49 / 247
47 推しと元貴族
しおりを挟むウォーク夫妻が連行されると、オール王子が皆の前に出る。
「ウォーク伯爵夫妻の悪行は、娘のカイラにより全て明かされている。二人は今後パニ伯爵と共に処罰を受ける。嘆かわしいことに、二つの家と同じ様に動いていた貴族も数名確認が取れた。取り敢えず、今回の膿出しは以上だ」
王子の言葉に、心当たりがありそうな貴族は顔を青くしているが、他の貴族は頷いている。
こんなやりとりが毎年あるとか怖いわ。
もちろん今回の様な大捕物は数年に一回あるか無いからしいけどね。
「ウォーク家の爵位は一旦王家預かりとなり、先代の子息はドンク公爵家預かりとなった。夫妻の娘であるカイラは今後取り調べを受け平民となる。それでは皆、ここからはパーティーを楽しいんで欲しい」
王子の声に、皆は頭を下げ、カイラは衛兵と共に部屋の外に出て行こうとする。
「…姉様っ!」
双子は揃って姉の元を追いかける。
「…私はもう、姉ではありません」
「!!」
「…どうか、幸せに」
双子を振り返りもせず、カイラはそのまま衛兵に連れられて行く。
静かに涙を流す二人を、ドンク公爵夫人が優しく慰めていた。
俺はそれを、静かに見ていた。
「…ギルや。彼女を知っているのか?」
お祖父様の言葉に、いいえと笑顔で答えると、お祖父様はそうかと納得してくれた。
嘘だと分かっていてもそれ以上は聞かないお祖父様の優しさがありがたい。
カイラとは、隣国のギルドで初めて会った。
その時は既に腕を切り落とし、双子にはその事は告げずに両親を騙すよう指示していた。
最優秀クラスに入れば、両親が嫌がらせをするだろうと、目立たないように指示をし、陰で二人にしっかり教育を受けさせていた。
俺の事も知っていたが、周りには何も話さずにいてくれたのも、大変ありがたかった。
国では母親の言う通りに着飾っていたが、隣国では顔半分をマスクで隠し、パンツ姿でさながら女性騎士だ。
周りの人にも分け隔てなく接し、ギルドでは魔物討伐などを行い金銭を集めていた。
その金銭を使い、両親や他の貴族の悪行を暴く準備に奔走していたのだ。
『両親の悪事を暴き、双子にきちんと爵位を譲りたい。サンジカラと繋がりのある貴族の動向も把握している』
『そしたら、あなたにも処罰が下るのでは?』
『覚悟の上だ。…私は元はしがない貴族の娘。聡明だった先代の死後、混乱の中で私の父が後を継いでしまった。お祖母様が存命中は静かにしていたが、やはり両親は欲深く派手好きであったから。双子には辛い思いをさせてしまった。私の様な姉は居なかった事にして、幸せになってもらいたい』
俺は彼女の強さに胸を打たれた。
そして、血は繋がらなくても兄弟を救いたいと言う気持ちにとても賛同したのだ。
俺の力も使い、ウォーク伯爵家とパニ伯爵家の繋がりや、サンジカラの絡みを調べ上げ、今日の日に至った。
『私は、運よく処罰を免れたらこの国を出て行こうと思っている』
『どこへ?』
『マラサッタから、ラッカルへ行こうと思っている。何度かパーティーを組んでいる人にラッカルで冒険者として暮らさないかと誘われていてね。私の話も全て受け止めてくれた。向こうで、新しく生きていこうと思う』
『…そうか。あなたが処罰を受ける事になったら、俺が全力で抗議するよ』
『ふふ。ありがとう。でも、その時は貴族として罰を受けるよ。君は私の事を口にしない方が良い。協力に感謝する』
貴族ではなくなるという彼女が、貴族に相応しいとは皮肉な話である。
「ギル、そろそろダンスが始まる」
「はい」
お祖父様に誘導され、俺は目立たない場所へ移動する。
ダンスが始まれば、国外からのお客様もゾロゾロ移動してくる。
「上の二人はお相手が決まっているが、ギルは一人だからな。レッドドラゴンリーフの事もあり、お前に婚約を迫る者も出てくるだろう。ダンスの誘いは無理に乗らなくて良いぞ」
「分かりました。…私を誘う勇気がありますかね」
「うーむ。それも問題だがの」
お祖父様との会話を楽しみながら、音楽隊の準備や来賓の登場を静かに待つ。
「お聞きになって?マラサッタ帝国の皇帝弟君がいらしているんですって!」
「まぁ!今回の事で?」
近くの令嬢達がきゃっきゃと話をしている。
リリーの件での謝罪も含め、位の高い貴族が来るであろうとは思ったが、まさか皇帝の弟を寄越すとは。
そこまでしたらこちらも文句を言えないな。
「皇帝には弟殿下が二人と、妹殿下が二人いらしたわね?」
「妹殿下は二人とも嫁がれているわ。下の弟殿下もラッカルから婿を取ったようで、今回いらっしゃるのは上の弟殿下かしら」
「あら、上の弟殿下はあまり表に出てらっしゃらないわよね?以前帝国の皇帝閣下達の従姉妹にあたる公爵令嬢が、上の弟殿下の子供を成したと話題になったけれど…。殿下のご子息ではなかったとか」
「そうそう。公爵令嬢の嘘だったそうですわ。診断の結果も違った様で、隣国に訪れた時は騒ぎになっていましたもの」
「あらぁ。素敵な女性だと聞いていたけれど…」
ワイワイとゴシップ話に花を咲かせる令嬢達の言葉に、確かに皇帝の弟の情報は少ないなと思い出す。
妹達は近隣の国の王族へ嫁に出て、下の弟はラッカルの貴族を婿に迎えて公爵の爵位を授かったと聞いている。
