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アリスは倒れている黒服の男を踏みながら少年へと歩み寄ると、先程男に投げ付けたものと同じデザインの小瓶を取り出す。黄色く着色された瓶の蓋を取り、少年の鼻先に近付けた。途端、
「う、うわっ!」
少年が飛び起きた。
「おはよう、少年」
アリスはにこりともせず挨拶をすると、気付け薬の入った瓶に蓋をしてローブの下へとしまう。代わりに取り出した封筒を少年に差し出した。
「郵便屋さん、か?」
地面に座ったまま、きょとんとして訊ねる少年に、
「こんなに地味で怪しい郵便屋さん居ないわよ」
ルースがアリスを舐めるように見ながら応えた。一瞬ムッとしたアリスが、
「この手紙の内容が気になってこの町に来たの。私は錬金術を研究してる、アリス・ロシュフォール。こっちの派手でうるさい狐はルース。あなたは?」
「トゥーラ」
あどけなさの残る顔立ちでアリスを見つめながら、少年は短く自分の名を告げた。やや長く伸ばしたダークブラウンの髪に、同じ色の瞳。レースアップシャツの襟元からは浅黒く健康的な鎖骨が覗く。
「トゥーラ、この手紙に心当たりはあるかしら?」
封筒から紙片を取り出したトゥーラが、目を近付けては離し、指でなぞり、何度も読む。やがて手紙をアリスに返しながら、
「……わからない」
首を横に振った。
「そう」
アリスが若干残念そうな顔をして、手にした手紙を睨む。そして、
「でも、ウロボロスの住処は知ってる。こいつら、僕をそこに連れて行こうとしてた」
トゥーラが、地面に横たわるスーツの男を見て言う。
「こいつら、ビヴロストの地下にある研究施設のことを、ウロボロスの住処って呼んでる」
「なるほどね」
アリスが口許を綻ばせて呟いた。
「――それより僕、シフラを探さないといけない」
突然思い出したようにトゥーラは立ち上がり、胸元に手を持っていくが、そこにペンダントが無いことを思い出す。地面に落ちたままだった銀のペンダントを拾ったアリスが、
「これ?」
差し出すと、トゥーラは安堵の表情を浮かべて受け取った。
「可愛い子ね。その子がシフラ?」
開いていたロケットの中、笑う少女の写真を見たアリスが訊ね、
「そうだ。僕が護らなきゃいけない。マスターと約束した」
トゥーラは強い調子で答える。マスターという呼び名に鋭く反応したアリスが、
「ルー、私達も一緒に探すわよ」
脇に座るルースに告げた。
「う、うわっ!」
少年が飛び起きた。
「おはよう、少年」
アリスはにこりともせず挨拶をすると、気付け薬の入った瓶に蓋をしてローブの下へとしまう。代わりに取り出した封筒を少年に差し出した。
「郵便屋さん、か?」
地面に座ったまま、きょとんとして訊ねる少年に、
「こんなに地味で怪しい郵便屋さん居ないわよ」
ルースがアリスを舐めるように見ながら応えた。一瞬ムッとしたアリスが、
「この手紙の内容が気になってこの町に来たの。私は錬金術を研究してる、アリス・ロシュフォール。こっちの派手でうるさい狐はルース。あなたは?」
「トゥーラ」
あどけなさの残る顔立ちでアリスを見つめながら、少年は短く自分の名を告げた。やや長く伸ばしたダークブラウンの髪に、同じ色の瞳。レースアップシャツの襟元からは浅黒く健康的な鎖骨が覗く。
「トゥーラ、この手紙に心当たりはあるかしら?」
封筒から紙片を取り出したトゥーラが、目を近付けては離し、指でなぞり、何度も読む。やがて手紙をアリスに返しながら、
「……わからない」
首を横に振った。
「そう」
アリスが若干残念そうな顔をして、手にした手紙を睨む。そして、
「でも、ウロボロスの住処は知ってる。こいつら、僕をそこに連れて行こうとしてた」
トゥーラが、地面に横たわるスーツの男を見て言う。
「こいつら、ビヴロストの地下にある研究施設のことを、ウロボロスの住処って呼んでる」
「なるほどね」
アリスが口許を綻ばせて呟いた。
「――それより僕、シフラを探さないといけない」
突然思い出したようにトゥーラは立ち上がり、胸元に手を持っていくが、そこにペンダントが無いことを思い出す。地面に落ちたままだった銀のペンダントを拾ったアリスが、
「これ?」
差し出すと、トゥーラは安堵の表情を浮かべて受け取った。
「可愛い子ね。その子がシフラ?」
開いていたロケットの中、笑う少女の写真を見たアリスが訊ね、
「そうだ。僕が護らなきゃいけない。マスターと約束した」
トゥーラは強い調子で答える。マスターという呼び名に鋭く反応したアリスが、
「ルー、私達も一緒に探すわよ」
脇に座るルースに告げた。
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