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46 推しと気高き貴族
しおりを挟む「カイラ!?あ、あなたその格好は何!?髪はどうしたの!!」
いきなり登場した愛娘の格好に、ウォーク夫人は狼狽する。
カイラ・ウォーク。
現ウォーク夫妻の娘であり、ヤンとヨンとは血の繋がらない兄弟である。
素行が悪いと噂されていたが、見た目は茶色の長い髪と瞳のふくよかな令嬢で、顔立ちは悪くなかった。
母親の趣味らしい派手なドレス姿が印象的だったのだが、今は全く違う。
化粧っ気は全く無く、長い髪はショートに切られ、ドレスではなく黒いシャツとスラックス姿である。
「どうしたって言うの!?お母様の用意したドレスはどうしたの!?宝石は!?」
狼狽しすぎて周りが見えなくなっている夫人の手から、魔術を使って玉を奪い取ると、やっと冷静になったようで、俺を睨み付けてくる。
「それだけじゃ何も出来ないわよ!カイラ!!あなたの腕輪で、あいつらに痛みを与えるのよ!!」
腕輪。
そのワードに、周りは更に騒然となる。
本来の奴隷具は、主人が操作する玉を持ち、複数人の奴隷に指示や罰を与えるのだが、特殊なタイプは指示や罰を与える枠を増やす事が出来る。
その一つの道具が腕輪なのだが、腕輪付き奴隷具と呼ばれ、これが厄介なのだ。
「なんと、娘を通して双子を支配していたのか!」
「腕輪付きとは、やはりサンジカラとの繋がりがあるのか!」
周りが騒ぐ腕輪付きとは、簡単に言うと主人がその下に奴隷管理人を作る為の物だ。
主人は頂点であり絶対で、その下に管理人の役割を与え奴隷を管理させる。
その為に管理人も腕輪等を付けて、主人に管理されるのだ。
万が一主人の玉が破壊されても、管理人によって制圧されるし、管理人が制圧しなければ、管理人が管理人用の玉で罰を受けるのだ。
「さ、カイラ。…どうしたの?あなたが罰を受けたいの!?」
一向に動こうとしない娘に、夫人は苛立って声を上げる。
「何をしているんだカイラ!!早く動け!!」
そして、ウォーク伯爵も声を上げ、カイラ用の玉と見られるものを掲げる。
「くそっ!これでもか!!」
グッと伯爵が玉を握る。
周りはカイラに痛みが走ると思い息を呑んだが、カイラはぴくりともしなかった。
「!?どう言う事なの!?腕輪を外したっていうの!?」
夫人が伯爵に問い詰めるが、伯爵はブンブンと首を振る。
「そんな訳が無い!!あの腕輪は本人が死ぬか、腕を切り落とさない限りは外れん!」
伯爵が声を荒げて夫人と言い合いをしているうちに、王子の指示で一気に衛兵が二人を捕縛した。
「な、なんで…」
「くそっ!いくらしたと思ってるんだ!パニは不良品を寄越したのか!?」
やはりサンジカラと繋がっていた様で、伯爵はパニックになりパニ伯爵の名前を出してしまう。
二人が拘束されると、双子はやっと安心したようで、ヨンはヤンに抱えられながら泣いていた。
「どうして?どうしてなのカイラ…」
ウォーク夫人は呆然とカイラを見つめている。
カイラは、静かに目を瞑ると、睨みつけるように両目を見開き、両親に向き直る。
そして、腕輪がはまっている左腕を前に差し出した。
「腕輪は…壊れたわけではないの?一体…」
夫人の言葉に、カイラは嘲笑し、右手で左手首を持つとスッとその腕を体から外す。
「か、カイラ!?」
「ひぃっ!!」
ウォーク夫妻は目の前の出来事に、腰を抜かしていた。
腕が外れた事に、周りも騒然とする。
そう。
彼女は、腕輪を外すために自ら腕を切り落としていたのだ。
「…!姉様…」
ヤンの呟きに、双子とカイラの仲は悪く無かったのだろうと推測される。
彼女は、双子を守る為に腕を切り落としたのか。
「…あなた方の不正は、全て報告済みです。パニ伯爵家の不正と共に、早々に処分されるでしょう」
カイラの落ち着いた言葉に、ウォーク夫妻は呆然としていた。
「あ、あなたの為だったのよ!」
見苦しい夫人の言い訳に、周りは捕らわれた二人に非難の目を向ける。
その隙に、カイラはこちらに腕輪をよこし、ウォーク伯爵から取り上げた玉も使い、双子から綺麗に装飾され偽装されていた首輪を外す。
「違うでしょう?自分達が贅沢をする為でしょうに。ウォーク家の繁栄は先代の優秀な手腕と努力の賜物。その恩恵だけを受け、貴族としての振る舞いを疎かにしたあなた方に爵位は分不相応。貴族ではなく平民として裁かれるでしょう」
カイラの言葉に、二人の顔色が悪くなる。
貴族としてではなく、平民としてとなったら大事だ。
やはり身分制度がある以上、罰則も平等では無い、
平民が貴族に危害を加えたとなれば重罪だ。
「…そんな…そんな」
「わ、私達はき、貴族としての振る舞いをしてきたわ?そんな…嘘よ…」
あの振る舞いが貴族だとしたら、この国は笑い者だ。
「己の欲の為だけに動く貴族はただの恥晒しとよくお祖母様がおっしゃってましたが。お二人には何も響いていなかったんですね。王都の水を牛耳り私欲の為だけに動けば、それはお金が手に入ったでしょう。しかし、平民にとっては死活問題です。貴族として生きていくと言うのなら、平民にどれだけ恩恵を与えられるか考えなかったのですか?」
淡々としたカイラの言葉に、耳が痛い貴族もいるだろう。
「…祖母と言う事は、ドラス夫人か。あの方は立派な女性だったからな」
「ああ、貴族作法の先生だったな」
ドラス夫人というのは、先代の母親であり双子の祖母にあたる、学園で貴族作法を教えていた女性だ。
現在は亡くなっているが、大変厳しかったようで、現ウォーク夫妻は彼女の存命中は静かなものだった。
亡くなった後夫妻は枷が外れてしまったようだが、彼女は血の繋がらない孫であるカイラにはしっかり指導をしていたようだ。
「あ、あの婆さんに言いくるめられたっていうの!?あんな、ただ偉そうなだけの女に…」
ぶつぶつと呟く夫人に、カイラは諦めの様な視線を向ける。
「お祖母様は立派な方でしたよ。爵位は与えられた瞬間から責任が発生するのです。そして、その家に生まれた者にも。責任を全うせずに、利益だけ求めたあなた方に理解は出来なかったのでしょうが。お祖母様はご自分が亡くなった後を大変心配されていましたが、本当にこんな事になるとは。あなた方は上手くやれていると思っていた様ですが、不正の証拠も双子への行為も全て事細かく証拠を取ってあります。これ以上醜態を晒し続けますか?」
娘の言葉に、二人は項垂れる。
様子を見ていた王子も、話は終ったと見て二人を連行させた。
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