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27 推しと王都での支度
しおりを挟む二週間後に王家主催のパーティーを控え、俺はダンスパーティーのお相手探しをする事になった。
父様か兄様かと思っていたが、アレよアレよとお相手が決まったし、結婚や婚約する訳では無いから令嬢を誘うのも気が引ける。
そこで、ダメ元でお祖父様を誘うと、何と快諾されてしまった。
「まさか孫と踊れるとはな。長生きするもんだ」
「お祖父様は十分お若いですよ」
一緒にこっそり王都に来たジェレミー兄様に褒められ、満更でも無い顔をしている。
黒々した髪を撫で付け、綺麗に整えられた口髭は紳士そのもの。
体も鍛えているので、そこら辺のご老人とは全く違って若々しい。
昔から大層モテていたようで、今回もちらほらご婦人からお誘いがあった様だが、全て断っていたそうだ。
お祖母様一筋で、亡くなってからも誰ともダンスには参加しなかったそうだからな。
それでも嗜みとしてダンスは踊れると言うから、凄い。
「さ、お茶に致しましょうか。今日は王都で流行りのパイを買って参りました」
「わぁ。美味しそう」
長年お祖父様の屋敷に仕えるメイドのスーザンが、お茶の支度をしてくれた。
王都ではレモンなどの柑橘のパイが流行っており、とても爽やかな香りが漂っている。
ジェレミー兄様をこの屋敷に連れて来た時、長年仕えてコリーヌ母様を知っている者達は、いたく感動して涙を流した。
生き写しの様にそっくりで、美しく優しいジェレミー兄様は、あっという間に受け入れられ、ホッとしていた。
あ、俺も可愛がられているけど、ホラ、チートだから。
ジェレミー兄様みたいに優しくないし、腹も黒いから。
お祖父様と結託して、気に食わない貴族嵌めたりしてるの知られてるしね。
それでも自由にさせてもらってるから、ありがたいよね。
「ギル。パーティーの前の発表で今回のモノを話すのだろう?発表の際は当主と次期当主だけが出席するのだが、今回の発表の時は一家総出になるだろう。その時には私も行く手筈になっているが、ジェレミーも一緒に出るのか?」
「はい。もちろんですよ」
「ふむ。セルジオ殿にはしっかりエスコートして貰わなくてはな。変な虫がうじゃうじゃ居るからな」
「お祖父様ったら」
ジェレミー兄様は笑っているが、その通りだ。
兄様が社交界に出たら、それはそれは大騒動だろう。
俺は色んな意味で恐ろしいと言われているのは知っているし、自分で撃退するのも好きだから良いんだけど、ジェレミー兄様の美しさは女神級だ。
しかも、かつて色んな殿方を袖にしたコリーヌ母様に生き写しなのだ。
俺は知っている。
両親が死んでから、両親の墓にこっそり墓参りに来た貴族達を。
そして、お祖父様にも色々と聞いているので、母様に片思いをしていた貴族は多いのだ。
死んでからもその熱は冷めず、お祖父様の家に滞在している俺に婚約の話が来たりしたが、残念ながら俺はお祖父様似だし、強いし怖いしチートだからか、婚約話はあっという間に無くなった。
自慢じゃないが、俺はそれなりに剣の腕も立つ。
勉強も魔術も俺以下のヤツに興味は無かったし、女の子にも興味はなかった。
ホセ兄様は辺境騎士団団長という猛者だし、ジェレミー兄様の事は伏せていたのでこちらに接触は無かったのだが。
そいつらがジェレミー兄様を見たら、自分の子供の婚約者に熱望したり、下手したら自分の後妻にと動こうとする事は容易に想像できる。
「当日はセルジオ様がジェレミー兄様を迎えにいらっしゃいます。父様とホセ兄様がそれぞれフロル様とシェル様をエスコートするので、俺とお祖父様はセルジオ様達の馬車にご一緒する事になっています」
「うむ。それなら問題なかろう」
上位貴族には、それぞれ個室が用意される。
今回は、リーナイト公爵家の個室に、俺達も待機させて貰う事になっているのだ。
個室と言っても広く、その隣の部屋に領民達も待機できるよう取り計らってくれた。
他の貴族より先に城へ入れるのも利点だ。
「緊張してきたな」
ジェレミー兄様は、これから嫉妬や羨望や欲望の視線に晒されてしまうのは避けられない。
しかし、セルジオ様の隣に堂々と立つ為だと、それにも負けないよう頑張ると言っていた。
長年の病気の苦しみに比べたら、きっとなんて事ないよ。
ジェレミー兄様は美しい。
そして、やはり強いのだ。
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