ギル殿。ようこそチンタックの仕立て屋へ」
セーラ嬢の婚約者であるミーク嬢が取り仕切る、チンタック男爵家の仕立て屋は今日も繁盛している。
俺が開発に関わった防護機能のある布が好評なのもあるが、ミーク嬢のデザイン力も素晴らしく、若い男女に大人気なのだ。
こちらも腕の良い魔術仕立てが好評で、即日納品の凄腕集団だ。
「ギルに明日の式典用の服を一式贈りたい。今後私も着用する事があるだろうから、揃いで」
「ありがとうございます。どうぞこちらのお部屋へ」
ミーク嬢に案内され、俺達は特別室へ通される。
貴族街は大抵、どのお店にも特別室ってあるんだけど、こういった客が多い所はあまり差別化させていない特別室を複数持つのが普通だ。
あっちの方が格上の部屋だったとかで、トラブルになるのを防ぐ為なんだけど、王族は別。
王族にはやっぱり最上級の部屋が用意されるんだよね。
大きなソファーに大きなテーブル。
このテーブルに生地やらを広げ、選ぶのが大抵の仕立て屋のスタイルだ。
俺達が通されたのは、俺も初めて入る豪華な部屋だった。
テオが居るから当然だし、俺だけだったらやっぱり部屋のランクは下がるの。
でも、それに文句を言う貴族はダメ貴族だからね。
自分の本来の順位をきちんと守らないとダメ。
まぁ、俺とテオが正式に夫夫になったら、この部屋になるんだけどね。
「どういったデザインをご希望でしょうか」
ミーク嬢は見本の生地や、ボタンに使用する宝石などを大きな机に並べる。
「コートとウエストコートは黒地に、銀の刺繍を。あまり派手すぎるのは好みではない。コートの袖のボタンは金地にブルーダイヤかブラックダイヤにしてくれ。中のシャツは白とブルーブラック、シルバーのシルクでそれぞれ作ってくれ。ギルのクラヴァットは控えめつつも華やかに。私の物はシンプルにしてくれ。宝石類はこれらを合わせて欲しい。スラックスのサイドにも銀の刺繍が欲しいな。靴は揃いで柔らかい黒皮のブーツを金具は金で揃えて欲しい。靴下は柔らかい黒のシルクで」
テオ…。
結構細かく指示するんだ。
俺が顔には出さず驚いている間にも、ミーク嬢はニコニコとメモを取り、先程購入した宝石を預かる。
そして、サラサラとデザイン画を描き上げ、テオに差し出した。
「それでは…。デザインはこの様で?」
「うむ。良いな。私のコートの袖はガントレット・カフスにして欲しい。剣を刺すベルトも別で作って欲しい」
「かしこまりました。全て防護魔術の布で作らせて頂きますね。少々お待ちください」
ミーク嬢は下がるが、部屋には給仕の方が数人お茶などを出してくれる。
「デザインも良いが、こちらの意見もしっかり入っていた。彼女は随分腕が良い様だな」
「先程の宝石店に居たセーラ嬢の婚約者でもあるんだ。二人は揃ってセンスが良いから、こちらはもっと大きくなると思うよ」
「それは楽しみだな」
二人でゆっくりしていると、俺の衣装が出来た様で、試着に入る。
軽いがしっかり防護魔術の掛かった服で、シンプルなのに中々豪華だ。
「どうかな?」
試着室から出ると、テオは大変喜んでいる。
俺のは細身に作られていて、ウエストコートの刺繍も華やかだし、クラヴァットもふわふわしていて顔周りも明るく見える。
ブーツも柔らかく履きやすく、全体的に軽いから動きやすい。
くるくると回って見せると、テオは大きく頷いてミーク嬢に向き直る。
「素晴らしい。ギルの美しい髪と瞳にピッタリで良く似合っている。もう少し豪華にした、金の刺繍の物も一式お願いしたい」
「かしこまりました。ありがとうございます」
テオったら、買い過ぎだよ。
でも、上機嫌で指示を出すテオの好きにさせておこう。
冒険者の時はそんなに買い物するイメージは無かったけど、こうやって俺に買い与える時はバンバン使うって知ってちょっと嬉しい。
次はテオが試着したのだが、本当に王族って感じてカッコ良すぎた。
「テオ、すごく素敵。とても似合ってるよ。コートの袖の形もテオに良く似合ってる」
俺と揃いの刺繍が入っているから、本当にペアって感じ。
二人で並ぶのが楽しみなくらい素敵だ。
「しっかりしているのに軽いな。ブーツも動きやすい。デザインも洗練されていて大変気に入った。良い買い物をさせて貰った。また利用させてくれ」
「お褒め頂き光栄です。チンタック一同、心よりお待ち致しております」
テオの手放しの賞賛に、ミーク嬢も喜んでいた。
大変気に入ったみたいで、普段使いできるシャツやスラックスなども大量に購入していた。
俺の分も買っているのに気付いたけど、ありがたく貰っておこう。
「ふふ。テオったら沢山買ってたね。ありがとう」
「私のギルが着るのだから当然だ。…脱がす時が楽しみだ」
「もう…。テオったら」
馬車でイチャイチャしつつ、最後の目的地のレストランへ向かう。
今日は俺の家族もリーナイト家一同も集まるから、広い個室を予約してある。
明日の前祝いの様な、話し合いみたいな食事会になる予定だ。
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