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追憶~そして・・・
それから
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殴られた傷の経過も良くアオイは退院し時間は流れた。
汗ばむ日々と肌寒い風の繰り返す秋の始まり彼等の日常に特に変化もなくあの日の出来事など無かったかのように過ぎて行く毎日にアオイは安堵していた。
結局彼女とは、アレ以来連絡は愚か、夢の中で会うことさえも・・・
だがこれで良いもう二度と使うことは無いだろうと思いアオイは、パスケースを自室の小物入れの底に納め小さく頷く。
今日はアカネに近所の広場へと呼び出されていた彼は身支度を整え始めた少し気合いを入れ過ぎたかなと思いながらもセッティングに満足しながら部屋を出てふと居間の壁掛け時計に目を向けると、待ち合わせの時間が迫っていることを勤勉な時計の針達が告げていた。
近所とは言え彼の家からは少し離れた場所にある広場に今から出発すれば遅刻は必然である一瞬だけ小物入れをひっくり返す事も考えたが、思い直して靴を履き少しでも待たせないようにと急ぎ向かった。
同刻、待ち合わせ場所の広場でアカネは一人、彼を待ち焦がれる
「時間を間違えたかしら?」
右手首に巻かれた白革の腕時計と広場のモニュメントに埋め込まれた時計を見比べながら指し示す時に差が無いことを確認するとベンチに腰掛けながら彼をどう揶揄おうかを思案し口許に笑みを浮かべながら敢えて待ち人が見えぬように入口に背を向け空を眺めていると狙い通り彼は走ってやって来た。
「お・・・お待たせ、遅くなった」
全力で走って来たのだろうか髪や衣服は乱れ息も絶え絶えになりながらも機嫌を伺いながら話し掛けるアオイの目線の先には、俯き気味に腕時計を眺めるアカネが小さく溜め息を漏らし無言で彼の遅刻を非難する眼差しを送る。
「ごめん悪かったよ、その・・・眠れなくってさ昨日・・・た、楽しみで今日がさ」
辿々しく言い訳を量産する彼に彼女は、漸く口を開く
「ねえ、私のこと好き?」
叱責を免れないと思った矢先に意外な言葉が出てきて困惑のあまり言葉に詰まる様子を見て微笑む彼女を見た彼はさらに混乱し何かを試されているのではないかと長考の末に迷いを振り払うように首を横に往復し一言
「す・・・スキダヨ」
顔を赤らめて言うそのぎこちない言葉を聞き彼女の堪えていた口が耐えられず笑い声を吹き洩らしその光景を見て揶揄われていることを察し拗ねるアオイの手を取りアカネは立ち上がる
「えっ、あ」
「フフッ、ごめんなさい少し揶揄ってしまって」
驚き一瞬素に戻ったアオイは再び渋い顔をして許していないことをアピールするがアカネは気にせず握った手を引き広場の外へと向かう
彼が抗議の声を挙げようとした瞬間にアカネは歩みを止め互いの肩がぶつかる
「急に止まるなって、大丈夫か?」
「ええ、ありがとう大丈夫よ」
そう言うアカネの目線の先には小さい男の子が泣きそうな女の子の手を引き親の所に向かって行く様子だった。
「懐かしいわね、あの時を思い出すわ」
「あの時・・・ああ、そうだな」
そう言えばと以前の会話を思い出していた
昔アオイが彼女にプロポーズをしたと
だが彼は覚えておらずアカネを怒らせてしまう結果になったのであったがそれは助けられなかった過去の話であり救出に成功し改変された今ではその話に至っておらず態々怒らせる必要もないと昔の思い出を忘れてしまったことは彼の胸の奥へと秘められ話を適当に誤魔化し終わらせると今度はアオイが手を引き二人は広場を後にして葉が少しだけ茜色に色づき始めた並木道を歩く
「で、何処に行きましょうか御嬢様?」
アオイは、ワザと不貞腐れたように彼女に訪ねた。
彼は今日広場に来るようにとだけしか伝えられておらず何処に行き何をするかも知らされぬまま呼び出されたのだった。
アカネはそんな不機嫌な彼の耳元で一言
「今日は私がリードしてあげるわ」
妙に色気ある艶っぽい声で囁かれ先程とは別の意味で赤面するアオイを再び揶揄うような微笑みに彼は苦い顔で返す
「また僕をオモチャにしようと・・・」
流石に二度目とアオイは怒り気味に言葉を連ねると彼女は彼の口に人差し指で封をして話し始めた
「違うわ、今日はこの前の・・・あの日の御礼をしたくてアオイを呼んだのよ」
先程までのイタズラな雰囲気を払拭するようにそう言うと指をそっと離し彼女は彼の様子を伺う様に見つめていると彼は苦笑いをしながら
「僕も大人気なかったよ、ごめん」
そう言うと彼は手を差し出して続ける
「今日はエスコートをお願いするよ」
「ええ、任せてちょうだい」
