逃避行

KuRam0321

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四、終末

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 朝十時学校から連絡が来たらしく、眠っていた所をお母さんに起こされ、私は学校に行く支度をしてお母さんと一緒に学校に行く。
 心の中は相変わらず空っぽのまま。いつもより人の声が遠のいていく感覚。終業式が終わって先生達しかいない静かな学校。
先生が
「大丈夫?朝警察が来て凄くビックリしたのよ。」
と、まるで学校で私を別室に放置していたのを忘れたかのように話す。
私は
「はい…。すみません…。」
と答えた。
別に心配して欲しい訳じゃない。何かして欲しい訳じゃない。私は楽しい時間を返して欲しいだけだった。

…?
 私がおかしいのだろうか。先生とお母さんは何を言っているのだ?先生なんて、特にこの件に関しては本当に関係がない。彼女と居る時、久しぶりにあんなに笑えた。たったの三日間とは思えないほど楽しかったあの時間は、悪い事だったのだろうか。感覚が鈍る。頭痛が、目眩がしてくる。
 気づけば目の前には児童相談所の人と市役所の人が来ていた。
 私はありのままを話した。家族、主におばあちゃんが嫌いだと。だがお母さんはそれをオブラートに包んで「馬が合わない」と言い直した。
 やはり私がおかしいのだろうか。ダメだ。これ以上深く考えると頭がパンクしてしまう。

 考える事を放棄して私は適当に相槌を打って話しを合わせた。その時私はよく分かっていなかったが児童相談所に行くことになった。
 二週間程で出られると聞いた。だが今すぐは空きがないらしく、あと数日間は家に居ないといけないらしい。
 私は児童相談所の人に聞いた。
「スマホは…もちろんダメですよね…?」
もしも、児童相談所がいいと言ってもお母さんが許さないだろうと思ったが一応聞いてみた。隣に居る母は驚いた顔をしていた。
「うーん。ちょっと、ダメかなぁ…。」
私は「ですよね」と短く返し俯きながら笑った。
その時の母の顔は見なかった。きっと、呆れた顔をしていたのだろう。帰ってきてどっと疲れが出る。

 二日ほどだろうか。驚くことにスマホはまだ没収されなかった。児童相談所に行くからだろうか?お母さんの意図が読めない。
 とりあえずその間はあの子と、あいなちゃんと家出の時、別れた後どうなったかなど話し合った。
 
その時、あいなちゃんのLINEのステータスメッセージを見た。
「さ  び  し  い  な」
と、書いてあった。それはそうだろう。大好きな恋人と話せないのだ。
 その時は警察の監視下にあると予想されていた。下手に話すとややこしい事になると想像された。
 そこで私はいい事を思いついた。私のアカウントを貸せば良いのでは?と。
 とりあえずあいなちゃんに提案してみた。
「私のアカウントちょっと貸すよ?」
すると、「なんでー?」と返って来た。
 いきなりの提案で理解が追いついてないようだった。だから
「話したいでしょ?」
と言ってみると、
「あー。たしかに話したい」
と言われたので、今度はTwitterに飛んでかずまに話しをしに行った。
 DMで
「ねー!!彼女様と話したい?話したいならアカウント貸すけど」
と言うと、
「神様だ…」
とまず返ってきた。神なんて大袈裟だな。と思った。でも喜んでくれて良かった。だが、次の言葉にはビックリした。
「うーん…焦って話さなくてもいいかな」
!?!?…話さなくてもいいということなのだろうか。
「ゆっくり話したい」
 ビックリした。話したくないという意味かと思った。
 私は"話したいけど、ゆっくり話したい。"という意味で捉えた。
 これをあいなちゃんにスクリーンショット付きで話した。
「ほうほう、んー、ということは」
「良いって事やね!」
私はルンルンで話しを進めた。だが予想外の言葉が並んでいた。
「話さなくてもいいということか…」
ビックリした。なんでそうなった!?私は何とか説明した。
 まぁ、なんだかんだあってアカウントを貸す事になった。
「私は一旦離れるから自由に使ってもいいよ」
と言った。すると
「ツイートとかもしていいの?」
と質問されたので私は、
「アカウント返してくれる時に消してくれればいいよ笑」
と言った。何とか二人で話す時間を作ってあげたかった。こんなことしか出来ないけれど、私なりの優しさだった。

 だが、本当に二日だった。スマホがない。
 すると、探している所をうっかりお母さんに見られてしまった。
「スマホはもう解約するから。」
と、一言言われた。
 当たり前だ。自分でもそう思った。だってネットで出会った人を勝手に家に泊めて、危険な目にあったのだ。普通の親の判断だろう。だがお母さんはそういう、手続きだったり色々苦手な面があった。だから、おそらくすぐには解約しないだろうと思った。私にはやらないと、聞かないといけないことがあった。あの子に。聞かないと、お願いしないと。

