転生腹黒貴族の推し活

叶伴kyotomo

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59 推し達との商談

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こちらに、オルネス伯爵がアイラ夫人と長兄のリックと共に歩いて来る。

カイトは夫人似なんだなと思うくらいそっくりで、柔らかく微笑んでいる。

オルネス伯爵は金髪黒目でホリが深く、背の高いイケオジだ。

そして長兄は瓜二つだ。

オルネス伯爵家は食品関係での輸出入で功績を上げており、帝国にも太いパイプを持っている。

伯爵の弟が帝国の公爵家に嫁いでいる事も関係あるんだろう。

「テオドール殿下。初めまして。帝国のコーチ公爵家に嫁いだバイクの兄です」

「ああ、バイク殿の兄上でしたか。コーチ公爵は大変勤勉で、彼を支えるバイク殿は良い伴侶として有名ですよ」

「ありがとうございます」

そうそう、コーチ公爵だ。

帝国の台所を仕切っていると言う、やり手のとこか。

まず伯爵は、テオに挨拶をして、俺や周りに頭を下げつつ、セルジオ様に向き直る。

「セルジオ様。私の息子を雇ってくださるとか」

「はい。カイトはギル殿が推薦する程優秀な魔術師の様ですしね。それに、ジャメル領に行く機会も増えるので、フロルにとってもありがたい。是非商会で働いて欲しい」

反対されるのかな?と思いつつ様子を見ていると、オルネス伯爵は少し渋い顔をしていた。

「とてもありがたいお話です。輿入れも延期になったので、家でゆっくりさせ様と考えていたのですが、妻と本人には反対されまして。しかし。フロル様に会いに行くのは良いのですが。うーむ。ジャメル領には彼奴も…」

うんうんとリックが力強く頷いている。

カイトは苦笑いしているが。

あ、成程ね。

カイトは家族にめちゃくちゃ可愛がられている系末っ子な訳だ。

そんな可愛い末っ子を悲しませた、ベルガーにやはり不満があるんだろうな。

「あなた。ベルガー殿もジャメル領で随分鍛えられていると聞いていますわよ?屈強で知られる辺境騎士団について行けているんですもの。きちんと更生して下さると信じましょう?」

「ううむ」

夫人に咎められ、それでも苦虫を噛み潰した顔だ。

おおっと、まさかここで躓くとは思わなかったぞ。

しかし、ホセ兄様が苦笑しながら会話に入ってくれる。

「オルネス伯爵。ベルガーは中々筋が良いですよ。周りの騎士団員にも事情を話してあるので、すっかりシゴかれていますが、腐らずに日々鍛錬しています。若気の至りとは言え、カイト殿を悲しませたのですから十分反省させています。どうか、彼と私を信じて頂けませんか」

「うむ。ホセ殿がそれ程言ってくださっているのなら…」

「あなた。若い頃には誰だってヤンチャしたり格好を付けてみたいものでしょう?あなたも無かったなんて言わせませんわよ?」

それでも何か言いたげな伯爵に、夫人がピシャリと釘を刺す。

「うう」

「ね、カイト。王都ではなくジャメル領にお邪魔したら、今までとは違った空気でお話も出来ると思うわ」

「母様…」

「そこで他に素敵な方を見つけて来てもいいのよ」

「か、母様!」

さすがと言うか、カイトの母上は強かった。

真面目に息子を思いながら、そして冗談を言いつつも、こちらの話が進みやすい様に事を運んでくれる。

これが出来る夫人と言う奴か!

「んん。アイリの言う通りだな。話が脱線して申し訳無い。息子をよろしく頼みます」

やっと正気に戻った様で、顔を赤くした伯爵はセルジオ様に頭を下げる。

良かった良かったと、顔には出さず微笑んでおく。

テオも、例の令嬢のせいだと分かっているから苦笑いだしね。

「話がまとまった様で良かった」

そこに、シェル様と父様がやって来る。

どうやら、他に数名の治験者を集め終えた様だ。

そろそろお開きの時間も近づき、それぞれの控室に向かう者もチラホラ見える。

「さて、我々もそろそろ帰る支度をしよう」

シェル様の声で、皆頭を下げて控室に向かう。

テオは、国賓なので名残惜しそうにオール殿下に連れられて行く。

俺は笑顔で見送り、父様達に続く。

その前に、ハイリ嬢に声を掛けておこう。

「プラム伯爵。ハイリ嬢」

「あら、何か忘れ物かしら?」

不思議そうなハイリ嬢と父親のプラム伯爵に、大切な話を告げる。

「はい。レッドドラゴンリーフの治験に、是非弟君も参加して欲しいのです」

そう言うと、いつも完璧な令嬢のハイリ嬢の瞳が大きく揺れる。

そう。

ハイリ嬢の末の弟も魔力拒否症だった。

「…良いのかね?ターン殿下も参加されるのだろう?」

プラム伯爵の遠慮がちな声に、やはり優先順位をきちんと理解しているプラム家に好感が持てる。

ハイリ嬢だって、俺のクラスメイトだし、恩恵を先に受けたいと訴えても良かったのに。

「もちろんです。明日にでも開始しようと思っているので、既にご自宅には使いを送る手筈が済んでおります。パーティー後でお疲れの所申し訳ありませんが、詳しい内容はそちらに」

「いいや、こちらこそありがたい。ハイリ。このまま真っ直ぐ帰宅しても?」

「…ええ。もちろんですわ。ギル様。ありがとうございます」

いつも感情を出さない完璧な令嬢が、少し涙声になっている。

良かった。

俺は頭を下げて挨拶を終え、ホセ兄様とフロル様が待っていてくれたので、そのままリーナイト家の控室に向かう。

さて、今からはお祖父様の家で説教と、明日の段取りだな。

忙しくなるぞ。





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