その手を彼女が取り二人はまだ少しだけ暑さを残した初秋の蒼い空の下を歩き出す。
汗ばむ日々と肌寒い風の繰り返す秋の始まり彼等の日常に特に変化もなくあの日の出来事など無かったかのように過ぎて行く毎日にアオイは安堵していた。
結局彼女とは、アレ以来連絡は愚か、夢の中で会うことさえも・・・
だがこれで良いもう二度と使うことは無いだろうと思いアオイは、パスケースを自室の小物入れの底に納め小さく頷く。
今日はアカネに近所の広場へと呼び出されていた彼は身支度を整え始めた少し気合いを入れ過ぎたかなと思いながらもセッティングに満足しながら部屋を出てふと居間の壁掛け時計に目を向けると、待ち合わせの時間が迫っていることを勤勉な時計の針達が告げていた。
近所とは言え彼の家からは少し離れた場所にある広場に今から出発すれば遅刻は必然である一瞬だけ小物入れをひっくり返す事も考えたが、思い直して靴を履き少しでも待たせないようにと急ぎ向かった。
同刻、待ち合わせ場所の広場でアカネは一人、彼を待ち焦がれる
「時間を間違えたかしら?」
右手首に巻かれた白革の腕時計と広場のモニュメントに埋め込まれた時計を見比べながら指し示す時に差が無いことを確認するとベンチに腰掛けながら彼をどう揶揄おうかを思案し口許に笑みを浮かべながら敢えて待ち人が見えぬように入口に背を向け空を眺めていると狙い通り彼は走ってやって来た。
「お・・・お待たせ、遅くなった」
全力で走って来たのだろうか髪や衣服は乱れ息も絶え絶えになりながらも機嫌を伺いながら話し掛けるアオイの目線の先には、俯き気味に腕時計を眺めるアカネが小さく溜め息を漏らし無言で彼の遅刻を非難する眼差しを送る。
「ごめん悪かったよ、その・・・眠れなくってさ昨日・・・た、楽しみで今日がさ」
辿々しく言い訳を量産する彼に彼女は、漸く口を開く
「ねえ、私のこと好き?」
叱責を免れないと思った矢先に意外な言葉が出てきて困惑のあまり言葉に詰まる様子を見て微笑む彼女を見た彼はさらに混乱し何かを試されているのではないかと長考の末に迷いを振り払うように首を横に往復し一言
「す・・・スキダヨ」
顔を赤らめて言うそのぎこちない言葉を聞き彼女の堪えていた口が耐えられず笑い声を吹き洩らしその光景を見て揶揄われていることを察し拗ねるアオイの手を取りアカネは立ち上がる
「えっ、あ」
「フフッ、ごめんなさい少し揶揄ってしまって」
驚き一瞬素に戻ったアオイは再び渋い顔をして許していないことをアピールするがアカネは気にせず握った手を引き広場の外へと向かう
彼が抗議の声を挙げようとした瞬間にアカネは歩みを止め互いの肩がぶつかる
「急に止まるなって、大丈夫か?」
「ええ、ありがとう大丈夫よ」
そう言うアカネの目線の先には小さい男の子が泣きそうな女の子の手を引き親の所に向かって行く様子だった。
「懐かしいわね、あの時を思い出すわ」
「あの時・・・ああ、そうだな」
そう言えばと以前の会話を思い出していた
昔アオイが彼女にプロポーズをしたと
だが彼は覚えておらずアカネを怒らせてしまう結果になったのであったがそれは助けられなかった過去の話であり救出に成功し改変された今ではその話に至っておらず態々怒らせる必要もないと昔の思い出を忘れてしまったことは彼の胸の奥へと秘められ話を適当に誤魔化し終わらせると今度はアオイが手を引き二人は広場を後にして葉が少しだけ茜色に色づき始めた並木道を歩く
「で、何処に行きましょうか御嬢様?」
アオイは、ワザと不貞腐れたように彼女に訪ねた。
彼は今日広場に来るようにとだけしか伝えられておらず何処に行き何をするかも知らされぬまま呼び出されたのだった。
アカネはそんな不機嫌な彼の耳元で一言
「今日は私がリードしてあげるわ」
妙に色気ある艶っぽい声で囁かれ先程とは別の意味で赤面するアオイを再び揶揄うような微笑みに彼は苦い顔で返す
「また僕をオモチャにしようと・・・」
流石に二度目とアオイは怒り気味に言葉を連ねると彼女は彼の口に人差し指で封をして話し始めた
「違うわ、今日はこの前の・・・あの日の御礼をしたくてアオイを呼んだのよ」
先程までのイタズラな雰囲気を払拭するようにそう言うと指をそっと離し彼女は彼の様子を伺う様に見つめていると彼は苦笑いをしながら
「僕も大人気なかったよ、ごめん」
そう言うと彼は手を差し出して続ける
「今日はエスコートをお願いするよ」
「ええ、任せてちょうだい」
その手を彼女が取り二人はまだ少しだけ暑さを残した初秋の蒼い空の下を歩き出す。
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アカネちゃんの積極的な雰囲気がスゴく良いです。アオイは誘惑にどんな対応を見せるのか、今後が楽しみですw