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「知ったことじゃないわよ! 私はただの学者であって――」
うねりを見せていたマンティコアの尻尾が一度ゆっくりとしなった直後、それは鞭のように鋭く振るわれ、
「こんなのは専門外なんだってば!」
叫びながら、アリスが思い切り横へと飛ぶ。その瞬間、直前までアリスが立っていた石の地面に、毒針が勢い良く突き刺さった。
「アリス、気を付けて! あの針、刺さったらタダじゃ済まないわよ!」
ルースが声を上げ、
「そんなこと、見たら判るわよ!」
アリスも大声で返す。抱えていた鞄を適当に床に置くと、
「なんで私がこんな……」
羽織っていたローブを脱ぎ去り、細身のシャツとパンツ姿になる。腰元にはいくつかのポーチを携え、前垂は簡単に開けられるようスナップで留められていた。その中の一つから、片手で小瓶を三つ程取り出す。橋の下でトゥーラをスーツの男から助けた際に使ったものと同じ、液体火薬が入った瓶だった。
「ルー。即効で片を付けるわよ! あいつぶん殴ってやらなきゃ気が済まない!」
「同感だわ!」
アリスとルースが言い、それを合図にしたかのようにマンティコアが床を蹴る。アリス達も真正面から同時に駆け出し、迫り来る巨大なライオンの顔に対峙する。マンティコアがその勢いに体重を乗せて腕を振り上げた瞬間、アリスは腰を落としマンティコアの体躯の下に滑り込んだ。反対にルースは上方へと飛び、マンティコアの背中へと見事に着地。
マンティコアの足許をすり抜けたアリスは、振り向きざまにその手の瓶を放る。それは背中を向ける魔物の手前に落ち、地面に炎の壁を発生させた。獲物を仕留め損ねたマンティコアが炎の向こうでゆっくりとアリスに向き直り、再び突進しようと機を窺う。
「ルー! やって!」
ルースに指示を出しながら、同時にアリスはポーチから新たに小瓶を取り出し、炎の中へと投げくべる。床に当たった瓶が弾け、炎は更にその背丈を増す。
炎の壁に阻まれ身じろぎする魔物の背中で、ルースは優しげに口を開き、
「恨むならあの社長さんを恨みなさい」
マンティコアの首を一周するように、白い光の線が生じた。マンティコアの動きがぴたりと止まる。巨大な首が重力に従っておもむろにスライドし、やがて黒く焼け焦げた断面を見せながら音を立てて床へと落ちた。高熱を帯びた光を発生させ、一瞬で対象を切断するルースの術式。アリスとルースはその光の刃を屠殺者――アラドヴァルと呼ぶ。
分厚いガラス越しにそれを見ていたハイダルは苛立ちを隠さずに舌打ちし、
「炎に恐怖する兵器などいらん。改良させろ」
後ろに立っていた部下に命じた。
うねりを見せていたマンティコアの尻尾が一度ゆっくりとしなった直後、それは鞭のように鋭く振るわれ、
「こんなのは専門外なんだってば!」
叫びながら、アリスが思い切り横へと飛ぶ。その瞬間、直前までアリスが立っていた石の地面に、毒針が勢い良く突き刺さった。
「アリス、気を付けて! あの針、刺さったらタダじゃ済まないわよ!」
ルースが声を上げ、
「そんなこと、見たら判るわよ!」
アリスも大声で返す。抱えていた鞄を適当に床に置くと、
「なんで私がこんな……」
羽織っていたローブを脱ぎ去り、細身のシャツとパンツ姿になる。腰元にはいくつかのポーチを携え、前垂は簡単に開けられるようスナップで留められていた。その中の一つから、片手で小瓶を三つ程取り出す。橋の下でトゥーラをスーツの男から助けた際に使ったものと同じ、液体火薬が入った瓶だった。
「ルー。即効で片を付けるわよ! あいつぶん殴ってやらなきゃ気が済まない!」
「同感だわ!」
アリスとルースが言い、それを合図にしたかのようにマンティコアが床を蹴る。アリス達も真正面から同時に駆け出し、迫り来る巨大なライオンの顔に対峙する。マンティコアがその勢いに体重を乗せて腕を振り上げた瞬間、アリスは腰を落としマンティコアの体躯の下に滑り込んだ。反対にルースは上方へと飛び、マンティコアの背中へと見事に着地。
マンティコアの足許をすり抜けたアリスは、振り向きざまにその手の瓶を放る。それは背中を向ける魔物の手前に落ち、地面に炎の壁を発生させた。獲物を仕留め損ねたマンティコアが炎の向こうでゆっくりとアリスに向き直り、再び突進しようと機を窺う。
「ルー! やって!」
ルースに指示を出しながら、同時にアリスはポーチから新たに小瓶を取り出し、炎の中へと投げくべる。床に当たった瓶が弾け、炎は更にその背丈を増す。
炎の壁に阻まれ身じろぎする魔物の背中で、ルースは優しげに口を開き、
「恨むならあの社長さんを恨みなさい」
マンティコアの首を一周するように、白い光の線が生じた。マンティコアの動きがぴたりと止まる。巨大な首が重力に従っておもむろにスライドし、やがて黒く焼け焦げた断面を見せながら音を立てて床へと落ちた。高熱を帯びた光を発生させ、一瞬で対象を切断するルースの術式。アリスとルースはその光の刃を屠殺者――アラドヴァルと呼ぶ。
分厚いガラス越しにそれを見ていたハイダルは苛立ちを隠さずに舌打ちし、
「炎に恐怖する兵器などいらん。改良させろ」
後ろに立っていた部下に命じた。
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