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カキーの後に続くリト、ロンド、タンタル、そしてポウルの姿は注目の的だった為、カキーはさっさと来賓室へ向かう。

「さて、こちらで良いでしょう。タンタル、取り敢えず報告を」

ルーベルト達と会話をした部屋に通され、それぞれが腰掛けると、カキーはタンタルの報告を聞く。

やはり剣術の試験の前に、サン達が聖者に一目会いたいと騒ぎ出したのが発端だ。

その後、元婚約者であるモルトを見つけ、接近禁止を言い渡されていたと言うのに、ズカズカと近づこうとしたと説明する。

「その時にはゼルブライト団長が失格だと告げたのですが、剣術の試験を受けさせろと言い出しまして。それならとランラとトロン神官、そしてリト殿が名乗りをあげたのです」

「なるほどな。確かに、その様な者達を神殿騎士が相手する必要は無いな。しかしランラとトロンの腕は私も知っていたが、まさかリトが王都の騎士と手合わせが出来るとは思わなかった」

カキーにそう言われ、リトは確かに神殿で務める者として、考え方が驕っていたと反省する。

「神殿騎士の方々がお相手する訳にはいきませんでしたし、他に適任者がいなかったもので…。父や兄に訓練を受けていた自分なら勝てるだろうなどと、失礼ながら驕った考えで手合わせを申し出てしまいました。申し訳ありません」

しゅんと反省するリトに、カキーは苦笑する。

「いやいや、怒ってはいないさ。リトは友人の為、神殿騎士の為に動いたのだろう。それに、ザルクやロンドに剣術を習っていたのなら心配は無かったな。まさか、ザルク達に剣術を習っていたとは思わなかったよ」

魔術師としてルーベルトの婚約者になっていたリトに、筋肉モリモリ騎士団長が剣術を教えているとはカキーも思わなかったのだ。

「本当に申し訳無い。あやつらは私の馬車で王都へ返しました。しっかり報告する様に伝えてありますので、一から根性も剣術も鍛え直します」

そこで、ポウルがカキーに頭を下げる。

「いや、ザルクも思う所があって彼らをこちらに寄越したのでしょう。これで反省して良い騎士を目指す事を祈ります」

事態を把握したカキーは、そう言って今回の事は終わりで良いでしょうとまとめた。

「それで、ロンドは何故こちらに?」

次の話だとカキーが話題を変えると、ロンドは大剣と一緒に持ってきた剣を取り出す。

「昨日リトから手紙が届いたので、可愛い弟の顔を見るついでにとこちらの剣を買いに来たんです。一つは妻が妊娠中で運動不足だと言う事で素振り様に購入した剣と、こちらは聖者様用です」

ロンドがそう言うと、カキーは驚く。

「確か、ザルクが裏でトーマ様に剣術を教えていたと聞きましたが、その剣はトーマ様には大き過ぎるのでは?」

確かに現在トーマは体を鍛えているがと言うカキーに、ロンドは笑う。

「いや、こちらは妻の剣です。いつもの剣より小さくしてありますから。聖者様のはこちらの一般的な大きさのものですよ。父からのプレゼントです」

「…懐妊中と聞いたが?」

「?ええ。そうなんです。ありがたい事に。なので、体が鈍らない様にと剣を欲しがりまして。いつもは一回り大きな剣を使うのですが、さすがに危ないですからね。こちらで我慢してもらいます」

