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40 推しと助け舟
しおりを挟む「…確かに随分見事な宝石だ。そこまで大きい物は近年見ないが、どちらで購入したのか聞かせてもらえるか」
俺たちの会話に、ドンク公爵が入って来る。
「ど、ドンク公爵。いや、これは懇意の仕立て屋が…」
宝石や輸出入を取り仕切っているドンク公爵の登場に、パニ伯爵は青くなっている。
「ほう?仕立て屋がこれほど見事な宝石を手にしたと?宝石商も通さずにか」
「あ、い、いや」
パニ伯爵ったら、焦りすぎじゃない?
チラリとクラスメイトのセーラ嬢を見ると、セーラ嬢の父上であるランデバス伯爵が険しい顔をしている。
確か、ランデバス家は由緒ある宝石商一家だったな。
「…ランデバス伯爵。この宝石に見覚えは?」
ドンク公爵の問いに、ランデバス伯爵は軽く頭を下げてから、一歩前に出る。
「全く見覚えがありませんね。先程ジェレミー殿がおっしゃっていた通り、これほどの大きさなら必ず我が商会に連絡が来るはずですが」
宝石商のランデバス伯爵に断言され、パニ伯爵はさらに青くなる。
エパ嬢は、ぐぬぬと貴族令嬢らしからぬ目でジェレミー兄様を睨み付けている。
「ふむ。我が国にどのように流通したか分からぬ宝石か。帝国ルートか否か…。ジェレミー殿はどう考える?」
ドンク公爵は、ジェレミー兄様に意見を求める。
ジェレミー兄様の力量を測っているのか?
ジェレミー兄様はいつもの柔らかい笑みで、小さく頷くと言葉を続けた。
「そうですね。帝国は皇帝閣下が即位して十年目の節目です。これ程までに大きな宝石でしたら、帝国の名だたる貴族が献上品として購入してもおかしくはありません。帝国に入った宝石でしたら、帝国の宝石商として有名な、ポートランス公爵に渡るのが筋でしょう。そして、ポートランス公爵は皇帝の忠実な家臣であり友人と聞いています。まず献上品の一つになっているはずです。その為、正規の帝国ルートでは無いと考えます」
ジェレミー兄様の考察に、ドンク公爵やランデバス伯爵は目を見張り、周りの貴族も驚きつつも感心している。
「素晴らしい考察だ。周辺諸国にも詳しいとは、十分学ばれているじゃないか」
「確かに。即位十周年の今、多くの宝石が献上されていると聞く」
「その中で、アレ程大きな宝石が伯爵家へ渡るだろうか?パニ伯爵家は王都の橋の管理くらいだろう?」
周りの貴族達がヒソヒソと騒ぎ出す。
身の丈に合わなすぎるんだよ。
宝石もセルジオ様もな!!
「…こちらに亡命する為の前金でしょうかね」
俺がしれっと呟くと、パニ伯爵は冷や汗をダラダラ流している。
ここまで突っ込まれて、どう動くのか見ものだね。
そう思っていると、娘のエパ令嬢がいきなりジェレミー兄様に掴みかかろうとする。
「きゃあああああっ!な、何よこれ!!」
バチンと何かにあたり、後ろに弾け飛ぶ。
馬鹿め。
俺の魔術だ。
周りは騒然とし、セルジオ様がジェレミー兄様を守るように抱きしめている。
その前にはドンク公爵が立ち塞がる。
俺がスッと手を下ろすと、俺の仕業と気付いたエパ嬢は、ギャンギャン騒ぎ出す。
「何するのよ!!何で、何で、こんなのおかしいわ!!セルジオ様にもホセ様にも選ばれないし、こんなルート知らないわよ!!」
ん?選ばれない?ルート?何言ってんだコイツ。
俺とお祖父様はシールド魔術を使い、エパ嬢に近づく。
すると、俺のクラスメイト達も協力するようにしてシールドを作り取り囲んでくれる。
「何だいその魔術は…」
「ギル様が教えてくださった防御魔術ですわ」
プラム伯爵の問いに、ハイリ嬢が答える。
そうなのだ。
クラスメイトは優秀な貴族令嬢令息なので、万が一の時を考えた防御魔術を教えて欲しいと頼まれたことがある。
そして、簡単に頑丈なシールドを作る術を特別授業として教えた事がある。
攻撃を防げるし、ボンッと弾き飛ばす事も出来るので、もしもの時に逃げやすくなる。
ナートラ先生にも褒められた術で、少し難しいが、魔力が高ければ簡単に作れる代物だ。
力が弱い人には、自分の魔力を貯めて放出できる魔石の利用を勧めておいたので、令嬢達は髪飾りやイヤリング、ブレスレット等に加工された物を良く身につけるようにしていた。
事態を見ていたクラスメイト達が集まり、エパ嬢は逃げようにも逃げられなくなり更に騒ぎ出す。
クラスメイトにはフロル様や、カイト、セーラ嬢もおり、何事かと親族も集まって来る。
「どうして!?私がヒロインなのに!!せっかく転生したのに!!」
転生?
え?コイツも転生者?
ヒロインやらルートやらの言葉はそれだったのか。
つまり、この世界はゲームか何かの世界だったのだろう。
エパ嬢はそこに転生してきたってことか。
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