皇帝は息子が三人いて後継も決まっているから、上の弟は独身貴族なんだろう。
そんな事を考えていると、王族の入室になり、王がそれぞれ来賓の紹介を始めた。
あーはいはいと思いながら、俺は一応視線を向ける。
「本日は多くの来賓が来ている。皆無礼の無いように。ラッカルからは…」
一人一人紹介されて行く中、最後に紹介されるであろうマラサッタからの来賓に目が止まる。
「え?」
「どうしたんだい?ギル」
「あ、いや。ええと…」
俺がそれ以上声を出せずにいると、お祖父様が心配そうな顔をする。
それでも、俺は最後に王の隣に並んだ男から目が離せない。
「マラサッタ帝国からは、皇帝閣下弟君の、テオドール・マラサッタ殿下がいらしてくれた」
472
お気に入りに追加
1,282
あなたにおすすめの小説
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな
七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」
「そうそう」
茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。
無理だと思うけど。
愛されない皇妃~最強の母になります!~
椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』
やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。
夫も子どもも――そして、皇妃の地位。
最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。
けれど、そこからが問題だ。
皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。
そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど……
皇帝一家を倒した大魔女。
大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!?
※表紙は作成者様からお借りしてます。
※他サイト様に掲載しております。
【BL】婚約破棄で『不能男』認定された公爵に憑依したから、やり返すことにした。~計画で元婚約者の相手を狙ったら溺愛された~
楠ノ木雫
BL
俺が憑依したのは、容姿端麗で由緒正しい公爵家の当主だった。憑依する前日、婚約者に婚約破棄をされ『不能男認定』をされた、クズ公爵に。
これから俺がこの公爵として生きていくことになっしまったが、流石の俺も『不能男』にはキレたため、元婚約者に仕返しをする事を決意する。
計画のために、元婚約者の今の婚約者、第二皇子を狙うが……
※以前作ったものを改稿しBL版にリメイクしました。
※他のサイトにも投稿しています。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
転生して悪役になったので、愛されたくないと願っていたら愛された話
あぎ
BL
転生した男子、三上ゆうきは、親に愛されたことがない子だった
親は妹のゆうかばかり愛してた。
理由はゆうかの病気にあった。
出来損ないのゆうきと、笑顔の絶えない可愛いゆうき。どちらを愛するかなんて分かりきっていた
そんな中、親のとある発言を聞いてしまい、目の前が真っ暗に。
もう愛なんて知らない、愛されたくない
そう願って、目を覚ますと_
異世界で悪役令息に転生していた
1章完結
2章完結(サブタイかえました)
3章連載
【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺
福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。
目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。
でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい…
……あれ…?
…やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ…
前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。
1万2000字前後です。
攻めのキャラがブレるし若干変態です。
無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形)
おまけ完結済み
王命で第二王子と婚姻だそうです(王子目線追加)
かのこkanoko
BL
第二王子と婚姻せよ。
はい?
自分、末端貴族の冴えない魔法使いですが?
しかも、男なんですが?
BL初挑戦!
ヌルイです。
王子目線追加しました。
沢山の方に読んでいただき、感謝します!!
6月3日、BL部門日間1位になりました。
ありがとうございます!!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる