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74 推しと怪しい魔術
しおりを挟む三日目の治験が終わり、昨日コンヌル家にセルジオ様が出した招待状により、ヨンジは一人の執事を伴ってアイール伯爵家のカフェにやって来た。
「…お招きありがとうございます。コンヌル公爵家、ヨンジです」
何だこの美青年は!!
え!?年上!?
ジェレミー兄様には負けるけど、とても美しい容姿で、ふわふわな金髪と、白い肌に桃色の頬に赤い唇に、緑の瞳。
ニルケス殿下ったら面食い!
心の中でフンスフンスしながらも、俺達は簡単に挨拶を済ませて個室に入る。
「失礼ですが、私もご一緒してもよろしいでしょうか」
執事の男がそう言うが、お前さっきから変な魔術使ってんな。
ヨンジは視線が合わず、ふわふわした感じだから、もしかしなくてもコイツなんだろうな。
「…どうぞ。その前にその魔術、解かして頂きますね」
にっこり笑顔で言うと、パンッと音が鳴る。
「え、へ、あ…あの…」
どうやら流れの魔術師の様だね。
その程度の力で俺を騙せるとでも?
執事が慌て出した所で、強力な魔封じの枷を取り付け、変装を解くと意外と可愛い青年だ。
黒髪黒目で、白い肌に少しそばかすがあるが、幼さを残す風貌で何でキムートに使えてたんだろう。
控えていた王室からの騎士達が彼を捕らえて行く。
「ヨンジ殿。あなたに掛けられている魔術を今解きますからね」
「あっ…。あれ。…私は…?」
ふらつくヨンジをリーカイ様が優しくソファーに座らせる。
「ヨンジ殿。大丈夫ですか?私が分かりますか?」
「…リーカイ殿??どうしてここに??」
ふわふわした感じで、まだ理解が出来ていない様だ。
それでも先程と違って焦点は合っていて、瞳は不安で揺れている。
え~怯えてるお顔も可愛い~。
いけないいけない。
今日は俺がフンスフンスする日じゃ無い。
俺が自分を叱咤している間に、セルジオ様とリーカイ様が、ヨンジに説明をしていた。
少しずつ覚醒してきた様で、ヨンジは自分の行いを恥じて泣き始める。
リーカイ様が優しく背中を摩っている。
「どうして…。私は…」
「どうやら、長い間術を掛けられていた様です。先程の執事は?」
「…確か、キムート子爵の知り合いの…。それ以上は覚えていません…」
おっとキムートてめーか!!
こりゃ、公爵家も危ないぞ?
俺がチラリとセルジオ様を見ると、セルジオ様は大きく頷いた。
そして、すぐに控えていた騎士に指示を出す。
「…最近コンヌル公爵家が出資している所が、関係しているのかもしれんな」
ありえるね。
息子を不安定にし、その隙を狙って潜り込む。
ついでにちょっと王室へ嫌がらせして、他の公爵家にも嫌がらせしてって感じかね。
つまり、俺のジェレミー兄様を悪く言った奴らの根源もそれだね!
「セルジオ様。私もヨンジ殿とコンヌル公爵家へ向かいましょう。私ならおかしな術は全て消し去れます」
叩き潰す所存です!!
俺の笑顔に、セルジオ様がちょっと引いてる。
ジェレミー兄様はニコニコしてくれてるのに。
とりあえずヨンジが落ち着く様にと、アイール家の自慢のケーキでお茶をする。
ヨンジは、少しずつ回復している様で、ポツポツと話始める。
「ニルケス様は、私が十の時に私を見初めてくださったんです」
おっと思ったより幼い。
ニルケス犯罪者!!
「…何か、ニルケス殿下に不貞な事を?」
セルジオ様の言葉に、ヨンジは首を振る。
「いいえ。ありません。今はっきりと思い出しました。私とニルケス様は不純な行為はありませんでした」
お?ニルケス殿下やったんじゃなかったん?
そう思っていると、ヨンジは昔を思い出しながら話をする。
「…幼い私と二人で会うのは問題だったのかもしれません。それでも、こっそりお茶を楽しんだり、お芝居を見に行っていた位です。その時に、劇団を取り仕切る貴族が接触して来ました」
ん、キムートだな。
もしかして、二人とも術を掛けられてしまったんじゃ?
俺がそう思ってセルジオ様を見ると、セルジオ様も頷いていた。
「その後は、私は幼い為にショックを受けてしまいました。本当は何もされていないと言うのに。私が心を病んで、術を掛けられてしまっているうちに。…ニルケス様にお返事をする前に、ニルケス様は国を出られてしまいました」
さめざめと泣くヨンジに、同情的な空気が流れる。
皆お相手が居るから、同じ様な目に遭ったら本当に辛いと思う。
俺もショックで暴れてしまうだろうし。
街の一つくらい壊すし!
「ヨンジ殿。今、帝国から皇帝弟殿下のテオドール殿下がいらしています。お願いしてニルケス殿下に一度帰国して頂きましょう!テオドール殿下の口添えならすぐに動いて頂けると思います」
俺の提案に、ヨンジは驚いていたが、周りは賛同してくれる。
そうそう、使えるモノは使わなくっちゃだよね!
「とりあえず、落ち着いたらコンヌル公爵家へ向かい、術が掛かっていたらすべて消しましょう。セルジオ様とジェレミー兄様とリーカイ様は王城へ報告をお願いします」
俺は一人でも平気だから告げると、ジェレミー兄様が心配そうな顔をする。
「ギル。心配だから私も行きます」
「悪いヤツしかやり過ぎません!」
その言葉に、セルジオ様が外の騎士に数名指示を出していた。
結局ジェレミー兄様も、俺だけだと別の意味で不安だから付いてくるって。
解せぬ。
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