転生腹黒貴族の推し活

41 推しと馬鹿な転生者

「はぁ。転生ですか…」

呆れた様に言うと、エパ嬢は更に激昂して話し出す。

「あんたの存在も元々おかしいのよ！！何よドラゴンって！ホセ様以外の兄弟が生きてるのも、フロルが婚約者に捨てられて自殺していないのも、うちが宝石商じゃないのも、リリーがドンク公爵家の次男を最終的に誘惑する予定だったのに、ダイヤ公爵家の馬鹿息子になってるし！！ターン王子と王妃は殺されているはずなのに生きてるし、オール様もマクドル様も私に全然なびかないし、帝国の皇子様は全然こっちに来ないし！！全部おかしいのよ！！」

ほほう？

この女のやっていたゲームでは、俺とジェレミー兄様は存在しなくて、フロル様は婚約破棄で命を絶っていて、パニ伯爵家は宝石商で、更にリリーの本命はヨハンではなく、ドンク公爵家の独身貴族である次男の予定だったと。

更に、王妃とターン王子は誰かに殺されてて、他の王子は自分になびき、更に帝国の皇子までこっちに来て自分に惚れると。

しかも、セルジオ様やホセ兄様に選ばれるはずだったと言う事は、ハーレムものか！

何だそのクソゲーは！！

対して優秀でも可愛くもない平凡な令嬢が、素敵な男性達に言い寄られる系のヤツか！！

頭に来るが、この女、さっき激昂しすぎて気が付いてないのだろうが、結構ヤバイ事叫んでるよね。

「やはり例の令嬢と繋がっていたか。王妃やターン王子への侮辱。そして我が息子まで毒牙に掛けるつもりだったとはな」

静かに怒りを含んだドンク公爵の言葉に、エパ嬢は失言に気付いた様に青くなる。

「それどころか、私の息子も狙っていた様ですね。更にフロルが自死など。なんたる侮辱」

後ろから、父様を連れたシェル様と、物凄い怒りのオーラを放つホセ兄様がやって来た。

「ホセ以外の兄弟の存在がおかしいなど、我が家の侮辱もあったな」

あ、父様も怒ってる。

更には、宝石商のランデバス伯爵も怒りで仁王立ちになっている。

そして、ダイヤ公爵も氷の様な目で見ている。

さすがに三大公爵家を敵に回したらタダでは済まないよねぇ？

「リネー伯、ギル、他の令嬢令息達もご苦労。あとは衛兵が」

騒ぎに、第一王子のオール様が衛兵を連れてやって来た。

屈強な衛兵と魔術師も従えている。

俺が頭を下げ手を下ろすと、お祖父様やクラスメイト達も頭を下げシールドを解く。

「違うわ…違うの…私が…私が…」

オール様に必死で甘えた視線を投げるが、王子の耳にも先程の話が伝えられた様で、氷の様な目で見下ろしている。

そして、すぐさま衛兵達に捕えられて行く。

「父親も連れて行け。こ奴らの不正ルートを叩き潰さねばならない」

オール様の言葉に、パニ伯爵も捕えられ、連れて行かれる。

これから厳しい取り調べが始まるだろうし、何とか真相が分かれば良いけど。

まぁ、転生者っぽいし、自分の望んだルートが全然始まらないから、勝手に暴走して破滅した感じだけど。

転生したからって、ゲームみたいに自分に都合良く動くと思ったんだろうけど、なんの努力も無しに平凡な令嬢が選ばれるとでも思ってたのなら甘いね。

俺も転生だが、結構努力や勉強はしてるし、家族を愛しているから周りの人にも目を向けて動くようにしている。

まず実家が宝石商じゃなかった時点で、ゲームの世界とは違うと気付くべきだったよな。

そうか、転生ものだから食事や衛生面がしっかりしているのか。

俺が一人でうんうんと納得していると、周りも動き出す。

「フロル。大丈夫だったか？」

「ホセ様…。私は大丈夫です」

自殺などと暴言を吐かれたフロル様を心配し、ホセ兄様が優しくフロル様に話しかけている。

フロル様は他にも暴言がありすぎたのか、全く気にしていない様で、ホセ兄様に恭しくエスコートされて幸せそうだ。

「ジェレミー。素晴らしい考察だった。やはり君は優秀だ」

「ふふふ。ありがとうございます。でも、さすがに令嬢が襲いかかるとは思いませんでした」

セルジオ様に腰を抱かれながら、ジェレミー兄様は悪戯っぽく笑う。

「ドンク公爵閣下もありがとうございます」

自分を庇い前に出たドンク公爵へのお礼も忘れない。

ドンク公爵は小さく頷くと、ご夫人の元へ戻って行き、そのままご夫人と会場を後にする。

きっとパニ伯爵家の事で動くんだろうな。

そう思っていると、ジェレミー兄様とセルジオ様がこちらにやって来た。

「ギルもありがとう。お祖父様も」

ジェレミー兄様にお礼を言われ、にへへと顔が緩む。

「ま。ギル様はお兄様が大好きなのねぇ」

「本当だね」

そして、ワラワラとクラスメイトが集まり出し、周りは賑やかになる。