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7 推しとの雑談
しおりを挟む和やかな雰囲気でお茶を楽しんでいると、ここから本題だと言うようにスッと空気が変わるのが分かった。
「ギル殿。今回のフロルや令嬢の件だが。君の働きは我が国にとっても大変ありがたい事だった。もし彼女がもっと他の貴族に手を出したり関係を持っていたら、隣国と同じように大変なスキャンダルになっていたからね。ダイヤ家もすぐに事態を把握したのか、後継は弟であるアルミスに決まったようだ。スーダ伯爵家の息子はそのまま婿に入ることになった」
シェル様の話を、ご兄弟と一緒に真剣に聞く。
ダイヤ家当主は思ったより賢いのかもしれない。
公爵家同士の婚約を台無しにした上、隣国で騒動を犯した令嬢との関係は今更隠せるものではない。
そんな男を公爵家嫡男としていては、公爵家の立場が危うくなる。
アルミスも婚約者であるジェフも、揃って最優秀クラスに在籍している。
それなら、優秀な繋がりを持っているであろう弟を後継者にした方が安泰だ。
「他にも被害にあった方々のリストを、プラム家のハイリ嬢より預かっています。後でお渡しします」
国の貴族の醜態の把握も、公爵には必要だろうと提案すると、クラードが静かに部屋を出る。
俺の荷物を持って来てくれるのだろう。
「なんと。プラム家の関係者も被害に遭っていたか」
セルジオ様が眉間に皺を寄せる。
プラム家の次期当主はセルジオ様の友人の一人だったなと思い出す。
「君も大変だっただろう?良くぞここまで動いてくれた」
「いえ。我が領地に来られる隣国の方々の噂を耳にして。初めは随分な令嬢が居たものだという好奇心だったのです。しかし、あまりにも酷かったのか皆様が同じ話をされるんです。別の国の修道院へ幽閉されているという話を聞いて安心していたのですが、詳しく知っていると言う商人にこちらの国に極秘で留学していると聞き、まさかと思って調べたら彼女だったんです」
本当は隣国ギルドで情報を買ったりして聞いた話なのだが。
なんと、最初は帝国のお隣にある宗教大国のラッカルへ行ったと言われていたのだ。
ラッカルの修道院はとても厳しい所で、重罪人も収容されている刑務所のような所だと聞いた。
厳重な警備と魔術で抜け出すことは不可能と言われ、中でも厳しく監視、教育されると言う。
世界的に崇拝されているスイレン神の教えを叩き込み、己の罪を反省させる為だ。
神父や修道女も居るが、そんじょそこらの騎士より強いと聞く。
そんな中に貴族が放り込まれると言うのは、中々辛いものがあり、処分としても申し訳ないと言われていたのに。
何か裏がありそうだなと思って、詳しいという男に自白剤と酒を盛ったら、子爵とその夫に金を積まれて、名前を変えてこちらの国に留学という体で潜り込んでいると聞いたのだ。
「極秘で留学なんて、また隣国と同じことをと思い急ぎで調べたらこのようなことに。数人に確認するとどうやらそうだった様です。あとはその話を聞いた他の方々も調査をしたようで…」
そこまで話していると、クラードが俺のカバンを持ってくる。
その中からハイリ嬢から頂いた封書を取り出す。
中身はこっそり全てコピーを作っているので、そのままシェル様に手渡す。
「こちらになります。プラム家や他の貴族の方々も協力してくださったようです。私より公爵にお渡しした方が良いと思いますので」
そう言うと、シェル様は頷いた。
「ああ。隣国への苦情も考えている。こちらに情報が入るべき案だからな」
「例の令嬢は処分が下るのでしょうか?」
「急ぎ王室へも連絡を入れたので、身柄は拘束されている。現在は囚人の館の一室に監禁していると言うことだ。帝国にも急ぎの連絡を入れてあるので、帝国からの返事を待っている状態だな。今回の事で令嬢のご実家もお取り潰しは確定だろうし、向こうへ引き渡した上で処分が決定するだろう。隣国にまで不名誉が知れたとなると、重い処分が待っているだろう」
セルジオ様も大きく頷いており、リリーの件はこちらに丸投げして終了で良さそうだと安堵した。
「さて。君にはお礼がしたいのだが、何か困っていたり必要なものがあったら言って欲しい」
リリーとヨハンの話は終わりというように、シェル様が俺に尋ねてくる。
セルジオ様とフロル様もこちらを見ている。
うわぁ!皆顔が良い!!もう皆推せる!
心の中でフラメンコを踊りつつ、俺はこの状況になることを理解していた。
そう。
気に食わないヨハンを推しであるフロル様から引き離すことも、ふしだらな隣国令嬢からこの国を守ることも俺の目的ではあったが。
もう一つ大きな目的があったのだ。
その目的が遂に果たせそうである。
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