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39 推しと追及
しおりを挟む「な、なんのつもりだ貴様!田舎の伯爵令息ごときが!」
俺に鼻で思いっきり笑われ、パニ伯爵は怒り出す。
何事かと周りに人も集まるが、父様やホセ兄様達は静観してくれるらしい。
つまりヤッて良いって事ですね!!
「これはこれは。優秀だと連呼なさるので、私のクラスメイトかと思いきや。確かに最優秀ではなく優秀なご令嬢ですね」
お祖父様も俺の隣に来たし、俺はにっこり笑って挨拶がわりのジャブを入れる。
そう。
優秀優秀言うが、彼女は最優秀クラスではない。
最優秀クラスに入らない貴族は、余程問題を起こさなければ優秀クラスだ。
周りはくすくす笑っている。
「な、な、しかし、娘はこの様に大変見えも良く、甘え上手ですし、我が娘は顔も広く…」
その褒め言葉、さっきのホセ兄様の流れを聞いてなかったんだろうな。
しかも、ジェレミー兄様の方が数千倍は美しいから!!
真っ赤な顔をして娘を褒め始める伯爵に、俺は静か~に爆弾を落とす準備をする。
周りを伺うと、同じクラスでフロル様の幼馴染のカイトやセーラ嬢、プラム伯爵家のハイリ嬢も婚約者と共にこちらを見ていた。
よしよし、今がチャンスだな。
「顔が広い…」
俺が呟くと、パニ伯爵はニヤリと笑う。
「そうだとも!引きこもっていた令息より、社交的な我が娘の方が…」
ここぞと口を挟むパニ公爵を無視し、俺はエパを冷たい目で見る。
「我が国で顔が広いのでしょうか?それとも、サンジカラでしょうか?」
俺の言葉に、周りがシンとする。
「な、な、何を…」
俺のいきなりの言葉に、パニ伯爵は困惑し、エパは先程までの甘ったれた表情が消えている。
周りも、何事かとこちらに聞き耳を立てている。
「随分と仲がよろしかったですよね?エパ令嬢と例の令嬢は」
一気に周りが殺気立つ。
例の令嬢によって痛い目を見た貴族は、事の他多いからねぇ。
「な、何を言っているんだ!」
「ひどいですわ!言いがかりです!」
二人はキャンキャン吠え始めるが、先程第一王子のお言葉忘れちゃってる?
誰があの件について貢献したか、はっきりきっぱり明確に名前出してたよね?
俺だって。
周りはもちろん理解しているので、皆パニ親子に冷たい視線を送っている。
あの日リリーが職員に連れて行かれる時、柱の影に隠れていたつもりだろうけど、俺の目にはしっかり見えてたんだよね。
『なんとかするから、余計な事を言うな』
そう唇だけでリリーに向かって話していたエパ嬢をね。
「…おかしいんですよねぇ。例の令嬢が手を出した人選が。まるで誰かが上手い具合に、選んで教えたとしか思えない人達が多くって」
にっこりエパ嬢に笑いかけると、顔が強張っている。
そう。
リリーに熱を上げたりデートした令息達は、ヨハン以外はこぞって名実ともに実績のある貴族の、令嬢令息の友人の婚約者や、名のある貴族の少し離れた親戚などが多かったのだ。
直接実力のある貴族へはヨハン以外は出さず、軽く遊びそうな人選も完璧だったのだ。
体の関係を持ちお金をくれる貴族も、親や兄弟は出来が良いから金があるだけの坊ちゃんや、婿に入った家がお金があるなど、当主ではない相手を探すのが上手すぎたのだ。
本命はヨハンという三大公爵家の元時期当主で、それ以外は金銭集めや出来の良い貴族の脛に傷をつけようとした様に見えた。
そして、それをこのエパ嬢が斡旋した事も、俺は尻尾を掴んでいたのだ。
「…パニ伯爵家は、最近やけに羽振りが良いそうで。宝石や貴金属の新しいルートでも手に入れたのでしょうか?」
「ヒッ…!」
俺の言葉に、パニ伯爵は小さく悲鳴を上げ、周りの視線に気が付き慌てている。
宝石や貴金属は、貴族から平民まで需要がある。
しかし、この国ではそれほど宝石業が盛んでは無い為、やはり他国からの輸入が主である。
宝石等の輸入はそれぞれの国が厳しく管理しており、我が国トーレもドンク公爵家が主に取り締まっているのだが。
俺の発言に、遠くから様子を見ていただろうドンク公爵がこちらに歩いてくる。
誰かがサッと耳に入れたんだな。
「ま、まさか我が家がサンジカラと裏取引でもしているというのか!?馬鹿馬鹿しい!証拠はあるのか!!」
パニ伯爵は慌てて怒鳴り付けるが、胸元の大きなパールが痛々しい。
「…サンジカラは宝石の産地。しかし最近はサンジカラのやり方に、サンジカラ産の宝石は購入しないと周辺国で条約が結ばれたばかりですよね」
ジェレミー兄様が口を開くと、周りは確かにと頷きパニ伯爵は何事かとジェレミー兄様を見る。
「サンジカラ産の有名な宝石は、そちらの令嬢が着けている、赤と緑の宝石ですね。そして、伯爵の身につけているパールです。そこまで大ぶりな宝石でしたら、この国に輸入される時に記録が残っているでしょう?確認なさればよろしいだけでは?それとも偽物なんでしょうか」
にこやかに話すジェレミー兄様を、惚れ直すようにセルジオ様が見つめている。
確かに、エパ嬢とパニ伯爵の身につけている宝石は大きい。
大きすぎる。
身の丈に合っていない金を手に入れて、調子に乗ってしまったんだろうな。
宝石はそれだけ価値が高いので、国に入ってくる時に必ず審査が入る。
二人が身につけている宝石にも、審査結果が残っているはずなのだ。
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