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21 推しの再会
しおりを挟む「ああ、帰った様です」
父様が窓の外に目をやると、皆がそちらに注目した。
討伐に向かう途中で身に付けた鎧は、特に汚れてもいない。
バイザーを上げて目だけが見えている状態だ。
早かったなと思っていると、フロル様が急に立ち上がる。
「あの方は!!」
「フロル?」
「どうしたんだい」
急に立ち上がったフロル様は、周りに失礼を謝罪しながら腰掛けるが、それでも視線はホセ兄様にある。
顔を赤らめつつ両手を一つに握りしめ、胸の前に当てている姿は、まるで恋する少女である。
「間違いありません。私を助けてくださった方です」
「ええ?」
驚くリーナイト一家だが、俺も驚いた。
え!!
ホセ兄様!?
やだうちリーナイト御一家と縁がありすぎ!
「助けたとは…?」
父様の声にハッとしたシェル様は、数年前のケンドフ領での出来事を話す。
「ああ、確か周りの領地で魔物が多発的に出現した時だろう。どうやら隣国からの小競り合いで魔物がこちらまで暴れていたようで、ケンドフ以外でも被害があったからな。全く。ホセはその対応で名乗るのも忘れていたんだろう」
確かに、魔物を大量に討伐した時があったな。
あの時かと思い出し、ホセ兄様らしいと納得した。
魔物を倒しすぎて、どこで倒したかも把握しきれていなかったのだろう。
「ふむ。あの時は他にも貴族がいた様だし、ケンドフ伯爵も礼を言いたいと言っていた。こちらから連絡しても差し支えないか?」
「もちろん。こちらも名乗らずに失礼だった」
貴族的なやり取りをしていると、鎧を脱いだホセ兄様がやって来た。
「遅れてしまい申し訳ない。ホセ・ジャメルです」
急いでいたので、コートは着用していないが、背が高く美しく筋肉のついた体はシャツの上からでも分かる。
チラリとフロル様を見ると、ますます顔を赤くしていた。
「おや…?あなたは確か…!!」
「…っ!い、以前ケンドフ領の村で魔物に助けて頂いた者です!あの時はありがとうございました!あ、フロル・リーナイトと申します…」
「ああ、あれはケンドフ領でしたか。まさかリーナイト公爵家の方とは。名乗らずに失礼しました」
緊張し、名乗る前にお礼を言ってしまったフロル様に、ホセ兄様は優しく微笑んだ。
ん?ケンドフ領を忘れていた癖に、どうやらフロル様の事は覚えていたな?
ほほぉ~ん?
「ホセ兄様。私のクラスメイトでもあるフロル様です」
「ああ!弟が大変お世話になっているようで」
フロル様の話はしてあったので、ホセ兄様はすぐに合点がいった様だが、フロル様の顔がスッと曇る。
そうか、婚約破棄の話も知られているからか。
どうしたものかと焦っていたら、シェル様が助け舟を出す。
「ホセ殿。ホセ殿には浮いた話は聞かぬが、婚約者などは?」
「と、父様」
焦るフロル様に、うちの父様も何やら気が付いた様で、ニヤリと笑う。
「見ての通り、討伐ばかりでな。恥ずかしい話だが、私も色々と忙しく息子達の縁談に手が回らずにいたんだ。無理をしようとする事も多いからな。良い伴侶を探している最中だ」
ちなみに、兄様のタイプは知っている。
ふんわりと優しい雰囲気だが、芯のしっかりした心優しい方だ。
美人で、それでいて可愛らしい感じが好みだったはず。
そうフロル様の様な。
「ふむ。ホセ殿は、フロルの婚約の事は聞いているだろうか」
シェル様の言葉に、フロル様はますます暗い顔になる。
「はい。ギルから聞いています。ダイヤ公爵家のクソ野郎だと…あ」
「兄様!」
クソ野郎などと言葉にした兄様を速攻で嗜めると、周りは吹き出した。
フロル様も笑っている。
「申し訳ありません。ギルから色々と聞いており…つい」
「構わないよ。そうだな、確かにクソ野郎だ。私が良かれと思って選んでしまった相手だが、後悔しか無いよ」
シェル様も、笑いながらフォローを入れていくれる。
「しかし、フロルの力不足だったと言う声もある。その事についてはどう思う」
セルジオ様の問いに、ホセ兄様は首を振る。
「フロル様に問題は無いでしょう。ギルからも詳しく聞いています。婚約者の忠告も聞かずに、隣国から来たふしだらな令嬢にウツツを抜かすなど、公爵家としても失格です。フロル様の力不足など、ただの言いがかりですよ。成績もずっと最優秀クラスで、素行や品性も素晴らしいとギルがいつも言っています」
はっきりと言い切るホセ兄様に、フロル様は感動したように目を輝かせ、シャル様とセルジオ様は強く頷いていた。
おや。
これはもしかして、もしかするのかしら。
頭の中で、盆踊りの花火の準備が始まるが、黙って成り行きを見ておこう。
「レス…」
「ふむ。こちらにとっても良い話だが。本人同士の話も必要だろう。とりあえず、薬草園を案内したいのだが…」
「薬草園!」
父様とシェル様は目線だけで会話をしつつ、先に薬草園の案内となった。
「私は昨日お邪魔したので、父様とフロルはゆっくり見てきてください」
「ふむ、そうか」
セルジオ様の申し出で、父様とシェル様、ホセ兄様とフロル様と俺の五人で薬草園へ向かう事になった。
「とりあえず、王都に来た後の話を詰めてから帰ります」
セルジオ様はもっともらしい事を言いながら、ジェレミー兄様と応接室に残ると言った、
「王都のお話も聞きたいので」
ジェレミー兄様も納得したので、父様はそれならと他の二人を案内する為に席を立つ。
「そうだな、それでは薬草園に向かおう」
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