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16 推しの回復
しおりを挟む夏季休暇が終わり、王都に戻った俺に、レッドドラゴンの誕生の知らせが来たのはすぐだった。
一週間もしないうちに、卵が孵化し、俺は休日に急いで領地へ戻った。
「いやはや。こんなに早く産まれるとはな」
「キュ~!!」
屋敷の裏の森は表からは隠しているが、中にはいれば広大な薬草園とドラゴンの棲家が完成していた。
俺が魔術を掛け、アームも色々術を掛けているので、外から中の様子は分からない。
立派なドラゴンの住処に、小さな真っ赤なドラゴンが誕生していた。
『ここは住み心地良い。この子もここを気に入ったようで、こんなに早く産まれてきた。名はカーリンと言う。ギルよ、これが赤い葉の種だ』
「こんなに?」
ファビから差し出されたレッドドラゴンの種は、数個どころか数百個はある様に見える。
『私たちも驚いている。きっと産まれる時母体に負担がかかり危ない所だった事と、赤い葉を口にする事が出来たから、この子に多くの種が授けられたのだろう。この葉の成長に私たちも協力しよう。三日もすれば生えてくるだろう』
キャルの説明に、俺も父様も喜びが走る。
アームもコトも急いで種を蒔いてくれ、昼夜も交代で見てくれると言う。
「旦那様!ギル様!!」
俺達も手伝っている時に、執事のバークが慌てたように呼びに来る。
何事かと急いで屋敷に戻ると、居間のソファにジェレミー兄様が座っていた。
今まで寝たきりで、食事も碌に採れていなかった為随分痩せてしまっていたが、顔色は良い。
「ジェレミー!?体は大丈夫なのか!?」
父様は声を上げるが、魔力の事も考え近づくに近づけない。
俺が驚いて声も出せないでいると、ルルが涙を流しながら話し出す。
「ジェレミー様が、ここまで歩いて来られたんです。ご自分の足で…!」
その言葉に、俺も涙が溢れて来た。
立つ事も、ベッドに起き上がる事も出来なくなっていたジェレミー兄様が。
自分の足で歩いてきたと言うのか。
「あの薬湯を飲んでから、呼吸も楽になったし、足がムズムズするようになったんだ。少しずつ足が動くようになって…。こっそり立つ練習をしていたんだ」
少し恥ずかしそうに話すジェレミー兄様に、周りはもう大号泣しながら話を聞いている。
ジェレミー兄様の症状は、末期に近かったのだ。
歩けなくなり、起き上がれなくなり、食事も取れなくなり、そして呼吸が止まってしまう。
ジェレミー兄様は十七歳なので、本当にギリギリだったのだ。
どれだけ叱られても、怒られても、悲しまれても。
帝国に行って良かった。
テオに出会って良かった。
あの岩山に登って良かった。
色んな感情が溢れて、涙が止まらない。
お腹が空いたというジェレミー兄様に、急いで軽食が運ばれて来る。
久しぶりに兄様の食事の姿を見る。
ニコニコ食事を楽しむジェレミー兄様と、号泣している俺達。
領地パトロールを終えたホセ兄様も、報告を受けて急いで帰ってきた。
歓喜で沸く屋敷の雰囲気に誘われた小さなドラゴンが、フワフワと飛んできたりと、その日は決して忘れられない日になった。
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