転生腹黒貴族の推し活

叶伴kyotomo

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48 推しと帝国の皇子

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テオドール・マラサッタ。

王に紹介された、マラサッタ帝国の皇帝弟。

背が高い美丈夫で、貴族にしては大層逞しく、美しい銀髪を後ろに撫で付け真っ黒な瞳も顎髭もセクシーだ。

帝国の正装であるイブニングコートは、黒地に銀色の刺繍が美しく、胸には黒い宝石が輝いている。

「あの方が?なんて素敵な方なのかしら」

「本当に!こちらには例の令嬢の謝罪の他に、お相手を探しに来たとか」

「あら~!どなたか良い方がいらっしゃるのかしら」

皇帝弟の登場に、周りは一気に沸いている。

あれだけの色男で皇帝の弟。

嫁ぎたい令嬢令息も、嫁がせたい貴族も多いだろう。

皇帝弟は、にこやかに王族と会話を楽しみながら、用意された来賓用の席に腰掛ける。

誰かと踊るつもりは無いのだろう。

俺は、サッと目を離し、お祖父様とダンスの準備に入る。

「ギルは、私と踊った後は誰か予定があるのか?」

「そうですねぇ。父様やホセ兄様と踊ろうかと考えていましたが、今日は父様達を見ていようかと。私を誘う勇気のある方はいないでしょうし」

「うーむギルらしいな。良いだろう」

「ですが、ジェレミー兄様はセルジオ様、父様、ホセ兄様の順で踊る事になってます。四回目はここぞと他の男が狙ってくるでしょうから、その時はお祖父様が名乗り出て下さるとありがたいのですが」

「うむ。そうしよう」

ジェレミー兄様がセルジオ様と共にダンスのホールドを組むと、周りもチラチラ見ているのが分かる。

近くには、父様とシェル様、ホセ兄様とフロル様がいる。

俺は少し離れた所で、お祖父様と手を繋ぐ。

音楽隊が美しい演奏を始めると、一気にダンスホールになった。

踊るのは基本的にワルツであり、ゆったりと美しく見える様に踊る。

お祖父様のエスコートも上手で、特に問題なくステップを踏んで行く。

周りはコソコソと会話しながら踊っていて、和やかな雰囲気である。

「…ダンス中に会話をする余裕を持つくらいが良いのだ」

「一曲目で終わる場合は、壁に下がれば良いんですか?」

「まあそうだな。軽食も準備されているから、軽く摘んでも良い」

そんな会話をしているうちに、一曲目が終わり、俺とお祖父様はさっさと壁際に下がる。

ペアが交代したようで、父様とジェレミー兄様、フロル様とセルジオ様、ホセ兄様とシェル様がそれぞれ踊り出す。

「…兄様達と踊らなくて良かったのか?」

せっかくの卒業前のパーティーだと言うのに。

お祖父様は俺が遠慮しているように思ったようだが、俺はそこまでダンスが好きな訳では無いし、踊っている父様達を見ている方が楽しいと告げる。

「ギルには春はまだ来ぬなぁ」

「どうでしょうねぇ」

そう言いつつ、チラリと来賓席に目をやると、皇帝弟はこの場を楽しんでいる様で、ダンスをする貴族達を眺めていた。

テオ。

テオだよね?

俺に待っていてくれと言った、テオだよね?

胸がキュッと痛くなるが、顔には出さず視線を外す。

俺が貴族を隠していた様に、テオも皇帝弟という立場を隠して活動していたんだね。

そりゃ皇帝の上の弟の情報も出回らないワケだ。

噂では腕の立つ騎士だと言われているが、本当は街に出て冒険者として活躍していたのだ。

その方が情報は入りやすいし、自分の身も隠しやすかったんだろう。

テオとの思い出がぐるぐるしていると、二回目、三回目のダンスも終盤に差し掛かる。

「…お祖父様」

「うむ」

ジェレミー兄様がホセ兄様とお辞儀をし合ってダンスの終わりを告げていると、周りにはソワソワと男達が集まっている。

どこぞの貴族の息子から、コリーヌ母様に片想いしていたであろう貴族まで。

いやお前ら夢見んなよ。

誰が声を掛けようかと伺っている中、お祖父様は風を切るようにジェレミー兄様に歩み寄る。

「ジェレミー。私と踊ってくれるか」

「!!はい。もちろんです」

周りの空気に戸惑っていたジェレミー兄様も、お祖父様の登場のホッとした笑顔を見せる。

「…いやいやリネー伯。ここは我々にも譲っていただけませんか」

「そ、そうですよ。是非とも我が息子と…」

ここぞとグイグイくる貴族達に、お祖父様は眉を顰めてみせる。

「なんだ。私が孫と踊る事が問題でも?」

そうだ散れ散れ!!

俺が薄ら笑いをしながら睨み付けると、気が付いた者はサッと下がる。

「で、ですが…」

「まぁまぁ。愛妻と愛娘にそっくりな孫とのダンスだ。ゆっくり楽しませてやってくれんか。さ、セルジオ殿もこちらで話そう」

なおも食い下がろうとする貴族に、ナートラ先生が注意をすると、さすがにそれ以上は言えないようで渋々下がった。

ナートラ先生はダンスをとにじり寄って来そうな令嬢達から、守る様にセルジオ様を連れて下がり、隣に来て俺にウインクしてくれたので頭を下げておく。

そうなのだ。

亡くなった愛妻、愛娘に生き写しなのだ。

お祖父様がダンスに参加するのも久しぶりなんだから、ゆっくり楽しんでもらいたい。

音楽が始まると、二人を見てご高齢の貴族の方々が話しだす。

「…本当に、奥様とご令嬢にそっくりで…」

「ご病気が治癒されて、こうやって踊れているんですもの。リネー伯爵も感無量でしょうね」

中には目にハンカチを当てているご婦人もいる。

「…君のお祖母様のダニエラも、皆に慕われていたからな」

「そうなんですね」

「公爵家とジェレミー殿の婚約を非難する貴族もいるかもしれないが、リネー夫婦を知っている先代やらが口を出してくれるだろう」

ナートラ先生はそれだけ告げると、セルジオ様を置いて、会話を楽しむために友人の輪へ入っていった。

「…ナートラ先生はさすがだな」

「ふふ。セルジオ様もおモテになりますからね。私の話し相手という体でここで兄様達を待ちましょう」

俺がそう言って魔法で毒が入ってないか確認したワインを差し出すと、セルジオ様は苦笑する。

「ギルは、誰かと踊らなくて良いのか?」

「特にダンスは得意では無いですし。周りを見ている方が面白いですね。…ちなみにジェレミー兄様をダンスに誘おうとしたフランデ伯爵家の息子は、我が家を田舎者と馬鹿にしていた男の一人です。実家は兄が継ぐ様ですが、兄も同じ様な考えでしたね。父親がコリーヌ母様に横恋慕していた一人の様です」

「ほう…」

「特に目立った功績はありませんが、王都外れの娼館で暴れたとの情報は入っています」

「ふむ、詳しく聞こう」

そんな風に、ジェレミー兄様を気にしながらセルジオ様と会話を楽しんでいる俺は、熱い視線を受けている事に気が付いていなかった。


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