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50 推しとダンス
しおりを挟むギーって言った!!
驚いて顔を見上げると、イタズラっ子な顔をしたテオがいた。
周りもザワザワしており、お祖父様達は俺を凝視している。
さて、どうするか。
「…リネー伯。よろしいでしょうか」
俺があれこれ考えている間に、テオはお祖父様に向き直って聞く。
俺の今日のパートナーがお祖父様だと言う事も分かっているんだろう。
お祖父様は柔らかく微笑み、テオに頭を下げた。
「大変光栄です。我が孫は、私意外とダンスをする予定がありませんでしたので」
「ほう。それでは私が独占しても問題はなさそうですね」
そうこうしている間に、ダンスの曲が終盤に掛かり、人が入れ替わり始める。
テオにスッと腰を抱かれ手を取られ、俺はそのままダンスホールへ足を運ぶ。
貴族の性か、とりあえず周りに笑顔を振り撒きつつ、俺はテオと共にホールの中央付近に立つ。
テオにアピールしたい令嬢令息が、親や兄弟とここぞと周りにダンスを組んでいるが、テオの視線は痛い程俺の頭に突き刺さっている。
今回のダンス曲のなかでも、特にゆったりとしてムーディーな音楽が流れ始めると、俺とテオはゆっくりとステップを踏み始める。
周りは姿勢やターンを美しく決めているが、やはりテオは俺しか見ていないようだ。
意を決して、スッと視線を上げると、バッチリと目が合った。
「…怒っているのか」
ずっと無言の俺に、テオは困った様に苦笑いをする。
貴族ではない顔に、胸の鼓動が大きくなる。
「…いいえ」
「…良かった」
そのまま、見つめ合ってダンスを続ける。
「ダンスが終わったら、話がしたい」
「…あなたと二人きりになるのは難しいと思います」
テラスに出て内緒話をしている人達もいるが、さすがに帝国の皇帝弟と二人きりは難しいだろう。
「なら、ご家族と一緒に」
「…?何の話を?」
俺の問いに答える前に曲が終わり、向き合ってお辞儀をする。
周りでは次は自分だとばかりに、見目の美しい令嬢令息がテオににじり寄って来る。
しかし、テオはすぐに俺の手を取り、ダンスのポーズを取る。
「もう一曲踊ろう」
「え、あ、はい」
周りの落胆ムードを一切気にせず、テオは俺の腰を抱き寄せる。
チラリと周りを見れば、キーッと悔しそうにハンカチを噛む令嬢令息に吹き出しそうになる。
「…他の方と踊らなくても?」
「必要ないからね。ギーは誰か予定でも?」
「いいえ。壁の花になる予定でしたので」
「おや。ステップも姿勢もキレイなのに。ダンスは嫌いか?」
ステップも何も、テオのリードが完璧で俺も上手に見えているだけなのだが。
「踊るお相手もおりませんし」
「こんなに魅力的な君を、誰も誘わなかったのか?信じられないな」
くるりと俺の体ごと軽々とターンを決めるテオに、周りは感嘆のため息をつく。
「ふふ。私を誘う勇気のある方は中々いらっしゃらないんですよ」
「ほう?最優秀卒業者でレッドドラゴンリーフの貢献。例のサンドカラの令嬢の件。これ以上ない程の優秀で慈悲深い君の魅力が分からないなんて」
「私は強くて怖いですから」
ニッコリ笑うと、テオも笑う。
「まさか。ギーは変わらず真っ直ぐで強くて、家族思いで美しい。そして可愛いよ」
やだ。
推しが俺を全肯定してくれてる。
胸がキュンキュンしているのを顔には出さず、俺は小さく微笑んで返す。
二回目のダンスが終わり、お互いお辞儀をすると、グイッとテオに腰を引き寄せられる。
「…まだ踊りますか?」
「君となら朝まで踊りたいが。…お父上はどちらに」
どちらにと聞きながら、テオは右手は俺の右腰に添え、左手は俺の左手を握りながら父様達の方向へ歩き出す。
俺とテオが二曲も踊っている間に、父様達の元に家族やオール殿下も集まっている。
「ギー。また私をテオと呼んでくれるかい?」
いたずらっ子の様なテオが、とても眩しく見えた。
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