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56 推しとの社交
しおりを挟むダンスホールにこっそり戻りたかったが、テオが居るのにこっそりなんて無理だよね。
そう思い覚悟を決めてホールに戻ると、第二王子のマクドル殿下が令嬢達のダンスのお相手をしていた。
マクドル殿下は騎士であり鍛えられた体が逞しく、令嬢達に人気がある。
どうやら俺たちが会場に帰りやすい様に、自ら目立ってくれていたようだ。
皇太子であるオール殿下は、ドンク公爵家の三男が婚約者候補と発表されたばかりなので、マクドル殿下の人気は急上昇中だからな。
それでも注目を集めつつ、俺たちは会場に戻る。
俺はテオにエスコートされながらだったが。
「オール殿下…」
「リーカイ。君をエスコートもせずにすまない」
「いいえ。今日は大変でしたでしょう?お疲れ様です」
お、オール殿下の婚約者候補だ。
オール殿下に話しかけてきたのは、ドンク公爵家の三男リーカイだった。
美しく長い黒髪と、緑眼の色気のある美人で、オール殿下より二つ上だったかな。
魔術に長けており、今は王城の魔術師として活躍している。
元は隣国の貴族と縁談が出ていたそうなんだけど、オール殿下はずっと好きだったみたいで。
押せ押せどんどんしたみたいだ。
婚約者候補と言うより、決まっている様だが、周りはうるさいのも多いみたいだし、皇太子も大変だよね。
「ありがとう。テオドール殿。ドンク公爵家の次男で私の婚約者のリーカイです」
「リーカイ・ドンクと申します」
リーカイが挨拶をしている間、他の貴族から白い目が向けられている。
どうやら、オール殿下が忙しく走り回っているのを良い事に、エスコートもされない候補と笑われていた様だ。
本人は気にもせず、気丈に振る舞っていて大変好感を持てる。
「ああ、あなたが。オール殿を連れ回してしまって申し訳ない。オール殿は早く問題を終わらせて、君とゆっくりダンスを踊りたいと嘆いていたよ」
テオが綺麗にウインクしながら言うと、リーカイは嬉しそうに微笑んだ。
あらら~年上だけども可愛い!!
コレは推せる!!
リーカイ様だな!
俺がポーカーフェイスの下で一人フンスフンスしていると、オール殿下も照れた様にテオを咎めていた。
「テオドール殿。それでは…リーカイ。私と踊って頂けますか?」
「はい。喜んで」
オール殿下の誘いに、リーカイ様は嬉しそうに微笑んで、二人は並んでホールに歩く。
リーカイ様を笑っていた貴族達は、バツが悪そうにしていてスカッとした。
「さて、我々も社交をしないとな。ギルは嫌かもしれないが、学友達に紹介してもらいたい」
「うーん。まだ婚約者でもない貴方を紹介はしずらいけど…」
「おや?私はフラれてしまうのか?」
「ふふふ。まさか」
もう吹っ切れた俺は、取り敢えずテオとの仲睦まじさを周りにアピールする事にした。
確かに前途多難だけど、隣国のギルドで沢山苦楽を共にしたテオの横は、俺が立っていたいんだよね。
取り敢えず、ワクワクと俺達を見ているクラスメイトの所に行こうと思った時、ダイヤ公爵家のアルミス達と目が合う。
周りからは距離を置かれている様だが、婚約者同士でしっかりと背筋を伸ばし気丈に振る舞っている。
どうやら近くにダイヤ公爵は居ない様だ。
「テオ。彼も例の令嬢の被害者なんだ。挨拶をしても良いかな?」
「もちろんだ」
小声でテオに確認を取り、テオに腰を抱かれたままアルミス達に近づくと、周りは好奇の目で見ている。
「テオドール殿下。こちらは私の優秀な後輩達である、ダイヤ公爵家のアルミス様と婚約者のスーダ伯爵家のジェフ殿です」
「初めてまして。ダイヤ公爵家のアルミスと申します」
「婚約者のスーダ伯爵家のジェフです」
二人は急な要人の登場に緊張していたが、テオは優しく微笑んだ。
「マラサッタ帝国のテオドールだ。君達には我が国の失態で迷惑を掛けたな」
「いいえ。兄の愚行を止められなかった我が家にも責任がありますから」
少し悲しそうに話すアルミスを、ジェフがしっかりと支えている。
テオが俺をチラリと見るので、俺は周りの貴族に聞こえるように話だす。
「アルミス様はこちらに十分協力してくれました。それに今回の令嬢の件は、ダイヤ公爵家ばかり責められるのはおかしな話です。不埒な行いをした者は、他にも居ますからね。テオドール殿下。二人は本当に勤勉で優秀なんです。二人が公爵家を継いだ後は、きっと今まで以上に我が国に貢献し、功績を上げるでしょう」
ダイヤ公爵にも借りを作っといてやろう。
そう思いつつ、俺は二人を手放しで褒める。
実際二人は優秀だし、父親やあの馬鹿兄貴より上手く公爵家を盛り立てて行くだろうしね。
「ふむ。ギルがそこまで褒めるのだから、きっとそうなのだろう。兄の件で苦労する事も多いだろうが、ギルの様に二人の活躍に期待している者は多いはずだ。私もその内の一人になろう」
「…っ!ありがとうございます」
嬉しそうに頭を下げる二人にそれではまたと挨拶を終えると、俺はクラスメイト達の輪へ近づく。
皆が目をキラキラさせているのは幻覚では無さそうだ。
「殿下。私のクラスメイトの方々です」
「マラサッタ帝国のテオドールだ。卒業おめでとう。今回こうやってギルとの会話に参加させてもらう」
取り敢えず皆を紹介しつつ、テオとの社交を始める。
例の令嬢の愚行をお互いに謝罪しつつ、俺の発明したモノや開発したレシピの話などで盛り上がる。
「こんな事をお聞きしてよろしいのか分かりませんが、テオドール殿下はもしやギル様の?」
ワクワクしたようにハイリ嬢が核心を突いてくると、テオが飛び切りの笑顔を見せる。
「そう願っている」
「「「「「キャ~ッ!」」」」
黄色い歓声が上がる。
輪の外からは敵意剥き出しの視線も感じるが、俺って心臓に毛が生えてモッフモフだからなあ。
ちょっと騒がしくなりそうだと、内心ため息を吐きつつ俺はクラスメイト達との交流を続ける。
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