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36 推しとこれからの説明
しおりを挟む「失礼。話が脱線しました。レッドドラゴンリーフは、我が領地で煎じ、お茶にしたものを粉末状にして、リーナイト公爵家に協力して頂き売りに出す予定です」
父様が、グイッと話を元に戻す。
「ふむ、帝国と同じ売り方になるか。その方が茶葉などの流出も防げるからな」
「はい。そして、その方が簡単に摂取が出来ると考えます」
粉末状にし、使用時にお湯か水で割って飲む形が一般的だろう。
滋養強壮の薬や、美容の薬でも同じような形で売っている物が流通しているので、比較的受け入れやすいはずだ。
「通常流通している薬よりも大変飲みやすく、木苺の様な甘い香りがするのが特徴です。蜜を入れても問題が無い事も分かっているので、小さい子供も飲みやすいでしょう」
父様がそう説明すると、周りも興味深そうに聞いている。
やはりこの世界では良薬口に苦しが多く、子供が飲みやすい薬という考えはあまり無い。
魔力拒否症は生まれてすぐに分かる病気なので、小さい子供が飲みやすい薬にする事は大事だと俺達は考えたのだ。
「それなら、幼い子供でも飲みやすいな」
「ええ。ずいぶん考えられていますね」
感心の声が聞こえ、よしよしとほくそ笑む。
辺境伯爵にケチをつけたい無能貴族も居るが、きちんと評価をしてくれている貴族も多いのだ。
「うむ。販売はいつから始める予定だ」
王の言葉に、周りの貴族もシンとなる。
魔力拒否症に悩む貴族は、思いの外多いのだ。
「はい。今回は我が領地と息子の診断結果だけでございます。王都でも十日程、何名か治験して頂き、その結果を持って売り出したいと考えております」
どれだけ素晴らしい活躍をし、素晴らしい薬を開発出来ても、やはり田舎の貴族を馬鹿にする王都の貴族は多い。
田舎の診断結果だけではと、商売の邪魔をしてくる輩が居ないとは限らないのだ。
十日は短いと思われそうだが、領地の結果もあるし、帝国のドラゴンリーフが販売される時も十日の治験だった。
「…治験者の予定はあるのか」
王の目が。
王族達の目が、父様を力強く見つめている。
「陛下のお許しを頂ければ、第三王子であるターン殿下に。そして、数名の貴族の方にもお願いする方向で動いております」
父様の力強い声が、広間に響く。
他の貴族も、固唾を飲んで王の返事を待つ。
陛下は静かに目を閉じ、そして父様をしっかりと見つめた。
「許そう。我が息子を頼む」
「ハッ!!」
父が力強く返事をし、周りもワッと沸く。
生まれてから殆ど公務にも、顔見せにも出てきていない王子に、一筋の光が刺したのだ。
王座では、王妃が涙を拭い、王子達も手を取り合って喜んでいる。
歳の離れた弟王子は、やはり皆可愛いのだろう。
「治験の日程についてと、参加する貴族については、すぐにご連絡いたします」
シェル様の言葉に、王は頷き、王座へ戻る。
そして、優しく王妃の手を取ると、王座へ腰掛ける。
その間に、ジャメル家の領民達は部屋へ戻され、俺達も隅へ下がる。
「それでは、本日の発表を終わろう。皆の者それぞれ良い発表であった」
王が締めの挨拶に取り掛かる。
そして、第一王子が皆に伝える事があると言い、立ち上がる。
「この後、他国の使者や王族を迎えてのパーティーを始めるにあたり、一つ話しておく事がある。先日帝国で不貞を行い、こちらに極秘留学していた令嬢が、こちらでも不誠実な行いを繰り返したとして、現在幽閉されている」
あ、例の令嬢のことだ。
皆リリーの事は知っている様で、ダイヤ公爵家をチラチラ見ているが、あの女に騙されたのヨハンだけじゃないからね?
アルミスは気丈に前を向いており、やはり次期当主に相応しいと感じた。
「その事で帝国より返事があり、現在こちらに帝国から客人がいらしている。どうやら帝国では令嬢は別の国の修道院へ幽閉される話だった様だが、令嬢の父親が裏で手を回していたと言う。父親はパッショル子爵の後夫で、子爵家とは縁を切る事になった。そのまま捕えられ、令嬢も強制帰国の後処分されることが分かった」
話では、パッショル子爵家は別の優秀な公爵家からの分家で、当主と別国から来た商人が結婚した時に付いてきた娘がリリーらしい。
つまり、リリーは帝国の人間でもなく、さらに別の国の人間だと言う事だ。
「商人の出身地はサンジカラ王国であり、どうやらその令嬢はサンジカラ王族の隠し子だと発表された」
「サンジカラ!?」
「王族主義の現王が、教会を弾圧していると言う国か」
サンジカラ王国。
隣国マラサッタ帝国とは深い渓谷や森を挟んだ隣国であり、現在の王は王族主義だと言う。
スイレン神よりも王族が偉いと謳い、教会の弾圧や宗教大国ラッカルへ喧嘩を売って世界から非難を受けているのだ。
ラッカルは宗教大国で神父や修道女も多いのだが、彼らは想像以上に強く逞しい。
農作も狩も行うし、ムキムキマッチョが当たり前。
法王様も鍛えられた肉体をしており、これは農業に従事る者は逞しく鍛えられているという教えに則っているのだ。
肉も命に感謝として食すし、神山には毎日のように登る人も居るので、皆足腰が丈夫で強いのだ。
サンジカラに弾圧された宗教関係者はラッカルに避難しているらしく、益々王族主義が広がりつつあるらしい。
皆王族に使える奴隷とでも思っているようで、領民の避難が続いている状態だ。
「どうやら、王族以外を奴隷として扱う様になり、亡命者が続出しているようだ。国としても存続は危うく、その潜伏先に色々な国でハニートラップを行い入り込もうと企んだようだ」
王子の説明に、ダイヤ公爵に非難の目が向けられるが、他に引っかかったのいるからね??
「どれも失敗に終わっている。そして、この国での発覚に働いてくれたのは、ジャメル家のギルである」
あら!
王族まで俺の名前が行ってたんだ。
皆に注目され、俺は静かに頭を下げる。
「後に、王家からも褒美を贈る事が決まった。事の詳細は後ほど。それでは、私からの話は以上になる」
王子が話を終えると、王族も皆立ち上がり、最後の挨拶が告げられる。
「それでは皆の者。良い一日を」
「「良い一日を!!」」
発表の終わりの挨拶が交わされ、ようやく発表を終えたとホッとした。
ここからは、急ぎで音楽隊やら軽食が準備され、中央がダンスホールになるのだ。
ダンスは基本的に婚約者や今日エスコートしてきた相手と一曲。
そして家族と一曲。
最後に他の方と踊るパターンの三曲参加が多い。
それ以上踊る方も、一曲で終わる方もいるので自由なのだが。
俺は今日はお祖父様と踊って終わるつもりだが、ジェレミー兄様に熱い視線を送る男どもの熾烈な争いが始まりそうな予感がする。
とりあえず、俺達は社交もお仕事なので、これから押し寄せて来るであろう貴族達の挨拶に、立ち向かわなくてはならない。
あーめんどくっさー。
そう思いつつも、俺はお祖父様とペアになって挨拶に参加する。
兄様達が気になる…心配なので、こっそり話は盗み聞きするけどね。
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