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69 推しと怪しい貴族
しおりを挟む独身貴族に貴族令嬢数名をあてがって、食事やお茶会をするというのは聞いたことがある。
嫁を探していますと言う貴族に、集団見合いの場を提供する様なもんなんだよね。
高位貴族でも、たまにそんな催しのパーティーがあったりするからね。
そこに平民を入れたら、さすがに失礼にあたる。
平民から貴族に輿入れする事ももちろんあるけど、それは大きい商家だったり、やっぱり娼婦だったり。
意外ときちんと段取りをして、その代限りの爵位で結婚させたりするから、問題は無いんだけどさ。
「…セルジオ様。美味しい料理の後で言いにくいのですが、先程宝石店で、変な噂を聞きました」
「ん。私にも報告があったが、最近流行していると言うヤツか?」
おっとさすが。
ちゃんとセルジオ様達にも報告が行ってたんだね。
「はい。セーラ嬢は、お芝居は美しい演者で見栄えはするものの、やはり内容が納得出来ずそれきりになったと。しかし、その話を鵜呑みにして現実と一緒に考えてしまう令嬢もいらっしゃる様です。もしかしたら、その男性はお芝居の関係者なのではないでしょうか?」
「ふむ。なぜそう思う?」
「身分違いや、不貞をさも美談として扱っているモノは、昔からありますよね?そう言ったお話がお好きな令嬢もいらっしゃいます。賢い令嬢は、物語だと分かっていて楽しむものですが、そうでない令嬢は自分の姿をヒロインに重ねてしまうのではないでしょうか。そう言った女性を使って、物語に真実味を持たせようとしているのかも知れません」
セルジオ様は、真剣に頷きながら、俺の話を更に続けさせてくれる。
「恋に恋焦がれる女性達を巧みに誘い、平民の女性も輪に入れ、貴族達が集まる話題のレストランや宝石店に連れ回す。少しくらい騒いでも、きっとその男性は咎めもしないのでしょう。そして令嬢はまるで自分達は特別だと思い込む。そして、彼女達が恋焦がれる相手と鉢合わせさせ、運命だと思い込ませる。私に会いに来てくださったんだわと」
ジェレミー兄様も、セルジオ様も、真剣に聞いてくれている。
「そしたら、その女性達が勝手に動き始めるのではないでしょうか。その相手に婚約者が居ようが、その婚約者を悪者にして自分がヒロインだと振る舞い始めるんです。勝手な思い込みなのに、火の無い所に煙は立たないと周りが焚き付ける。そうやって、自分の劇団の売名と他の貴族への嫌がらせも兼ねているのではと。…例の男性貴族はキムート子爵でしょう。昔母上に叶わぬ恋をしていた貴族の一人ですよ」
コリーヌ母様に、横恋慕していた男。
その言葉だけで、セルジオ様の目に怒りの炎が見えた。
先程の宝石店の事も考えると、元々セルジオ様狙いだったんだとは思う。
兄様は昨日お披露目されたばかりだしね。
狙っていたセルジオ様と、コリーヌ母様生き写しのジェレミー兄様が婚約していると知り、舵をこちらに切り替えてきたのだろう。
よし、潰さないといけない様だね。
「…年頃の令嬢達の、流行病の様に考えていたが、確かに危険性は十分あるな。先日の騒動と一緒に王家へ進言しておこう。最近では、王子と身分違いの令嬢の物語もあると聞くからな」
それが良いでしょうと力強く頷く。
「出来れば、ジェレミー兄様と出歩く際は、周りにアピールしてみてはどうでしょう。先日このレストランでの騒動時はホセ兄様とフロル様は不在だった様ですし、ホセ兄様達にも進言しておきます」
ラブラブだよってアピールしまくれば、夢見る馬鹿も減るだろうし、どれだけ騒いでも周りから痛い目で見られるのはそいつらだ。
「それなら問題は無い。私はどこにいてもジェレミーの隣に居たいからな。進んでエスコートしよう」
「セルジオ様…。コリーヌ母様と私は違う人間ですのに、似ていると言うだけで私に近づこうとするなんて。怖いですが、セルジオ様が一緒にいてくださるので安心です。私もセルジオ様と一緒にいたいので…。あ、お仕事はきちんとなさってくださいね?」
「もちろんだよ。自分の責務を全うせずに、君に失望されたくないからね」
ムフーン。
良いね良いね目の保養だね!
ついついニマニマしそうになるけど、必死で我慢する。
「それと、私ももっと勉強し、魔術を習います。自分の身も守りたいですし、セルジオ様や家族。そして周りの皆さんも守りたいですから」
「ジェレミー…」
ジェレミー兄様!尊い!
もう、俺が手取り足取り教えるよ!!
俺の頭の中で、様々な極秘魔術が順番よく整列していく。
でも、教えたら引かれそうなヤツは、ちょっと隠しとかないとね。
「取り敢えず、先程宝石店にいたグループが近くのカフェテリアに居るのを見かけたので、帰る時は気をつけましょう」
「うむ。接触してくるかもしれないからな」
「十中八九接触してくるでしょう。なので、馬車に乗り込んだら近くの馬車置き場で少し待って頂いても?相手の出鼻を挫いて来ますので」
にこやかに言うと、ジェレミー兄様は苦笑したが、セルジオ様は力強く頷いてくれた。
先程ハイリ嬢達も居たから、挨拶がてら少し付き合ってもらおうかな。
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