72 / 247
70 推しと偽ヒロイン達
しおりを挟む食事を終えた俺達は、またも注目を集めながらレストランの外へ向かう。
途中で同じ様に食事を終えたハイリ嬢達にも挨拶をし、揃って店を出る。
既に到着している公爵家の馬車に、セルジオ様が満面の笑みで、ジェレミー兄様を恭しくエスコートしながら乗り込んだ。
「少し近くの馬車置き場で待機してください」
セルジオ様にこっそり告げ、馬車は走り出す。
ハイリ嬢達はデートと家が近い事もあり、歩いて来ているようだ。
「あら?ギル様も歩きですの?」
「いえ、今から悪い虫を懲らしめるんですよ」
俺がニッコリと笑顔で言い、先程の話を説明すると、ハイリ嬢とケイクは面白そうだねと俺に付き合ってくれる。
そこに、慌てた様にキムート達が現れた。
きっとリーナイト家の馬車を監視していたのだろうが、俺の目眩しに騙されたのだろう。
既に近くに馬車は居ないし、馬車置き場でも彼らには見分けが付かないはずだ。
「例の、最近評判の悪い子爵と取り巻きの令嬢達だね。このレストランやうちの洋菓子店は既に出入りを断っているよ」
ケイクの耳打ちに、素晴らしい判断ですと告げる。
「彼女達は劇場で拝見した事がありますわ。随分通い詰めているそうですわよ。役者はよろしかったですけど、私にはあの話は現実味が無さ過ぎて。一度で結構でしたのに」
ハイリ嬢の辛辣なコメントに、さすがですと頷く。
レストランの出入り口から少し離れつつ、俺とハイリ嬢達が会話をしていると、レストランを出た貴族も挨拶に来てくれ、少し人だかりができる。
皆、俺の開発を褒めてくれ、取り敢えず謙遜しつつ礼を言い、会話を楽しむフリをしておく。
そこに、焦った様に令嬢達が近付いて来た。
「ちょっと!セルジオ様は何処に!?」
いきなりの失礼な言葉に、俺もだが周りの方々の眉が顰められる。
時代遅れのフリフリの黄色が目に痛いドレスと真っ赤なハイヒール、クリックリに巻き過ぎてもはや爆発でもしたのかという茶色髪と、埋もれている黄色いリボンが痛々しい令嬢だ。
顔の作りは普通だが、メイクが悪いのか服装が悪いのか、性格が悪いのか全てが悪いのか、悪い意味で目立つな。
「…どちら様でしょう」
俺が少し冷たく聞くと、カッと顔を赤くしていたが、いやまずは名乗れよ礼儀知らずが。
「わ、私、あなたのせいで留年になってしまったメーデフの姉のダリョよ!」
家名も名乗れないのかこの女は。
呆れつつも、俺への暴言を訂正しておく。
「随分失礼ですね。弟君が留年したのは度重なる素行の悪さが原因でしょう?ナートラ先生やその他の先生。そして王城からもしっかり注意を受けたはずですが、コンダック伯爵家は理解も出来ていないのですか?周りの方々はしっかり理解できていると言うのに。嘆かわしい」
俺が言うと、周りの方々はうんうんと頷いていた。
王城での痴態は、結構な目撃者が居るからね。
「で、でも。弟はただ挨拶に…」
「許可も取らずに公爵家の控室に押し寄せるなど、挨拶とは言いませんよ。コンダック家は許可も取らずに目上の方の所へ、ズカズカと押し寄せるのですか?さすがに礼儀知らずにも程が…」
困った様に言い淀んでやると、周りは信じられないと言う目でダリョを見ていた。
「わ、私とセルジオ様は特別な関係なんですわ!運命なんですの!」
遂に変な事を口走るダリョに、俺は頭の中で拳を鳴らす。
お?
俺のジェレミー兄様に喧嘩売ったな?
