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75 推しと害のない公爵家
しおりを挟む王城の若い騎士三人を伴い、コンヌル公爵家に着くと、やはり禍々しい魔術を感じた。
「…うん。すべて解こうかな」
俺の言葉に、騎士達は大丈夫かと聞いてくる。
「ヨンジ様の護衛をお願いします。あと、やり過ぎでしたら止めてください」
にっこりと言うと、騎士達は顔が引き攣っていたが、さすがにヨンジを守るくらい出来るよね?
扉が開けられた瞬間から、パンパン魔術を解いて行く。
怖い顔をしていたメイドや執事達も、ふらふらとその場に座り込みながら、呆然としていた。
ジェレミー兄様が、手際良く彼らに軽い回復魔術を掛けてくれる。
キムートの息が掛かってる奴らは、腹這いになっているので放置ね。
「ヨンジ様の友人で、ジャメル伯爵家から参りました、ギルです!今から皆さんに掛けられた魔術を解いて周らせて頂きますね!腹這いになっている人達は、悪い奴らなので捕えてください!」
俺の言葉に、皆少しずつ理解している様で、動こうとしていた。
「あ、こちらにグリーンドラゴンリーフの粉があります。こちらを皆さんに飲ませてあげてください。回復に繋がります」
サッサッと手を振り回し術を解きながら、俺は周りに居たメイド達に指示を出し、公爵が待つであろう部屋の近くまで進む。
ジェレミー兄様も参加し、薬湯を準備してくれる。
グリーンドラゴンリーフは、俺の回復用に持ち歩いてるんだよね。
ヨンジの回復は俺の魔術でやったけど、沢山いるからこっちの方が手っ取り早い。
「ギル殿、父と兄はその部屋だと思います」
「入っても?」
「父様、兄様、失礼します」
俺達が部屋に入ると、一段と禍々しい魔術がコンヌル公爵と、ヨンジの兄のニージが座っていた。
「…あぁ、おかえりヨンジ」
「さぁ、お茶にしようか」
二人とも焦点が合わず、不気味だ。
きっと先程捕えられた魔術師が、上手く彼らを操って自然に見せていたのだろう。
「…禍々しい。ギル様、大丈夫ですか?」
騎士の言葉に、俺は笑顔を見せる。
バンッ!!
一際大きな音を立てて、魔術が吹っ飛んだ。
ガクリと力なくソファーに座りむ二人を、騎士が抱き起こす。
「父様!兄様!」
「公爵達にもお茶をお願いします」
回復した執事やメイド達が、慌てて駆けて来たので、勝手ながら指示を出す。
二人は結構深く魔術を掛けられていた様なので、俺の回復魔術も掛けておく。
「ありがとうございます!私達も記憶や感情が曖昧になっていました。なんと恐ろしい…」
「こちらの薬湯で、意識もはっきりしてきました。腹這いになっていた者達も捕えてあります」
五人の男女が、まとめて縛り上げられているので、逃げられない様に魔術を掛けておく。
「…今応援を呼びましたので」
騎士の一人が、恐る恐る話しかけてくる。
「ありがとうございます。彼らを引き連れて歩きたくなかったので、良かったです」
「そうですか…。あの、我々に出来る事はありますか?」
あ、もうヨンジの護衛は必要無さそうだからね。
「はい。屋敷にいくつか魔道具が置かれていた様なので、回収に協力してください。捕えられた奴らに聞いても良いですが、正直に話さないかも知れませんので、私が魔力を飛ばして光らせます」
「魔力を飛ばして光らせる…」
俺の説明に、騎士が遠い目をしているが、気にしない。
お祖父様からお小言ありそうだけど気にしない。
「私も手伝います。ギル、これだよね?」
ジェレミー兄様の手には、小さな人形の様な陶器がある。
「うん。証拠になるから、一つに集めておけば大丈夫だと思う」
「では、一緒にお願いします」
「はいっ!!」
お前らジェレミー兄様に手出すなよ?
迫力の笑顔で見送りつつ、俺は公爵達に薬湯を飲ませて回復を待つ。
周りのメイド達も、光っている変な人形だと伝えたら、皆で探し始めてくれる。
応援を呼んだって事は、セルジオ様もすぐ駆け付けてくれるだろう。
いやしかし、公爵家を魔術で操るとかかなりの悪事だよね。
キムート首洗って待ってろよ?
「うう…。ヨンジ?ニージ?私は…」
「父様。私達は悪い夢を見ていた様です…」
やっと回復して来た親子の会話に安堵していると、セルジオ様の到着を知る。
リーカイ様を送り届けて速攻で来たね。
「くそっ!魔術師はどこに行ったんだ!」
「あたしら置いて逃げたんじゃないでしょうね」
捕えられた奴らがブツブツ言っているが、やはり仲間みたいだね。
急いで来た騎士達にその事も告げ、罪人を運ぶ馬車へ連れて行ってもらう。
「ギル。こんなに沢山大変だっただろう。良くやってくれた」
セルジオ様は、ジェレミー兄様と変な人形を沢山抱えて言う。
後ろの騎士達は、そんな事無いって顔してるので、微笑んでおく。
「いえいえ、少し疲れたくらいです。それよりも沢山の応援ありがとうございます。使用人の方々も疲れているでしょうが、聞き取りなどもあるんですよね?」
「あぁ、軽くな。コンヌル公爵。お久しぶりです。リーナイト公爵家のセルジオです」
セルジオ様は、片膝を付いて、疲労困憊で立てないコンヌル公爵に話しかける。
「…ああ。セルジオ殿…。大変迷惑を掛けてしまって…」
「公爵。城へ登城して欲しいと要請がありました。すぐには動けないでしょうから、報告だけでも…」
セルジオ様の言葉に、コンヌル公爵は首を振る。
「いいえ。今こちらの方に魔術を掛けて頂き、そして薬湯も頂きました。まだ体は重いですが、これも我が公爵家の失態です。今すぐにでも向かいましょう。その間、この屋敷を騎士の方々に警護して頂いても?」
「もちろんそのつもりです」
無害そうな公爵だと思ってたけど、やはり上に生きる貴族としての心得はしっかりあるんだな。
感心しつつ、公爵一家と共に、再び登城する事になった。
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