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82 推しとデート
しおりを挟む今日はテオとデートの日。
テオの馬車は、黒塗りに金の細工が嫌味なく施されたスタイリッシュかつ豪華で、中々カッコ良く、護衛の二人が御者もしてくれる。
そんな馬車が迎えに来たらテンション上がるよね。
ラフな格好と言うけど、テオは黒地に銀の刺繍の入ったウエストコートを着ていてカッコ良すぎる。
俺も黒地に銀の刺繍のウエストコートを着たから、さながらお揃いだね。
「本日は孫をよろしくお願い致します」
「こちらこそ。日を跨ぐ事はなくお返ししますので」
夜まで連れ回す気か!
と言いたいけど、この場合は夜の食事も共にしますよって事だよ。
貴族とかがデートする時の言い回しだね。
それに、今日は夕食はリーナイト公爵家とジャメル家一同と一緒に行く事になっている。
お祖父様は魔術師の友人に招待されているらしい。
「それでは行ってまいります」
「うむ。気をつけて」
ジェレミー兄様は早くからセルジオ様の迎えで、リーナイト商会へ向かったから、取り敢えずそこに顔出しに行く。
今日は、リーナイト商会から宝石店に行き、お茶をして洋服を見繕って貰ったら、夜は例の海鮮のレストランに行く予定だ。
結構ハードスケジュールだけど、せっかくテオが居るし、周りにアピールもしとかないとだから。
テオに恭しくエスコートされつつ、馬車に乗り込む俺は多くの視線に晒されるが、気にしない。
ふっかふかの椅子に横並びに座る。
左に座るテオは、腰に右手を回し、左手は太ももに置いて来た。
「ギル。とても良いバングルをありがとう。今日は指輪を贈りたいのだが、貰ってくれるか?」
「もちろん。ありがとう。お揃いだよね?」
「もちろんだ」
テオとのお揃いが増えるのは嬉しいと喜ぶと、頬にキスをされる。
今日もいっぱいイチャイチャ出来そうです。
「テオ、ここにジェレミー兄様が居るんだ」
「おお、立派な商会だな。薬品以外も取り扱っていると聞いている。帝国の塗り薬もあるそうだから補充しておこう」
リーナイト公爵家の商会は、王城近くの一等地に建っており、大理石で造られた、さながら神殿の様な豪華な建物だ。
薬品や日用品も多く取り扱っていて、流行り物が好きな女性達にも大人気だったりする。
テオと揃って馬車を降りると、セルジオ様とジェレミー兄様と職員一同が、揃って入り口に立っている。
そっか、テオは皇帝弟殿下だもんね。
「テオドール殿下。ようこそいらっしゃいました」
「本日はよろしく頼む。塗り薬も数点見たいのだが」
「帝国の塗り薬もございますし、最近ギルやジェレミーが開発に関わったモノもございます」
「それは楽しみだ」
周りに好奇の目で見られながら、中にはゾロゾロ入る。
カイトと目が合うと、確かに元気が無さそうだった。
セルジオ様達がテオの接待をしている間に、カイトと会話をして来ると許可をもらう。
「カイト殿。最近君が元気が無いと兄が心配していた。何かあったのかい?」
「…ギル殿。その、実は父が他の縁談を持って来ているんだ」
「ええ?」
やだオルネス伯爵ったら、結構怒ってたんだね。
「それって、別のお家の方とか」
「ううん。ベルガー様の弟のサンタロス様なんだけど…」
あ、同じセントラ伯爵家のって事か。
俺の記憶から引きずりだすと、兄とは違い真面目な青年だった気がする。
王家の騎士団に属していて、腕も中々良かった様な。
あれ?でも弟に婚約者は居ないのかな?
「弟君に婚約者は?」
「うん…。白い結婚のお相手が居たみたいなんだけど、相手が別の方と結婚したいとなったそうで…。父様がベルガー様の抗議に行った時に、それなら弟はと勧められたみたいなんだ」
白い結婚が白紙になったのか。
それで、弟がカイトにとなるって事は、弟はカイトを憎からず思っているのかもしれない。
でも、カイトの様子を見ると、カイトは乗り気では無い様だ。
「カイト殿。ベルガー殿は現在はジャメルでしっかり鍛錬しているし、カイト殿も彼の帰りを待っているのでしょう?その気持ちをきちんとご家族と話されては?自分が嫁ぎたい相手がしっかり決まっていると」
「父や兄はまだベルガー様を許して無い様なんだ。最近は毎日サンタロス様を薦められて…。確かに誠実で真面目な方ではあるのだけど、僕はずっとベルガー様を見てきたから…」
そうか、毎日は辛いよね。
確かに例の令嬢と関わっているのは痛いが、それでも軽度だったし他の奴らの方が酷かったのに。
可愛い息子には誠実で真面目な男の所に行って欲しいのは分かるけど、こんなに元気が無くなるまで息子を追い詰めるのも良く無いよね?
「カイト殿。明日発表が終わったら、すぐにジャメルへ向かってベルガー様と話して来たらどうかな?」
「ええ!?」
俺の急な提案に、カイトは驚く。
明日発表後、一旦父様とホセ兄様は領地へ戻る。
その時に、カイトも連れて行って貰えば良い。
二、三日したら、ホセ兄様はレッドドラゴンリーフを持って帰ってくるので、その時にこちらに向かえば良い。
「私が父達に話を通しておきます。しっかり話し合って、彼を一旦連れ帰ってご家族を説得してみたらどうだろう。辺境騎士団での評判も悪く無いから、きっとご家族も分かってくれるよ。君が元気が無いと、商会の皆も心配みたいだからね」
「ギル殿…。そうだね、これからは夫夫になるんだから、一人で考え込んではいけないね。それに周りに心配を掛けてしまって。僕、しっかり家族と話して、ベルガー様に会って来るよ。ありがとう」
ようやく笑顔になったカイトは、そのまま接客に呼ばれて行く。
そこへ、ジェレミー兄様がやって来た。
「何日かカイト殿が不在になるけど。良かったかな?」
「優秀な魔術師の方々が多いし、カイト殿には今後はジャメル領を行き来してもらうから、その準備って事で丁度良かったよ。ありがとうギル」
ジェレミー兄様にお礼を言われ、ニマニマしながら、俺はテオの元に戻る。
周りをしっかり見ているジェレミー兄様を見習わないとな。
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