転生腹黒貴族の推し活

叶伴kyotomo

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12 隣国の推しの話

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俺が十四歳の頃。

夏季休暇を利用して隣国で薬草の入手方法を隈なく調べていた所、俺は一人の冒険者に会った。

テオと名乗る三十代位の、めちゃくちゃ俺の好みにドストライクな男性だった。

銀髪黒目で顎髭を生やしワイルドなイケメン。

鍛えられた体は逞しく、冒険者の割に話も行動スマートで、俺がこっそり隣国ギルドで動く時は良く助けてくれる。

初めて会った時は、確かドラゴンリーフに次ぐ効き目と言われる薬草の採取の時だった。

「お前さん。凄い魔術を使うんだな」

薬草目前で数十頭の魔物に囲われた時、俺はその人の気配に気が付かずチート能力フル活用で、あっという間にそいつらを倒してしまった。

それを見られていたのだ。

何も言わずに睨みつける俺に、テオは笑って吹聴はしないと言ったが、信用できずすぐに逃げ帰った。

その後も行く先行く先で待ち伏せされ、腹が立って攻撃してやったら、テオはとても強かった。

チートの俺と互角かそれ以上な存在にビックリし、それでもこちらに紳士なテオに、次第に心を許していった。

俺はギーと名乗り、平民であると嘘をついていた。

俺が薬草を集めている事を知ると、ギルドで高難度の依頼やらを誘ってくれる様になった。

一年程行ったり来たりをして、十五歳の夏季休暇。

俺は色々倒してランクがCまで上がっていたのだが、テオはSランクで挑戦できる依頼が多く、ドラゴンリーフには劣るが高価な薬草の採取に参加できたりした。

もちろん素性は隠していたが、兄が病気であることや、その為にレッドドラゴンを探していることを告げていたので、国の境界線でも外れの付近の険しい岩山に居るという情報を仕入れて来てくれた。

帝国のレモルト領の外れにあり、人は住めないし魔物も中々住み着かない、厳しい所だ。

「本当かは分からないし、危険だぞ。それでも行くのか?レッドドラゴンリーフなら、何とか手入れたモノがある。数少ないが、全て譲っても良い」

レッドドラゴンリーフを手に入れるとか、テオの顔の広さや情報の速さに驚いたが、俺はそれではダメだと言う。

「それでも行く。手に入れるだけじゃダメなんだ。栽培を成功させたいんだ」

俺の野望に、テオは息を飲んだ。

きっとこの時、ただの平民ではないと気付かれだだろう。

「レッドドラゴンリーフは俺の希望なんだ。魔法拒否症を…。兄様を救いたい。兄様を失うのは嫌だ」

ジェレミー兄様の容態が日に日に悪くなっていて、俺はもう気が気じゃなかった。

何もせずに後悔するよりも、精一杯動いてから後悔がしたい。

きっと今まで誰にも見せた事がないくらい、情けない顔をしていたのだろう。

「そうか。分かった俺も行こう」

力強い言葉に、俺は驚いて言葉を失った。

「これでも帝国のSランクだ。ギーの足手纏いにはならないさ」

「でも、危険なんだぞ?」

「なおさら一人では行かせられない」

いつも飄々と笑顔のテオが、初めて見せる真剣な顔に、俺は柄にも無く泣いてしまった。

その後、二人で岩山を目指したのだが、確かに人を寄せ付けない厳しい所だった。

俺もその時は魔術を惜しみなく使い、お互いを回復しながら頂上を目指した。

俺の魔術については何も聞かない事。

これは二人の暗黙のルールになっていた。

空気が刺す様な、静かで凛とした頂上に、赤いヤツは居た。

二匹のドラゴンは番いの様で、ぐったりとした一匹を守るように大きなドラゴンが俺達を威嚇する。

やはり最強のドラゴンと言われるだけはある。

威嚇だけで、足にビリビリと波動を感じる。

『人の子よ。何をしに来た。ここはお前たちの場所ではない』

身構えていると、はっきりと声が聞こえた。

喋ってる?

「危害を加えに来たワケじゃない」

俺が答えると、隣のテオも、そしてドラゴンも驚いていた。

あれ?

もしかして俺にしか聞こえてない?

『…我の声が聞こえるというのか?そんなはずは…』

『あああああああっ!!』

『キャルッ!?しっかりしろ!!』

庇われていた小さめのドラゴンが、苦しそうな声を上げる。

「キャル??」

「ギーはドラゴンの声が聞こえているのか?」

テオの声に、俺にしか聞こえない事を確信した。

『お主…我の声が聞こえているのだな?』

ドラゴンから、威嚇の気配が消える。

「聞こえている。そちらのドラゴンは急病か何かか?」

俺が尋ねると、更に苦しそうな呻き声が聞こえる。

『…妻であるキャルが、初めてのお産なのだが。我らは雄同士の番。初めての事でキャルの体力が保たぬのだ。このままでは卵もキャルも危険な状態…お主らの相手はしてられぬ』

ふむ。

お産が大変だと言う事か。




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