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24 推し達の昔話
しおりを挟む『ここが、他の薬草園になる。主に回復薬や体力を上げる薬を栽培している。ここは俺でも管理できるものしか無いがな』
『そうか。確かに回復系が多そうだな』
父様達のやり取りと会話を盗み見しながら、俺は屋敷へ歩く。
薬草園に入る前に、父様のペンダントをシェル様に気付かれる様に落とす。
『レス、何か落ちた様だが…これは…!』
『え、あ、それは』
ペンダントを拾い上げたシェル様は、じっと手の中の宝石を見つめている。
それを見て、父様は苦笑いをしていた。
『…随分。古くなったな』
ポツリと呟いたシェル様の言葉は、父様が長年身に付けていたと分かっている様だ。
『…未練がましいだろう。こんな、落とすなんて事なかったのにな』
頭を掻きながら、ペンダントを受け取ろうとする父様に、シェル様は自分の胸元から例のペンダントを取り出し合わせて見せた。
『それは…!』
『私も十分未練がましいだろう。子供達の成長と、これだけが。私の支えだった』
父様の髪の色のペンダントと、シェル様の瞳の色のペンダント。
宝石店での特注品で、二人だけの秘密のモノ。
それがどう言う事か、俺もすぐに理解した。
『あの時。ダイヤ公爵家と婚約が決まって、私はお前と一緒に駆け落ちでも出来たらと考えた』
『シェル…』
『しかし、家の事を考えたら出来なかった。今考えたら、父上や兄上も私が望まないのならと動いてくださっただろうに』
その後に、バカ公爵は他の女と子供を作り、不幸が続いて公爵家を継いだシェル様は婚約が流れたのか。
『俺も、君を連れて逃げようと思っていたんだ』
『レス…』
『あの男は、歪んでいたが君を欲しているのは本当だったからな。大切にするだろうと思って身を引いてしまった。まさか他の女に子供を産ませるとは思ってもいなかったが…』
あの男ことダイヤ公爵家は些か複雑な家庭だった気がする。
廃嫡になったヨハンの母親は、伯爵家の令嬢ではあったが、元々男癖が悪く遂に婚約者がいる相手の子を妊娠したとして、結局子供だけ産んで取り上げられ、逃げるように国を去ったはず。
その間にシェル様との婚約も流れ、別の侯爵家の令嬢が正妻となった経緯がある。
優秀だが病弱であった正妻は、アルミスを産んでから体調を崩し、子供達が幼いうちに亡くなってしまっている。
子供達の面倒は、昔から公爵家に使える乳母や家庭教師が行い、結果的にアルミスだけ優秀に育ったようだ。
まあヨハンの母親の生家は母親を勘当して、公爵家とも関わりを経っているが、アルミスの母の生家は王都でも優秀な治癒院を経営したりしており、孫のアルミスにも良くしていた様なので仕方が無いのかもしれないが。
三大公爵と言われている為、ダイヤ公爵家は確かに王家との繋がりが濃く、そのくらいの醜態など屁でも無いのだろうが。
ちなみに、三代公爵家で順位を付けるなら、前々女王が王位を譲ってから降下したダンク家が一番権力があり、ダイヤとリーナイトは同じくらいだ。
女王が勤めを果たして、ダンク家に嫁入りしたって凄いよね。
『ピエルは私を飾りにくらいにしか思っていなかったのだろう。君を執拗にライバル視していたし、私達の関係に気が付いて邪魔をする事しか考えてなかった様に思う。他に子を作ると宣言していたしな』
ピエル…ダイヤ公爵の名前か。
関係と言う事は、やはり二人は好き合っていたんだな!!
俺が興奮していると、父様はペンダントを握りしめているシェル様の両手を握り、片膝を付いた。
ええ!!父様!!
『…シェル。今更私がこんな事を言える立場では無い事は分かっている』
『レス…』
『どうか。どうか君の公爵としての勤めが終わったら。私の妻になって欲しい』
『!!』
『この薬草園を始めたのは、ジェレミーの為でもあったが。君を思い出す場所が欲しかったのもあるんだ』
父様が、今までに見た事のない色気を出してる!!
指の間から覗く様な、見ちゃイケナイものだけど見ちゃう様な。
そんな感じでガン見していたら、シェル様の美しい瞳から涙が溢れていた。
『…レス。今回の薬草の件で、君はきっと爵位が上がるだろう。そしたら、縁談の話もあるはずだ。それでも…それでも私を待っていてくれるか?』
父様は立ち上がり、優しくシェル様の涙を拭う。
『当たり前だ。君以外は要らないんだ』
『ああっ…レス!!私も君しか要らない!!』
二人は力強く抱き合い…キスしそうな所で見るのを止める。
うん。
これ以上は父様達のプライベートだもんね。
十分盗み見しているが、線引きは大事にしているのだ俺は。
そして、小さく咳をしつつ屋敷へと向かった。
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