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20 推しの訪問その②
しおりを挟むホセ兄様が討伐に出てから、一時間しないうちに、リーナイト家の馬車が到着した。
ホセ兄様が不在の為、俺もジェレミー兄様もお出迎えをする事になり、二人とも昨日の服装にコートを羽織っている。
セルジオ様は応接室でお待ちいただいている。
魔鳥の情報も即座に伝え、こちらから護衛も増やしていた為、シェル様は少し硬い表情をされていた。
護衛の者や御者も数名居るが、まとめて口外できない魔術を掛けさせてもらう。
「ようこそいらっしゃいました。リーナイト公爵閣下」
父様が頭を下げると、シェル様は少しムッとした顔をした。
「久しいなレス。公爵閣下はやめて欲しい」
拗ねたような物言いに、おやおや?と思いつつ、それならばシェル様でと父様は言う。
いつも毅然としたシェル様の変わりように、フロル様は少し驚いた様子だったが、気を取り直して父上に挨拶をする。
「お招きありがとうございます。フロル・リーナイトです」
「ようこそフロル様。いつもギルがお世話になっております」
他愛もない挨拶を交わす中、シェル様は不思議そうにジェレミー兄様を見ている。
「シェル様、こちらは次男のジェレミーです。今年で二十になります」
「なんだって!?…レス。それはつまり」
驚愕した顔のシェル様に、父様は真剣な顔で頷いた。
この様子だと、シェル様はジェレミー兄様の病気をご存知だったのだろう。
そして、二十の歳で自分の足で歩き、健康的なジェレミー兄様を見て、今回の取引が何かに気が付いた様だった。
「…なんと。そうか。レス。やり遂げたのだな」
「はい」
「そうか…」
感慨深く呟くシェル様に、これは何かあったと皆思うが、口には出さず応接室へ案内する。
「到着早々に魔鳥は驚いただろう?息子は優秀だからすぐに帰ってくるとは思うが」
「そうか。やはり辺境騎士団は凄いな」
父様達の会話を聞きながら、俺もフロル様と会話をする。
「遠い中ありがとうございます」
「そんなことないよ。道中も安全だったし、花々も美しかった。ジャメル領はそういったところにも力を入れているんだね」
やはり魔物は出没しやすいので、観光には向いていないと言われているのだが、今後レッドドラゴンリーフを発表するにあたり、ドラゴンも全面的に活動を始めてくれるのだ。
活動を始めるといっても、ここは我らのナワバリだから、下手な事をするなと牽制してくれると言う。
今は極秘にする為、ドラゴン達も存在を消してくれているが、今後はジャメル領は安全になると思う。
その時は、観光に力を入れようという俺の提案で、道の整備や道中の花々などに力を入れている。
ドラゴンはジャメル領しか守る気はなさそうなので、辺境騎士団は周りの領地の護衛に駆り出されるだろう。
それで報酬を貰える様に取り計らえば、彼らの仕事も無くなることはないと踏んでいる。
「父上。お待ちしていました」
「セルジオ。その様子では話は一通り聞いたのだな?君の見解を聞かせて欲しい」
「はい」
応接間に着くなり、セルジオ様は発表するレッドドラゴンリーフと、発表の仕方やらをシェル様に提案し始める。
ジェレミー兄様が魔力拒否症であったと知らないフロル様は、大変驚いた顔をしていた。
「王家主催のパーティーで発表が一番だが、その後の売り方は転売などを防ぐ必要があるな」
レッドドラゴンリーフの販売は、葉を煎じてお茶にした物を、粉末にして売り出すという形になった。
水やお湯で割れば簡単に飲む事が出来るし、出涸らしになった茶葉をこちらが再利用できるし、出涸らしでも転売の恐れがあるからだ。
「はい。本人証の提示や、薬瓶に魔術を掛けての販売になります。続けて購入する時にも、その瓶が必要になるようにしましょう。いくつかの薬品も同じ様に販売しているので、混乱は無いと考えます」
「魔術を掛けられる人間にも限度があるのではないか」
「こちらのギルもですが、販売を開始するにあたり、ジェレミーが王都へ来る事になっています。彼の魔術も中々です」
そうなのだ。
実は、薬草の販売に伴い、ジェレミー兄様は王都に移り住むことになったのだ。
魔力拒否症だった兄様が販売する方が、宣伝にもなるし説得力も増す。
俺が同居している祖父の屋敷にお邪魔するのだが、公爵家が所有する店に近いし通いやすい。
発表前まではこっそり隠れておく必要があるが、それはセルジオ様からの提案であった。
『王都には変な虫も多いからな…』
つまり、ジェレミー兄様の美しさに足繁く通いそうな男が居そうだから、心配なんですね。
思ったが口には出さず、いきなり知らない美人が現れたら騒動になりそうだから、発表を終わらせてから店に立つようにしようという事で話はまとまった。
タイミングを見計らって、メイドが例のお茶を出す。
「コレが…。綺麗な赤色をしているんだな」
「わぁ。とても良い香りですね」
シェル様もフロル様も、その香りと味に驚いていた。
一般的にドラゴンリーフは苦いのだが、このレッドドラゴンリーフは甘い香りがして飲みやすい。
子供にも飲ませやすいのも利点だろう。
「旦那様。ホセ様のお帰りです」
「うむ。予想以上に早かったな」
執事のドーツがホセ兄様の帰還を伝え、父様はもちろん俺達家族は普通に受け入れていたのだが、リーナイト一家は大変驚いていた。
「もう?報告を受けてから二時間も経っていない様な」
「うちの騎士団は優秀なんですよ。血の気が多いのが玉に瑕ですが」
そう言っていると、外には甲冑を来た兄様が見えた。
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