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65 推し達と買い物
しおりを挟む夕方と言う事もあり、宝石店はピーク時程は混んでいないが、それでも食事前に宝石でもと訪れているカップル達や女性客達により繁盛していた。
俺達が店内に入ると、嫌でも視線が飛んでくる。
特に、セルジオ様は大変モテていたからね。
「ようこそいらっしゃいました。今日はどの様なモノをお探しでしょうか」
ランデバス公爵家の長男であるサイが、にこやかに話し掛けて来る。
彼とは、魔力を貯められる宝飾品の開発で何度も顔を合わせている。
セーラ嬢の兄で、物腰は柔らかいが芯が太く、父上に匹敵する迫力も持っている。
「ああ、婚約者と揃いのモノが欲しくて。指輪以外に何かおすすめのモノはあるかな?」
ジェレミー兄様の腰をしっかりと抱いて微笑むセルジオ様の答えに、周りの女性陣がチラチラこちらを見ている。
「それはそれは、素敵ですね。…そうですね、バングルや、カフリンクスとピンブローチのセットはいかがでしょう?統一感も出て、コーディネートが引き締まりますよ」
おおう商売上手。
セルジオ様が特注で作りたいと申し出たので、サイが別室へと案内する。
高額な買い物をしたり、高位貴族は別室で商談するのが普通だからね。
俺が自分の分を見ると言ってその場に残ると、セーラ嬢が接客に出て来てくれた。
「…公爵家になんでも強請ってるのね」
「辺境伯爵家なんて、貧乏なのよきっと」
「ふふ。見た目は良いが、恐ろしいな」
ヒソヒソと陰口を叩いている女性陣を見ると、特に美しくもない貴族令嬢達とでっぷりとした中年男性が、こちらを馬鹿にした様に見ている。
フンと鼻で笑ってやると、俺の反応が思ったのと違った様で顔を真っ赤にしていたが。
「ギル様も宝石を買いにいらしたの?」
セーラ嬢も彼女達の言葉を無視して、俺に話し掛けてくれる。
「ああ、セルジオ様がジェレミー兄様に宝石を贈りたいと言ってね。これ以上は頂けないと断っていたんだけど、揃いのモノが欲しいと。離れている時に少しでも相手を感じたいとおっしゃっていて。それなら私も何か探そうかと思ってね」
「まぁ、素敵ですわ。最近ペアで宝飾を注文される方が増えているの。お相手と揃いが嬉しいんですって。離れていても相手を思いたいなんて、とても愛されているのね。ダンスパーティーでの衣装も揃いで素敵だったもの!セルジオ様って愛した方には情熱的なのね~」
二人で令嬢達にも聞こえるように話すと、無言でこちらを睨みつけているのが分かる。
俺がテオと良い関係なのも知っているんだろうな。
「指輪やカフリンクス?」
「いや、バングルにしようかと。金にブラックダイヤを使いたいな」
「素敵!お互いの瞳の色ですわね!」
セーラ嬢は手際良く、宝石を並べて選ばせてくれる。
こちらの世界でもダイヤは高価だし、色付きは中々値段が張るが、俺お金あるから!
なんせ、色んな開発のお金が入ってくるからね。
「それでは。台座はこのデザインで。中央にはコレとコレかな。そして、こちらのランクの石でバングルを一周して欲しい。このデザインは私に登録して欲しい」
登録とは、同じモノが出来なくする方法で、揃いで作る人は大抵そうするのだ。
「さすが宝石の目利きも一流ね!コレとコレですわね?贅沢ね~。きっと素敵なモノが出来るわ。すぐに取り掛かりますわね」
セーラ嬢が笑顔で職人に宝石を渡すと、職人は頭を下げて裏の工房へ入って行く。
こちらは魔術も使うので、とても早く出来上がるのだ。
「それと、屋敷の使用人達にも贈り物をしたいんだけど」
「あら、魔力付きかしら?」
さすがセーラ嬢は話が早い。
魔力付きは、俺が開発に関わった防犯用にも使われる製品だ。
「そう。プラチナのドラゴンモチーフでルビーを使ったピンブローチを三十個程。それと、サファイヤを使ったモノを十五個。宝石のランクはこれくらいで。これも登録して、ルビーはジャメル領へ送って欲しい。支払いは報酬分で。足りない分は私の名義で構いません」
「うふふ。分かりました。お買い上げありがとうございます。手続きがございますので、どうぞ別室へ」
「ありがとう」
ジャメル領の使用人達もだけど、お祖父様の屋敷の使用人達にも贈らないとね。
王都に居る方が危険もあるから、防犯は大事だもん。
そう思いつつ、チラリと令嬢達を横目で見ると、少し青い顔をしていた。
俺が躊躇なく沢山の高価な宝石を、俺の報酬分と名義で買うって言ったから、俺がいかに金を持ってるか分かったんだろう。
俺の悪口は気にしないが、ジェレミー兄様やジャメル領の悪口を言ったら、どうなるか覚えておけよ。
そう思いつつ、俺は笑顔で別室へと入った。
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