転生腹黒貴族の推し活

叶伴kyotomo

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「実は。卒業前の王族主催のパーティーで発表を考えている、我が領地で作り出すことに成功したモノがあるのです」

作り出すことに成功した。

そう言うと、公爵家の皆様は興味深そうに俺を見る。

「そのモノの売り出しを、リーナイト公爵家へお願い出来ないかと考えています」

うちのような辺境伯爵家は、主に国を守る為に屈強な騎士団を育て上げ、国境の監視や魔物討伐が仕事なので、作り出したモノを王都で売るとなると、それなりにツテが必要になる。

祖父は元魔術の教師とはいえ商家ではないので、ここは一つ国有数の商家であるリーナイト家に協力を仰ぎたい。

「ふむ。作り出した…と。それは何か聞いても?」

商品の詳しい内容が分からなければ、売り出すのも難しいのは十分承知の上である。

しかし、ここで簡単に話せるモノではない。

「実は、私自身にもジャメル本宅以外では口外できない術を掛けているのです」

そう。

俺や家族。

そしてそのモノを知る者は皆術を掛けている。

極秘で続けている事業であり、我が領地の最大の生産物になると確信している。

それ程までにを発表しようとしているのだ。

「ふむ。そこまでするモノか。確認する為にはそちらの領地に足を運ばなければならないということだね?」

シェル様の言葉に、力強く頷く。

そうなのだ。

ジャメル家に足を運んで貰わなければならない。

王都から辺境であるジャメルまでは、魔術をかけた早馬の馬車でも丸一日は掛かる。

忙しい公爵家が、こちらに来て貰えるのか。

それが今回の難題である。

そう思っていると、シェル様はニッコリと微笑んだ。

「成程。それならば早いうちに、そちらにお邪魔しよう。グラード。私達が不在の間任せるぞ」

「はい。かしこまりました」

え?私達?皆さんで来てくださる?

予想外の快諾に呆気に取られていると、セルジオ様もノリノリで計画を進めてくる。

「ふむ。フロルの卒業前の旅行だからね。フロルと父上はゆっくり観光してきたら良い。私は別の早馬で先に行こう」

早く行って用事を済ませ、早く帰れば公爵家皆不在という期間も短く出来ると言うセルジオ様に感動する。

クロードは本当に優秀な執事な様で、すぐに公爵家関係の貴族に連絡を取る為に、部屋を後にした。

そこからは、あれよあれよと俺の家族の話になる。

すぐにギル殿からギルだけで良いですと訂正すると、ならば私も公爵呼びでなくて良いと了承を貰えた。

「君のお祖父様のリネー伯爵には大変お世話になったし、父上であるレスとは同じクラスで、仲良くしていたんだ。お互い前の当主を亡くしてから家を継いで、そのまま忙しく疎遠になっていたけれど、久しぶりに募る話もしたい」

「父も喜びます」

いやもう、小躍りして喜ぶんじゃないかと思う。

自分の人生を、領地と残された子供達に捧げてくれた父に、同じ境遇になった思い人が会いにくる。

これはもしかしたら、もしかするのでは…。

この国では公爵やらの当主になっても、家督を譲ってから他の家に嫁・婿入りする話は良くあるのだ。

貴族としての勤めを終わらせ、余生を好きに生きよという王家からの許しの様なものだ。

シェル様はセルジオ様が家督を継いだら、どこかへ嫁ぐ道もあるのだ。

「君の兄上のホセ殿には私も学生時代にお世話になったよ。公爵家と言うことでどれだけ剣術で腕を上げでも、嫌味を言ってくる人間はいてね。その当時は既に騎士の指導をされていたホセ殿が、そういった輩を随分叱責してくれた。私の剣術の練習にも付き合ってくれて、学生時代に真っ直ぐ進む事が出来たのは彼のおかげも大きい」

セルジオ様から語られる、ホセ兄様らしいエピソードに嬉しくなる。

武力に長けるホセ兄様は、今現在は領地の騎士団団長として近辺の警護をしているが、その腕を買われて学生の剣術の指導をしている時期もあった。

教え方も上手いし、後輩にも好かれやすいタイプなので、何人か騎士団に引っ張ってきたのだ。

思った以上にジャメル領への訪問が好意的に考えて貰え、一つの仕事が終わったような安堵感に包まれる。

そして、窓の外の庭に視線を移すと、シェル様に気が付かれる。

「庭が気になるかい?部屋に入ってきた時も見ていたね」

「あ、はい。とても素敵なお庭ですね。うちは田舎ですので領地は広いのですが、こんなに綺麗に剪定はされていないです。花木よりも薬草園が大きいくらいですね」

気を抜いてしまっていたと反省しつつ庭を褒めると、シェル様は薬草園という言葉に驚いていた。

「薬草園?」

「はい。父が始めた事業ですが、辺境ということで魔物討伐にも薬草は必要と考えてのことです。魔術で怪我は治りますが、魔術師だけに負担が掛からない様にと日々研究をしています」

病気や怪我の回復ばかりに魔術を使っていたら、魔術師の体が持たないしね。

それにジェレミー兄様には魔術での治癒は使えなかったから、少しでも体の症状を抑える薬草の研究に力を入れていたのだ。

シェル様は元々薬草の研究に従事していたはずだ。

薬草園というワードに飛び付くだろうと思っていたが、予想以上だった。

「それは楽しみだ。そうだ、帰る前に庭を案内しよう」

上機嫌になったシェル様が、席を立とうとした時に、胸に揺れるペンダントに視線を奪われる。

美しい赤色の宝石が五角形にカットされ、金の金具につけられたソレは見覚えのあるモノだった。

「…父様の?」

つい声に出してしまうと、ハッとしたようにシェル様は目を開いた。

「…このペンダントに見覚えが?」

「あ、いえ。父のペンダントに良く似たモノでしたので。父のものは青色でしたが」

不審そうなシェル様に慌てて説明すると、シェル様は一瞬とても驚いた顔をされたが、すぐに表情を変える。

「そうか。同じ世代だから同じ様なものを購入したのかもしれないね。さ、庭を案内しよう」

「はい。ありがとうございます」

妙な違和感を感じたが、それ以上は検索せずに、おとなしく庭に向かう。

庭では王都にしか咲かない花の説明などを楽しく聞かせて貰った。

その後、出来るだけ早めにジャメル領へ向かう日程の連絡をすると伝えられ、礼を言って祖父宅へ送り届けて頂いた。

推し活史上大変濃い一日だった。



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