 お母さんがお風呂に入った所を確認し、私はスマホを探した。スマホは一分もしない間に見つかった。大体検討はついてたのだ。テレビ台にして使っているタンスの中。
 私は、急いだ。まず、スマホを起動させるのに時間がかかった。私の家は湯船に浸かることが禁止されていた為、みんなシャワーで終わる。つまりはお母さんも早く上がって来てしまう。心だけ焦っても仕方がないと思い、私は一旦深呼吸をきて落ち着いた。
 スマホが起動されると、心臓がまたドキドキ鳴り出した。何から話せばいいのだろうか。
 私は細かくして文を送った。まず解約されるということを伝えた。そして、
「私」
「ピッピと別れないと」
 その文を打った瞬間だった。自分でも理解出来なかった。ドキドキしているから?いや違う。痛い。辛い。辛い辛い辛い辛い辛い辛い辛い辛い辛い。なんで…私泣いてるんだろう。これが失恋ってやつなのか?
 一瞬考えてしまったがスマホに落ちた涙を拭って私は打った。伝えなくちゃいけないことをあいなちゃんを通して。あいなちゃんは
「…待ってくれるんじゃない?」
と言ってくれたが、
「何年も待たせてられないわ」
この時悟っていた。私は年単位で戻ってこれないことを。戻って来るのがいつになるか分からないことを。
 だから打った。本音じゃない本音を。スマホという薄っぺらい機械を通して言葉にして、文字にする。
「ピッピは若いし、優しいから本当はもっと」
「素敵な子と付き合った方が良いと思ってたの」
「何年も待たせてたら人生なんてあっという間だし」
「ピッピが待っている間に私がぽっくり逝った場合」
「ピッピに申し訳ない」
私は連投した。涙をボロボロ流しながら画面を見ながら。目が乾くまで。
「それで」
「今日からスマホは完全に使えなくなる」
「から、君を優先して今話してる」
 あいなちゃんは自分なんかを優先していいのかと説いてきたが、私はその時あいなちゃんが最重要人物だと思った。
 何故ならこの家出の目的は、あいなちゃんとかずまを幸せにする事が最優先だったから。
「私もピッピと別れたくないし、大好きなの。でも、仕方ない気がするの。」
辛い。仕方ない。私が選んだ道だから。
最後に、あいなちゃんにこの文章をピッピに送ってとお願いした。

『私、遥はレンのことが心から大好 きです。 でも今回の件で、 スマホが解約されることになっ
た。 それで、いつ戻ってこれるかも分
からない。 本当に、申し訳ないけど
レンには私のことを忘れて欲しい の。
急で本当にごめんなさい。
レンはまだまだ若いし 私もこんな事言いたくなかった。 それに言えるタイミングも無くて 事が早く進みすぎてスマホも使えないし 伝えられなくてごめんなさい。
これからも、きっと私を待つより 良いと思うの。

私、 施設に行くことになったの。

普通の保護の 言えなくてごめんなさい。

会いたかった。 本当は手紙書いて 写真送る予定だったんだけど、 間に合わなくて...

とにかく... 私を忘れて強く生きて欲しい。 頑張って欲しいんだ。』
中学二年生の拙い文章。

 こんなことをお願いしてしまうのは本当に申し訳ないと思った。だけれども、この時はこれしか考えられなかった。
「そっちも上手くやってな」
 私はその言葉を最後に連絡をとるのを辞めた。
 その後は泣いた。いつも心の支えになってくれた人達が皆んな消えた。死ぬことも考えた。でも、もしいつかまた出会えたら。そう思って踏みとどまった。そんな日やってこない事も知っていたけど、少しの希望を持って。
 私、こんなに人を愛せる人になったんだな。

 次の日、私はお母さんに言われた。
「あんた家族全員犯罪者にしたんだからね。自覚持ちなさいよ。」
 私、書き置きになんて書いたんだっけ。どれだけ私が追い詰められて居たかなんて知りもしないんだな。事の発端はあいなちゃんじゃない。お母さんなのに。結局、何も分かってない。私がどうやって行動を起こしても、分かってくれない。普通、家出したら自分達も悪かったのではないかと考えるものではないのだろうか。
 何故私や、あいなちゃんのせいになっているのだろうか。
 何故、事情も聞かずにそんなことを言うのだろうか。やはり、私の家族は狂っている。
 私が間違っているのだろうか。いや、私は間違っていない。正しい事をしたと思う。今まで私が受けてきた事。家族にされてきた事。忘れたとは言わせない。
 でも、言い返せなかった。怒鳴られるのが怖かった。あいなちゃんの悪口を言われる度、私の心は傷ついた。人生の中で唯一リアルで楽しい時間を与えてくれた人の悪口。勿論、代償は大きかった。でも、そんなの誰だって聴きたくないだろうに。三十分間耐え続けた。だがその三十分間は何時間にも感じた。

 私は児童相談所に行った事はなかったが、スマホが使えた時、あいなちゃんからどういうところか事前に聞いておいた。
 私と別れたあと、児童相談所に一日居たらしい。
 怖い人が居たとか、何人部屋かとかそういうことを聞いた。私は誰にでも愛想良く話しかけるタイプだった為、怖い人とも仲良くなる気満々だった。

児童相談所に行く日が来た。

二章[完]

次の章からはあいな編に戻ります!
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