4 / 247
2 推しの人生に要らない者
しおりを挟む「私。田舎者ですが、すぐお隣が帝国ですので色んなお話がすぐに入ってくるんですよ」
ニコニコしながら意味ありげにリリーを見ると、フンと鼻で笑っているが、いつまでその態度でいられるかな。
「帝国では近年、貴族間で非常に恥ずかしい騒動があったようで。ねぇリリー嬢。当事者の貴女はもちろんご存知ですよね?」
当事者を強調して言うと、リリーは両目を見開いて驚いていた。
少しずつ、顔色も悪くなっている。
いやぁ、そんなに怯えられるとやりがいがありますわぁ。
俺の話をしている間に、フロル様は俺の指示を聞いてくれた、フロル様の友人達によって後ろ側へ身を隠すように下がった。
そして、話を聞きつけたヨハン弟であるアルミスがこの事態を見守ってくれている。
アルミスは出来の悪い兄とは違い、話の分かる優秀な貴族だ。
黒髪で緑眼の彼は子猫のように愛らしい容姿をしているが、芯はしっかりしており公爵家の事をきちんと考えている。
兄の行動にも頭を悩ませていた所を突いて、今回の見届け人になる様に、裏から手を回しておいた。
「お前は一体何の話をしているのだ」
話の読めないヨハンがイラついた声を出すが、今の話の流れで察しのつかないヨハンにこちらがイラつく。
「ヨハン様は察しが悪い様ですので、私が簡単に説明しますね。そちらのリリー嬢は、帝国内で不特定多数の既婚未婚を選ばず貴族・貴族以外の異性と関係を持った事で国を追われた令嬢なんですよ」
「なっ!?」
「えっ!?」
「うわぁ…」
ヨハンも驚いていたが、話を聞いていたギャラリーからも声が上がる。
フロル様もさすがに驚いたようで、手で口元を押さえている。
分かります。
貴族でしかも学生で、既婚未婚を問わず身分の差も問わず異性と関係を持つって、中々すごいよな。
俺はコッソリ隣国のギルドに登録して活動しているんだけど、まぁ彼女の噂話はすごかった。
もちろん帝国の貴族の醜態なので外国には漏らしたくない話なのだろうが、色んな男に手を出しまくっていたリリーはそれ以上に恨みも買っているわけで。
相引きの時に利用した宿屋やら、店やら場所やら何やらかんやら。
可哀想なくらい筒抜けになっていたのだ。
帝国では厳しい修道院へと送られたとなっていたが、彼女に甘い親族が裏から手を回していた様で、我が国にお忍びで留学となった様だ。
隣国なんて近すぎるし、そんな令嬢なら監視くらい付けなければ結局はこうなるのに、何か目的でもあったんだろうね。
「しっかり反省するように言われていた様ですが、もしやこちらでも同じような振る舞いをするとは子爵も大変ですねぇ。そもそも、フラネス子爵家とは存在しないそうで。本当はパッショル子爵家でしたね。リリー嬢と関係を持ったのは複数名いる様ですし、そちらの婚約者や奥様達も大激怒しているみたいですね。そろそろパッショル子爵の元へ抗議のお手紙が届く頃では?」
「なっ複数名…!?」
自分だけと思っていたようで、ヨハンは驚愕の顔でリリーを見ている。
先程の愛しい者のはずなんですがね。
「そ、そんなの嘘ですわヨハン様!この人嘘をついてるんですよ!」
真っ青になりながらヨハンに縋るリリーに、ヨハンは確かにとこちらを睨み付けてくる。
「私が嘘をつくメリットなど何処にもありませんが?貴女が帝国で行ったことは事実でしょう。調べればすぐに分かる事ですよ。と言うか、すでにこちらに話が回って来ています。知っている人は知っている話です。こちらでの振る舞いも何人も証人がいらっしゃいますからね。すぐにでも子爵からご連絡が来るのでは?」
ハッキリと言い切ると、一人の令嬢がこちらに歩み寄ってきた。
キラキラな金髪縦ロールの似合う、美少女であるプラム伯爵家のハイリ嬢である。
王都近くで手広く作物を作っている為、トーレ王国の台所の一つと言われている大きな一族の令嬢である。
「ハイリ嬢?」
訝しげなヨハンには目もくれず、ハイリ嬢はリリーを見据える。
「リリーさん。私の従姉妹の婚約者が随分とお世話になったようね」
「ヒッ!」
何故それを?という様にリリーはまたも目を見開く。
「聞いたところ、他にもお相手が沢山いらっしゃるのね。驚いたわ。そちらのお家の方々も貴女のご実家に抗議のお手紙を送ったそうよ」
キッパリとハイリ嬢が告げると、そんなつもりは…とリリーは怯えだす。
「まぁ。でしたらどんなおつもりで?貴族である以上、他の婚約者のいらっしゃる殿方との接し方位学んでいるはずでしょう?帝国でもこちらでも何がしたかったのか分かりませんが、そろそろ恥をお知りになったら?ご実家から絶縁か修道院かは存じませんが、ご自分のしでかした事をキチンと反省なさることね」
美少女の怒りは怖いなと思いつつ、ハイリ嬢が言いたいことを言うまでしっかりと待つ。
言いたいことを言ったハイリ嬢は、真っ青なリリーを一瞥すると、俺に向き直る。
「ギル様。私の親族や親しい友人以外も被害に遭っておりますの。こちらの文書、よろしかったら使ってくださいませ」
そう言って、ハイリ嬢は俺に分厚い封筒を手渡す。
多分中身は被害にあった方々のリストだろう。
「ありがとうございますハイリ嬢」
「いいえ、こちらこそ一早く情報を頂けて助かりましたわ。父や親族も大変感謝しておりました。それでは、私も動かなくてはなりませんので。ご機嫌よう」
「ご機嫌よう」
ハイリ嬢はそれだけ言うと、ヨハンやリリーには目もくれずその場を後にする。
動くと言うことは、今回の件についてお家ごと動くのだろう。
ニヤリとしつつ、俺はヨハンに向き直る。
「ヨハン様」
「な、何だ」
さすがにハイリ嬢の発言が効いた様で、ヨハンの返事が弱くなっている。
