転生腹黒貴族の推し活

叶伴kyotomo

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6 推しのご家族

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扉の横にスッと移動したクラードの横を、フロル様に続いて中へと入る。

俺が入った数秒後には扉が閉められ、扉の前にはクラードが気配を殺して立っている。

目の前には美しい庭が見える。

ガラス張りではあるが魔術で補強してある窓があり、その前には豪華な応接室セットが置かれている。

上質な布で出来ているであろうソファから、この屋敷の主である公爵と、フロル様の兄上であるセルジオ様が立ち上がってこちらを見ていた。

現リーナイト公爵のシェル様は、叔父ということもありフロル様に似た面影がある。

美しい金髪を後ろで一つにまとめ、青い瞳は優しいが力強さも感じられる。

細身の麗人とはこのことだろう。

雰囲気がジェレミー兄様に似ている感じもする。

そして、その横には長い黒髪を一つにまとめた、青い瞳の美丈夫であるセルジオ様。

ホセ兄様の話では、剣術に優れた優秀な男だということだった。

鍛え上げられた体と長身で、婚約話が後を絶たないというのも納得な男前である。

「初めまして。ジャメル伯爵家三男のギルと申します。お招き頂きまして光栄です」

恭しく頭を下げて挨拶をする。

「ようこそ。私はリーナイト公爵当主のシェルだ。こちらはセルジオ。さ、こちらへ」

「失礼します」

シャル様に促され、公爵家の方々が腰掛けたのを確認してからソファに腰掛ける。

ホストの席にシェル様が座り、その右側にセルジオ様。

そして左側にフロル様と一緒に座る。

推しの家族と会談なんて、緊張する!!

「今回はフロルが大変お世話になったね。ありがとう」

「いえ、当然の事をしたまでです」

ヨハンのことだと分かっていたので、謙遜しながら返事をすると、セルジオ様が力強く頷いた。

「本当に、君の働きには感謝しているよ。ヨハンめ随分フロルを馬鹿にしてくれていたからな」

「兄様…」

怒りを抑えた声のセルジオに、フロル様が苦笑する。

ヨハンの行動にはリーナイト家も頭が痛かったようだ。

最優秀クラスに入る努力もしないで、自分より優秀なフロル様を邪険に扱ったり、他の令嬢令息と遊んだりと貴族的にも問題の行動が多かったこともあるだろう。

「ダイヤ家には婚約破棄を伝えてある。理由もはっきりしているので、こちらに不利益になることはない。…フロル。公爵家とはいえ、あのような婚約をさせてすまなかった」

貴族間のしがらみもあるだろうし、三大公爵家同士の婚約破棄はそれなりに影響がありそうだが、シェル様やセルジオ様はフロル様の婚約破棄を決定させたようだ。

よっしゃ!婚約破棄成立!

心の中でサンバを踊っていると、フロル様は小さく頷く。

少し不安そうな顔をしている。

「父上。私も力不足でした。…新しい婚約の話が来ていたりするのでしょうか?」

フロル様の言葉にハッとする。

そうだ。

三大公爵家の次男と言ったら、嫁に欲しいという家は多いだろう。

しかし三大公爵家の婚約を断ったのだから、次のお相手も名乗り出るのは難しい気がする。

そう思っていたら、セルジオ様が首を振った。

「フロル。私が君の結婚を見届けてなどと言ってしまったから、長く苦労をかけた。私が先に良い伴侶を探すから、君の相手はじっくり探して行こうという話になったんだ」

「兄様…」

ホッと安心したような声のフロル様に、イタズラっぽくセルジオ様が続ける。

「それに、何年か前に君がセリオット村で魔物に襲われた時。助けてくれたという人を、今も探しているんだろう?」

え?襲われた?魔物?

さすがに驚いて得意のポーカーフェイスが落ちかけると、フロル様が慌てて説明をしてくれる。

「ええと。数年前に夏季休暇の際、ゲンドフ領のセリオット村に立ち寄ったんだ。そこがビーストに襲われてね。幸いにもとても強い騎士の方が助けてくださって、村にもほとんど被害がなかったんだけど…」

少し顔を赤くしながら話すフロル様にピンとくる。

ほほう。

被害はなかったけれど、フロル様は心を奪われてしまったのだな。

「その方は鎧を着ていたようで、名前も名乗らずに行かれたようで。分かるのは瞳が黒かったことと、背が高く逞しい男性だという事なんだそうだ」

シェル様も楽しそうに話している所を見ると、どうやらフロル様はその殿方を探しているようだ。

「た、助けて頂いたお礼も言いたいから…。私だけではなく偶然その村に居合わせた貴族も数名いらしたし。ケンドフ伯爵もその後の魔物の後始末も完璧だったと、大変喜んでいらしたから…」

ケンドフ領はケンドフ伯爵が治める領地で、我がジャメル領二つ程隣のリゾート地である。

美しく大きい湖畔とその周りの川や山々が人気の、貴族御用達の避暑地である。

そんなところに魔物が出たとあっては、ケンドフ伯爵も生きた心地がしなかっただろう。

魔物に引き寄せられて他の魔物が来る事も多いので、その騎士はその後の後始末も上手くやってくれたのだろう。

被害が少なく済んだことは、領主にとっても大変ありがたいことだ。

「家近くの領地のことですから、何か情報があるかも知れません。私の方でも調べてみます」

そう言うとフロル様が嬉しそうに笑い、とても良い雰囲気に包まれていた。



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