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14 推しと告白
しおりを挟むレッドドラゴンは、産まれる時にいくつかの種を持って産まれてくる。
その種がレッドドラゴンリーフになるのだ。
そして、レッドドラゴンと共存する事によって、その数を増やしていくという。
ファビ達の居た群れは数十頭の大所帯だった様だが、場所は国をいくつも超えた秘境中の秘境だったようだ。
途中でエルフ族の国であるセイレート王国にも立ち寄ったそうだが、そこには黒いドラゴンが先に住んでいた為諦めたと言う。
そこからこんな遠くまで逃避行をして来たとは、いやはやドラゴンにもラブロマンスだな。
「…つまり、安全に卵が孵化出来て、君たちが安心に暮らせる場所を提供出来たら。レッドドラゴンリーフを栽培出来る可能性があるって事か」
俺がポツリと呟くと、テオが驚いた顔で見ている。
ただの冒険者がそんな土地を提供するのは、難しいのは分かる。
だが、俺の家は辺境伯爵家。
しかも祖父の土地も頂いているので、中々広大な領地を有しているのだ。
ぶっちゃけ我がジャメル伯爵家の屋敷の裏は、襲撃やらを考えてか結構な崖やら森だし、父様が薬草の為に開拓を考えていたので、そこを使用しても良さそうだ。
『ふむ。そんな場所があるのならありがたいが。お主の名はなんと申す』
ファビに問われ、テオに偽名を名乗っていた事を思い出す。
しかし、背に腹は変えられない。
テオをじっと見つめた後、ファビを見る。
「俺の…。俺の名前はギル・ジャメル。隣の国の辺境にあるジャメル伯爵家の三男だ」
「!」
隣でテオが息を呑むのが分かる。
「領地は辺境と言うこともあり、とても広い。君達が問題ないのなら、是非来て欲しい。レッドドラゴンリーフの栽培も必ず成功させる。辺境騎士団は屈強揃いだし、安全も保証する。だから。だから、どうかっ…!!」
安全等はドラゴンの方が強いんだろうけど、俺は必死になってお願いした。
このチャンスを逃したら、もうレッドドラゴンには出会えないかもしれない。
ジェレミー兄様を助ける可能性があるのなら、藁にもすがる思いで頼み込んだ。
『ふむ。悪い話ではないな。しかし、場所が気に入らなければ我らは出ていく。それでも良いか』
「もちろん!!」
ファビの答えに、俺は大きく頷いた。
これで。
これで兄様が助かるかもしれない。
一筋の光がはっきりと見えた気がした。
「…ギー」
浮かれていた気持ちが、一気に現実に引き戻される。
そうだ。
俺はテオに嘘をついていたのだ。
「…ごめんなさい。俺…」
「いや、謝らないでくれ。ギル」
謝罪の言葉を遮られて、不安でテオを見上げると、予想に反してとても優しい顔をしていた。
「何となくだが、君が平民でないことは気がついていた。だから謝らないでくれ」
「テオ…」
何故そんな優しい顔をしているのかはわからないが、自分が貴族だとバレていたと知らされて恥ずかしくなる。
前世の記憶の事もあり、こちらでは結構口が悪く動いていたのに…。
そう思っていたら、立ち振る舞いが明らかに違ったと笑われた。
そうか、貴族というものは幼い頃から染みついたマナーやらは隠せなかったのか。
「さて。ドラゴン達は君の領地へ行くのだろう?どうやって移動するんだ?」
テオに聞かれファビたちに問うと、彼らは驚くべき事実を教えてくれた。
『我らの姿は目立つからな。基本的には夜に移動する。そして、その時は体の色を闇の色に変化させるのだ』
体の色まで変えちゃうの!?
レッドドラゴンはやはり特別なんだなと改めて思った。
『お主らも共に運ぼう』
そう提案されてテオに伝えると、テオは麓で降ろして欲しいと言った。
「俺にはまだやらないといけない事が、この国にあるからな」
「そうだよね…」
俺の領地に来て欲しいなんて淡い期待を抱いたが、彼ほどの実力の冒険者には依頼も多いはずだ。
少し寂しい思いを隠しながら、二人でファビの背中に乗る。
あれほど苦労して登った岩山を、あっという間に降りていき、誰も居ない麓に降り立つ。
「…じゃあ。ありがとうテオ」
名残惜しいが、いつまでもここにいる訳にはいかない。
「また会えるよね?ドラゴンリーフのお礼もまだだし…」
俺が言うと、テオは少し目を瞑る。
そして開いた瞳は、今まで見た事が無い程熱を帯びていた。
「ギル。必ず俺から君の所へ会いに行く。何年も掛かるかもしれないが、どうか。待って居てくれるか」
初めて見るテオの雄を感じる顔と声に、胸の中が熱くなる。
待っていて欲しいという言葉の意味が、分からない程子供ではない。
「…。待つよ。ずっと待ってる」
泣きそうな声で答えると、スッとテオの顔が近づく。
咄嗟に目を瞑ると、額にキスが降りてくる。
目を開くと、テオは俺を力強く抱きしめた。
そして、離れる前に俺に小さな袋を握らせた。
「帰ってから。中身を見てくれ」
「分かった」
そして、もう一度強く抱きしめる。
「必ず」
それだけ言うと、テオは夜の闇に消えて行く。
その背中が見えなくなるまで見つめ続ける。
俺は大きく深呼吸をして、待っていてくれたドラゴンと共に領地へ向かう。
俺もこれから大きな仕事が待っている。
必ず。
必ず成功させる。
そして。
必ずまたテオに会えると信じている。
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