カキーは少し遠い目をし、ポウルが大きく頷いていた。

「そうか。ふむ、そちらの剣ならトーマ様に良いでしょう。マト。トーマ様をここへ」

「かしこまりました」

気配を消していたマトが、すぐさまトーマを呼びに行く。

現在は神殿の中で、こっそり体を鍛えているのだと聞いた。

「聖者様は努力家だな。父様も見込みがあると言っていたから、良い騎士になるでしょう」

「そうですね。父様の訓練を受けたのなら、きっとそうなりますよ」

にこにこと話すロンドとリトに、周りはザルクが見本になっていたのなら、トーマがゼルブライトを目指すはずだと心の中で思った。

「お待たせしました。ザルク団長から、剣を頂いたと聞いたのですが…」

嬉しそうに部屋に入ってきたトーマは、仲良くリトと話すロンドを見て言葉を失う。

「ああ、トーマ様。こちらはザルク団長のご子息で、リトの兄のロンドです」

カキーが紹介すると、トーマはどこかホッとした顔をして、ロンドに頭を下げる。

「初めまして聖者様。王都で商人をしております、バーグ公爵家のロンドと申します。父より剣を預かって参りました」

「初めまして。トーマです。どうぞトーマと呼んでください」

「分かりました。では、早速剣をお見せしますね」

ロンドはそう言って立ち上がるが、その巨体と逞しさに、トーマはあんぐりと口を開けている。

気を取り直し、剣を確認すると、大剣を目にして固まる。

「ええと。…僕にこの剣が扱えるでしょうか…」

トーマの言葉に、ポウルがゴホンゴホンと咳払いをした。

「トーマ様の剣は、そちらではなくて、こちらの剣ですよ」

そう言って、もう一つの剣だと教える。

「ああ!そうですよね!すみません勘違いをしました。…ええと、それではこの剣は?」

「私の妻の素振り用ですよ」

「…素振り…」

それ以上言葉の出ないトーマを、リトとロンドは不思議そうに見ていた。

「…ロンドの奥方も騎士団の出なのです。私と同じようにザルク団長の元で日々切磋琢磨していた方ですよ」

ポウルがフォローする様に説明すると、トーマは納得した様に大きく頷いた。

「どうぞ。加護を加えて軽いですが、丈夫にしてあるそうです」

「はい、ありがとうございます。…まだまだ僕にはこの剣も重いですね」

頑張りますと言うトーマを、皆は微笑ましく見ていた。

「あの、ロンド殿は商人とお聞きしましたが、やはり剣術もされているのですか?」

「ええ。もちろん。父より、もしもの時に家と家族を守れる様にと幼い頃から鍛えられました。今は愛する妻も身重ですし、今まで以上に訓練をしていますよ。リトも、私程では無いですが剣術を習ってきましたしね」

トーマの質問にロンドが答えると、トーマは驚いた顔でリトを見る。

どうしたのだろうとリトが首を傾げていると、トーマはリトもこの大剣を使っていたのかと聞いた。

「いえ、まさか。危ないですからね。リトは持ち運びは出来ますが訓練時は刃を殺した鉄剣でしたよ」

笑いながらロンドは言うが、それでも普通では無いのだと言うタンタル達の顔を見て、トーマはそうですかと小さく頷いた。

「あの、持ってみても良いですか?」

「こちらを?ええ。気を付けてください」

ロンドはそう言ってトーマに剣の持ち手を握らせた。

「…!!グッ!!…お、重い」

トーマは大剣を持ち上げ様とするが、全く上がらない。

「トーマ様、ご無理をなさらず…」

リトはふらつくトーマを支え、片手で剣を受け取る。

「!!?」

細身のリトが軽々と片手で剣をロンドに返す様子を、トーマは呆然と見ていた。

「…僕、今日からもっと訓練と体作りを頑張ります。必ずこのくらいの剣を素振り出来る様に!」

決心した様に言うトーマをリトとロンドは微笑ましく見ているが、他の者達はそこまでしなくて大丈夫ですと、喉元まで言葉が出掛ける。

そうこうしていると、昼の時間になり、カキーはロンド達もこちらでどうぞと許可を出す。

「リトもこちらで食べて行けば良い。タンタルは騎士団へ戻るだろう?周りにそう伝えておいてくれ」

「分かりました。では私は先に帰りますね」

「私は先に王都へ帰りますので、食事は途中で取る事にします。それではロンド、私はここで」

タンタルはそう言って騎士団へと、ポウルは王都へと戻って行く。

トーマも一緒に食事をしたいと申し出たので、ロンド達は快諾し、揃って食堂へと移動した。

神殿の食堂にはランラの姿もあり、リト達は同じ席にお邪魔する事になった。

今は作業の関係で、騎士団の方で食事をしているとリトが説明すると、ロンドはランラはなぜこちらなんですかと聞く。

「ああ、俺は子供を預けているから、様子を見るついでに神殿で食べるんだよ。そう言えば、奥方が解任されたと言っていたな。ハール殿だろう?」

「そうですハールです。最近やっと安定期に入りまして、体が鈍ったと嘆いていますよ」

「俺も同じだったから分かるよ。産まれてすぐはさすがにゆっくりしないと体に悪いから、座ったままで素振りくらいにしておいた方が良いと伝えておいてくれ。昔は良く一緒に訓練を受けたよ」

どうやらランラは王都の騎士学校出身だった様で、ハールとは顔馴染みなのだと言った。

貴族ではあったが、信仰深い一族であった為、三男であるランラが神殿騎士を希望すると大変喜んでくれたと言う。

「ええと、ロンド殿、ライラ殿」

「はい?」

「失礼ですが、どの様に体を鍛えていたのか、僕に教えてもらえませんか?」

トーマの言葉に、ランラとロンドは顔を見合わせる。

(トーマ様。とてもやる気が感じられますね。素晴らしい)