「今回の件はご実家にも報告が行くと思いますよ。今日は大人しくご帰宅されたらよろしいのでは。ね、アルミス様」
すぐ近くまで近づいていた弟に、ヨハンは驚く。
「あ、アルミス」
「…兄様。今日という今日は許しませんよ。さ。帰りますよ。ジェフ、お願いします」
アルミスは逆毛を立てる猫のように怒っていた。
そして、幼馴染で婚約者でもある伯爵令息のジェフを呼びつけると、数人の生徒と共にヨハンを取り囲む。
「ギル殿、フロル様。愚兄が申し訳ございません。お詫びは必ず。お先に失礼させて頂きます」
そう言って俺とフロル様に頭を下げると、そのままヨハンを連れていく。
そして、その場に残されたリリーに、学園の女性職員が声を掛ける。
「リリー・フラネスですね。お父上から急ぎのご連絡とのことで使者の方がいらしています。付いて来てください」
「…はい」
そう言ってその場を後にするリリーは、俺に視線をよこしたが、ニッコリと目は笑わずに笑顔を向けると、意外にも俺を睨みつけてくる。
そして、廊下の柱の裏に居る令嬢に縋るような目を向けていた。
ほほう?
多分それ相応の処分が下るだろうけども、これは注視しとかないといけなそうだね。
537
お気に入りに追加
1,282
あなたにおすすめの小説
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな
七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」
「そうそう」
茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。
無理だと思うけど。
愛されない皇妃~最強の母になります!~
椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』
やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。
夫も子どもも――そして、皇妃の地位。
最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。
けれど、そこからが問題だ。
皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。
そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど……
皇帝一家を倒した大魔女。
大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!?
※表紙は作成者様からお借りしてます。
※他サイト様に掲載しております。
【BL】婚約破棄で『不能男』認定された公爵に憑依したから、やり返すことにした。~計画で元婚約者の相手を狙ったら溺愛された~
楠ノ木雫
BL
俺が憑依したのは、容姿端麗で由緒正しい公爵家の当主だった。憑依する前日、婚約者に婚約破棄をされ『不能男認定』をされた、クズ公爵に。
これから俺がこの公爵として生きていくことになっしまったが、流石の俺も『不能男』にはキレたため、元婚約者に仕返しをする事を決意する。
計画のために、元婚約者の今の婚約者、第二皇子を狙うが……
※以前作ったものを改稿しBL版にリメイクしました。
※他のサイトにも投稿しています。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
転生して悪役になったので、愛されたくないと願っていたら愛された話
あぎ
BL
転生した男子、三上ゆうきは、親に愛されたことがない子だった
親は妹のゆうかばかり愛してた。
理由はゆうかの病気にあった。
出来損ないのゆうきと、笑顔の絶えない可愛いゆうき。どちらを愛するかなんて分かりきっていた
そんな中、親のとある発言を聞いてしまい、目の前が真っ暗に。
もう愛なんて知らない、愛されたくない
そう願って、目を覚ますと_
異世界で悪役令息に転生していた
1章完結
2章完結(サブタイかえました)
3章連載
【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺
福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。
目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。
でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい…
……あれ…?
…やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ…
前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。
1万2000字前後です。
攻めのキャラがブレるし若干変態です。
無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形)
おまけ完結済み
王命で第二王子と婚姻だそうです(王子目線追加)
かのこkanoko
BL
第二王子と婚姻せよ。
はい?
自分、末端貴族の冴えない魔法使いですが?
しかも、男なんですが?
BL初挑戦!
ヌルイです。
王子目線追加しました。
沢山の方に読んでいただき、感謝します!!
6月3日、BL部門日間1位になりました。
ありがとうございます!!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる