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25 推しの訪問後
しおりを挟む「それではお世話になったな。ホセ殿とフロルの婚約の件は、帰り次第使者を寄越す」
「ああ。よろしく頼む」
そう言って、シェル様は馬車に乗り込んで行った。
「それでは…。またお会い出来る日を楽しみにしています」
「ああ。私も会いに行こう」
フロル様は頬を染めながら、ホセ兄様と挨拶をしている。
二人の婚約は本格的に決まった様で、婚約の書類などの為に後日使者が来る事になった。
セルジオ様は一足先に王都へ戻ったのだが、少し硬い表情をされていた。
弟の婚約は喜ばしい様だが、ジェレミー兄様との事を考えていたのだろうか。
そんな事を考えつつ、俺もフロル様達を見送る。
「ギル。ギルは数日はこちらに居るの?王都へ帰る時に、僕も一緒に行こうかと思ってるんだけど」
ジェレミー兄様に話しかけられ、俺は考えた。
卒業前だし、俺は優秀だからもう授業には出なくても良いんだよね。
王家主催のパーティーは、卒業式の三日前にやる事が多いし、それまでは一月以上ある。
その事を告げると、それなら二週間ほどゆっくりこちらで静養したらと言う話になった。
領地も見て回りたいし、ジェレミー兄様の引っ越しの準備も手伝いたい。
「王家主催のパーティーに出席する予定の、治験者達にもマナーの指導が必要だから、治療棟でその指導も行なっている。とりあえず王家へ挨拶だけして、後はリーナイト公爵家のお屋敷でささやかだが食事会を開いてもらう事になってる。貴族だらけのパーティーにずっといるのも気を使うだろうからね」
ホセ兄様の提案に、成程と納得した。
今回は一族総出なので、この地は執事達と騎士団。
そしてドラゴンが守ってくれる。
王都へはお祖父様のお屋敷にお邪魔し、一緒に行く領民達には良い宿を取ってある。
彼らは大切な協力者だと説明したので、シェル様がそれならばと彼らに食事会を開いてくださる事になった。
もちろんリーナイト家もご出席なので、ホストはいない状態だが、その方が心から楽しめるだろう。
翌日、俺とジェレミー兄様は治療棟へ足を運んだ。
「あ!ジェレミーさまと、ギルさま!」
「やぁ。調子はどうだい?」
小さな子供が駆けて来る。
「もう走れるようになったの!こんど、王さまにあったら、おうちにもかえっていいんだよね?」
「凄いな!そうだよ、王様にあったら、お家に帰ってご両親のお手伝いも頑張るんだよ」
「はぁい!」
嬉しそうに話すのは、農家の娘のアンだ。
産まれてすぐに魔力拒否症と診断され、家族も悲観していたが、一歳の頃からここで暮らしている。
症状は徐々に良くなり、現在は走り回れるまで回復している。
やはり、ずっと高価な回復薬を服用していたジェレミー兄様よりは回復に時間が掛かったが、それでも奇跡的な回復だ。
治療棟はホテルの様な作りになっており、部屋数も多く作ったので今後は宿泊施設として利用する事が決まっている。
その為、敷地内とはいえ離れて静かな所に作ったのだ。
「ジェレミー様、ギル様、何とお礼を申したら良いのか…!」
「いいえ、協力して貰っているのです。当然ですよ」
治験者の家族も寝泊まりができるし、この周りの開発の仕事を与えたりもしている。
花も綺麗に咲くように植えて貰っているし、食事所もいくつか考えている。
「こんな素敵な洋服まで準備して頂いて。王都なんてめったに行く機会が無いので緊張しています」
今度のパーティーに向けて、家族にも洋服を準備した。
皆が笑顔で過ごせるように、努力した日々がこうやって報われていくのは気持ちが良い。
皆の顔色を見る限り、病気だったなんて思う者は誰も居ないであろう。
「ジェレミー様、ギル様、旦那様がお呼びです」
「父様が?使者が来るのはもう少し掛かると聞いたけど…」
「行こうか兄様」
何か急ぎの用でも出来たのだろうかと、俺とジェレミー兄様は急いで屋敷に戻った。
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