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63 押し達と治験の成功に向けて
しおりを挟む魔力拒否証患者への治験は、魔力の高い俺達が近づかないよう、魔力に低いメイドやらが協力する事になっている。
俺が到着し、王様達も揃うと、各々挨拶を交わしジェレミー兄様が説明を始める。
会場は謁見の間で、広い空間に円を描く様にテーブルと椅子が並べられ、一族ごとに座っている。
その中央にテーブルが置かれ、ジェレミー兄様と俺が立って説明をする。
「こちらに、レッドドラゴンリーフを煮出した物を粉末にした粉があります。こちらを、ティースプーン一杯が一回の目安です。濃さは好みで結構です。暖かくしても、冷たくしても効果は変わりません。甘い香りがしますので、このままでも飲みやすいですが、蜜を入れても問題はないです。今回の治験では、十時と三時に提供致します」
お湯や水が運ばれてきて、家族にも試飲を配る。
王室魔術師達が、サッと毒などが無いかの鑑定をしてから、それぞれに提供される。
「まぁ!なんて良い香り」
「まるで木苺の様な香りだな。…うむ。味も良い。私は蜜が無くても飲みやすいな」
それぞれの家族にも好評な様だ。
集まっているのは、一人息子のエール五歳が治験者の、ドンク公爵の従兄弟にあたるセンテ伯爵家。
カントラ子爵家の四歳のムルスは、ナートラ先生のお孫さんだ。
今日は、息子夫婦だけが参加している。
そして、フロル嬢の実家のプラム伯爵家夫妻と、アームの兄であるパラン男爵家の夫妻だ。
今日は、アームも参加している。
「それでは、この薬湯をそれぞれに提供します。ギルが魔力拒否症に害の無い魔術を掛け、不正も出来ない様になっています。それぞれ入り口まで護衛に着いて行って中の様子も伺える形にしてあります。ギルの魔術に関しては、王室魔術師の方々に確認して頂きます」
堅苦しいが、王子の治療だしね。
これから十日間は俺とジェレミー兄様が通って、王室魔術師の方々にチェックしてもらう仕組みなのだ。
「確認しました。…素晴らしい魔術だ。陛下、それではそれぞれのご子息の元へお運びします」
サーガルド伯爵の合図で、それぞれにレッドドラゴンリーフが運ばれて行く。
取り敢えず一回目は無事に終わりそうだ。
これを三時にもう一回して、十日間か。
面倒だけど、皆の期待が掛かってるからね!
俺頑張る!
次の時間までは周りとの会談の様なものだ。
それぞれのご家族は、ジェレミー兄様や騎士見習いのロンに、治療中の話などを熱心に聞いている。
「…アーム。久しいな」
「兄様…。いえ、失礼しました。パラン男爵」
お、ここも接触してきたね。
取り敢えず、父様達が上手くやるんだろう。
「男爵はよしてくれ。ジャメル伯爵の所にお世話になっていたんだな」
「…はい。一家でとても良くして頂いています」
「そうか」
現当主のパラン男爵は、王室魔術師の一人でもあり、優秀で優しそうな男性だ。
アームが姿を消してしまった時は、随分心配していた様で少し老けてしまったと聞く。
「たくさん。ご心配をお掛けしました…」
ちょっと気まずそうな空気になりかけた時、父様が会話に入る。
「パラン男爵。アームは、レッドドラゴンリーフ薬草園の責任者をしてもらっています」
「なんと…。そんな重大な仕事を?」
シャル様からジャメル領に居るとは聞かされていた様だが、責任者とは思わなかったみたい。
「はい。初めの葉が生えるまでは、昼夜寝る間を惜しんで夫夫で管理してくれました。その後の管理や、粉末までの工程も、二人が主に取り仕切ってくれています。我々にとって、とても大切なビジネスパートナーですし、言葉は分からなくともレッドドラゴンからの信頼も得ています。私が口を挟むのは失礼ですが、どうか二人を認めてやって欲しいのです」
父様の言葉に、パラン男爵はホッとした様に頷いている。
「もちろんですとも。…アーム。君は自分で居場所を手に入れたんだな」
「…兄様」
「私も父も、君が可愛くて。良い所に嫁に出す事こそ、良い未来が約束されると信じていたのだ。確かに、君の行動は褒められたモノではないが、こうやって素晴らしい偉業に参加し、貢献したんだ。父には私から話をしてある。今度は、夫夫。いや、娘も一緒に顔を見せにきて欲しい」
「兄様っ。ありがとうございます」
うっすらと涙を浮かべるアームの頭を、パラン男爵は優しく撫でる。
「お礼を言うのはこちらの方だ。聞いたよ。私の娘の病状を聞き、リーナイト公爵とジャメル伯爵に懇願してくれたのだろう?ありがとう。娘に薬が届くのは、もっと後だろうと思っていた」
うんうん。
良かった。
アーム夫夫には本当にお世話になったんだ。
少しでも、三人が生きやすくなってくれたらそれで良い。
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