買ったるわ。
「ご冗談も程々にして欲しいですね。私の兄。そしてセルジオ様への侮辱ですか?運命?最近流行っていると言う、現実離れしたお話のヒロインにでもなったおつもりで?」
俺がそう言いつつ、後ろで事態を見ているキムートに冷たい視線を送ると、ビクッとする。
「な、何を言っているの!私はセルジオ様に見初められて、選ばれるのよ!きっと宝石も送ってくださるし、お食事だって誘ってくださるのよ!」
おー、ご病気でしょうか。
周りの貴族の方々も、呆れて冷たい視線を送っていると言うのに。
「見初められて選ばれたのは兄ですが…。揃いのモノが欲しいと、セルジオ様に宝飾品を贈られたのも兄ですし、評判のレストランに一緒にと誘われたのも兄です」
俺がそう言うと、ダリョはショックを受けた顔をしていたが、俺の周りの貴族令嬢達は贈り物はなんだろうと騒ぎ出す。
それを感じ、ハイリ嬢とケイクが話に乗ってくれる。
「まぁ!最近指輪以外も、お相手の方と揃いのモノを持つのが流行っているとは聞きましたわ。確かにお二人で素敵なバングルをされていたわね。素敵だわ~」
「はい、兄は十分過ぎるほど贈り物を頂いているのでと遠慮したのですが、セルジオ様が揃いのモノが欲しいとおっしゃって。お互いの瞳の色の宝石を使って作られていました。離れていても、相手を感じられる様にと」
「セルジオ様は、本当にジェレミー殿を愛されているんだね。私もハイリに何か贈りたいな」
「あら、嬉しいですわ」
セルジオ様のジェレミー兄様への溺愛を広めつつ、ハイリ嬢達が仲の良い婚約者達の会話をしてくれるので、周りにもこれが最近の仲の良い婚約者同士だとアピールする。
「素敵ね~。セルジオ様は浮いた話は無かったですし、昨日のパーティーまでジェレミー様を隠していたくらい溺愛しているって本当なのね」
「そうそう!ダンスパーティーでも、ご家族以外には踊らせない様に徹底されていたわ」
少しずつ人だかりが出来始め、何事かと話が広がっていく。
そして、ダリョ達への冷たい視線が増えていく。
461
お気に入りに追加
1,282
あなたにおすすめの小説
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな
七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」
「そうそう」
茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。
無理だと思うけど。
愛されない皇妃~最強の母になります!~
椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』
やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。
夫も子どもも――そして、皇妃の地位。
最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。
けれど、そこからが問題だ。
皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。
そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど……
皇帝一家を倒した大魔女。
大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!?
※表紙は作成者様からお借りしてます。
※他サイト様に掲載しております。
【BL】婚約破棄で『不能男』認定された公爵に憑依したから、やり返すことにした。~計画で元婚約者の相手を狙ったら溺愛された~
楠ノ木雫
BL
俺が憑依したのは、容姿端麗で由緒正しい公爵家の当主だった。憑依する前日、婚約者に婚約破棄をされ『不能男認定』をされた、クズ公爵に。
これから俺がこの公爵として生きていくことになっしまったが、流石の俺も『不能男』にはキレたため、元婚約者に仕返しをする事を決意する。
計画のために、元婚約者の今の婚約者、第二皇子を狙うが……
※以前作ったものを改稿しBL版にリメイクしました。
※他のサイトにも投稿しています。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
転生して悪役になったので、愛されたくないと願っていたら愛された話
あぎ
BL
転生した男子、三上ゆうきは、親に愛されたことがない子だった
親は妹のゆうかばかり愛してた。
理由はゆうかの病気にあった。
出来損ないのゆうきと、笑顔の絶えない可愛いゆうき。どちらを愛するかなんて分かりきっていた
そんな中、親のとある発言を聞いてしまい、目の前が真っ暗に。
もう愛なんて知らない、愛されたくない
そう願って、目を覚ますと_
異世界で悪役令息に転生していた
1章完結
2章完結(サブタイかえました)
3章連載
【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺
福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。
目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。
でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい…
……あれ…?
…やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ…
前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。
1万2000字前後です。
攻めのキャラがブレるし若干変態です。
無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形)
おまけ完結済み
王命で第二王子と婚姻だそうです(王子目線追加)
かのこkanoko
BL
第二王子と婚姻せよ。
はい?
自分、末端貴族の冴えない魔法使いですが?
しかも、男なんですが?
BL初挑戦!
ヌルイです。
王子目線追加しました。
沢山の方に読んでいただき、感謝します!!
6月3日、BL部門日間1位になりました。
ありがとうございます!!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる