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第〇章・プロローグ――ミゼル
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ネーヴェが気乗りしないと言った理由は、エイミーの住む古い二階建てアパートを背景に、シスカ達がエイミー達と合流した際に明らかになる。
「やっぱりあんたも来たのね」
エイミーの足許に座る薄い水色の毛並みを持つ猫、ヒーロが嘆息しながら言い、
「例え出言不遜な者が居るからといって、主に同行しないわけにはいきません。それが、仕えるということですよ」
塀の上に立ったネーヴェが忌々しげに、嗜めるように返した。
「……本当にあんた感じ悪いわね」
ヒーロが吐き捨てるように言って、
「おや、気に障りましたか。これは申し訳ありません。雰囲気を悪くしてはいけませんので、私はしばし姿を消すことにしましょう。お嬢様、宜しいですか?」
シスカが了承すると、ネーヴェはその場でスッと消えた。
「あなた達も相変わらずなのね」
エイミーが苦笑しながら、すまして毛繕いの仕草をするヒーロに言った。黙って傍に座っていたメーセが、
「そんな奴らほっといて早いとこ行こうぜ。駅で待ち合わせなんだろ?」
「そうね、ごめんなさい。行きましょうか」
エイミーが応え、二人と三体は歩き出す。シスカは一度家に帰った際にスカートからグレーのズボンに穿き替えており、セーターの上からはフードの無い白いローブを羽織っていた。エイミーは先程と同じブルーアッシュのジャケット姿。二人はそれぞれ用意していた大きめの鞄を手に持つ。メーセとヒーロが先頭を歩き、フィオーレはエイミーの肩の上に。エイミーの家からラルフの提案したミッテ駅までは、歩いて十分程度で着く距離だった。
ミッテ駅はミゼルのほぼ中心に位置し、ミゼル発の殆どの長距離列車の始発駅となっている。二階建ての駅舎に売店などがいくつか立ち並ぶ大きな駅で、ホームは全部で三つ。列車はその全てのホームから二方向ずつ出ており、合計六つの街へと繋がる。
駅前は広場になっており、中心には大きな花壇。レンガ造りの丸い花壇には、四季折々の花が植えられていた。道は花壇を囲むようにして円を描き、脇にはミゼル内の大学の校章入りアイテム専門店や、魔術道具の専門店、雑貨店やレストランなどが並ぶ。それらは全て古めかしい外観の建物に収まり、景観を壊さないよう看板等は控えめにショーウィンドウの中に掲示されていた。
休日や朝夕は大勢の人や馬車が行き交う賑やかな場所だが、ラルフとエミリオが到着した昼下がりのミッテ駅切符売り場の人影は普段の半分程で、その殆どはライプフェルトの三年生だった。
「やっぱりあんたも来たのね」
エイミーの足許に座る薄い水色の毛並みを持つ猫、ヒーロが嘆息しながら言い、
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塀の上に立ったネーヴェが忌々しげに、嗜めるように返した。
「……本当にあんた感じ悪いわね」
ヒーロが吐き捨てるように言って、
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「あなた達も相変わらずなのね」
エイミーが苦笑しながら、すまして毛繕いの仕草をするヒーロに言った。黙って傍に座っていたメーセが、
「そんな奴らほっといて早いとこ行こうぜ。駅で待ち合わせなんだろ?」
「そうね、ごめんなさい。行きましょうか」
エイミーが応え、二人と三体は歩き出す。シスカは一度家に帰った際にスカートからグレーのズボンに穿き替えており、セーターの上からはフードの無い白いローブを羽織っていた。エイミーは先程と同じブルーアッシュのジャケット姿。二人はそれぞれ用意していた大きめの鞄を手に持つ。メーセとヒーロが先頭を歩き、フィオーレはエイミーの肩の上に。エイミーの家からラルフの提案したミッテ駅までは、歩いて十分程度で着く距離だった。
ミッテ駅はミゼルのほぼ中心に位置し、ミゼル発の殆どの長距離列車の始発駅となっている。二階建ての駅舎に売店などがいくつか立ち並ぶ大きな駅で、ホームは全部で三つ。列車はその全てのホームから二方向ずつ出ており、合計六つの街へと繋がる。
駅前は広場になっており、中心には大きな花壇。レンガ造りの丸い花壇には、四季折々の花が植えられていた。道は花壇を囲むようにして円を描き、脇にはミゼル内の大学の校章入りアイテム専門店や、魔術道具の専門店、雑貨店やレストランなどが並ぶ。それらは全て古めかしい外観の建物に収まり、景観を壊さないよう看板等は控えめにショーウィンドウの中に掲示されていた。
休日や朝夕は大勢の人や馬車が行き交う賑やかな場所だが、ラルフとエミリオが到着した昼下がりのミッテ駅切符売り場の人影は普段の半分程で、その殆どはライプフェルトの三年生だった。
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