リトが感動していると、ランラとロンドも笑顔で頷いた。

「そうですね。まずは食事をしっかり摂る事が重要です。その上での筋肉作りですね。私はあまり甘い物は好みませんが果物は良く食べます。そして出来るだけ肉や魚、豆を摂る様にしています。もちろん野菜も。穀物は控えめに」

ロンドがそう説明すると、ランラも大きく頷く。

「俺も同じ様な物だな。騎士団は基本的に神殿の倍は飯を食う。そうしないと体が作られないし、訓練にもついて行けないからな。あとは腰を痛めない様に気を付けながら、素振りや筋肉作りを行う。もちろん走り込みもしたな。無理をしない程度に、少しずつ回数を積み重ねていけば良い」

「なるほど」

トーマはとても真剣な顔で二人の話を聞いているが、周りはトーマがロンドやランラの様になるのかと、少し遠い目をしていた。

「私が毎日している運動を、食後にお教えしましょう。軽いものですが、足腰を鍛えるにはもってこいですよ」

ロンドはトーマのやる気を気に入った様で、日々の訓練を教えると笑顔で言った。

(兄様でしたら、きっと良い指導が出来るでしょうから、トーマ様も無理なく鍛えらえるでしょうね)

にこにことリトはその様子を見ていたが、周りは大丈夫なのかとハラハラしていた。

その後食事を終えると、ロンドはトーマに教えてから、帰り際にそちらに寄ると言って別れた。

「…なぁリト。もしかして、ロンド殿を呼んだのは君かい?」

騎士団の作業場に向かいながら、ランラがリトにそう問いかける。

ロンドはリトの手紙を見て来たと言っていたからだ。

「ええと、確かに手紙は送ったのですが。まさか兄が来るとは予想外でした」

正直に答えると、どんな手紙を送ったのかとランラは言う。

「失礼ながら、今回こちらに試験に来られる方々の資料を見て、問題が起きるのではと危惧しました。それで、父に本当に大丈夫なのかと手紙を送ったのです。監視的な役目の方も必要だと思いましたから」

「なるほど。一応王都では騎士として務めている訳だから、あちらは監視を付けるつもりはなかっただろうし、その必要も無いと考えるのは妥当だものな。あの様な行いをするとは、あちらも思ってはみなかっただろうし」

リトは大きく頷く。

彼らが自分の力を過信したなら、監視も必要だろうが、彼らは立派な王都の騎士なのだ。

わざわざ監視がつくなど、それこそ恥である。

だが、リトはあの資料を見て、貴族で少し剣が使えるからと騎士になれただけの者達が、王都を離れどういった動きをするか危惧していたのだ。

「私の過剰な心配で済めば良かったのですが、やはりあの様になりましたからね。…失礼ながら、あの騒ぎを静観されていた公爵家の方などは大丈夫でしょうと思っていましたが、サン殿には信用がありませんでしたから」

「ほう?モルトの元婚約者かい?」

リトは大きく頷く。

「彼の悪評は私も知っていましたから。彼はトライド伯爵家の人間ですが、それだけで騎士団でも役職がついているんですよ。父や兄の様に鍛錬もせず、遊び呆けているのに。その様な方が、こちらで大人しくしているとは思えませんでした」

サンはトライド伯爵家の嫡男である。

「トライド伯爵家か。アイーダ公爵派の筆頭だな」

ランラの言葉に、リトは大きく頷く。

アイーダ公爵家は現王の弟殿下が降下した公爵家で、血族主義・貴族主義を明言しており、リトは良い感情を持っていなかった。

現王であるジョエルとその弟であるカキーは前王と公爵家から嫁いだ王妃から生まれたが、アイーダ公爵であるクンは、前王と伯爵家から嫁いだ妾妃の息子である。

降下した後は結婚しているのだが、結局子供は授からず、二年前に奥方は病死している。

(予想ですが、ルーベルト殿下をそそのかしたのも、アイーダ公爵家関係でしょうね)

「今回、アイーダ公爵派の名前が不自然に多かったんです。今後も何か起こすかもしれません」

「なるほどな。俺も気を付ける様ゼルブライト団長に言っておこう」

「はい。ありがとうございます。ニールも、きっと気付いていると思います」

ニールの婚約者であったアンドリューは、前王弟の降下したモンド公爵家だが、中立的思考の公爵家だ。

その友人であるガンの家も、モンド公爵家よりだが、今現在彼らが本当に中立的なのかも謎だ。

(トーマ様が彼らに利用される未来は、私も望みませんからね)

そう思いつつ、リトはランラと共に作業場へ急いだ。



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