ストレイン(仮)

犬塚ゆき

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第〇章・プロローグ――ミゼル

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 七つの大学を有するミゼルでは、一般的に中等教育が終了する十七歳から大学への入学が可能になる。しかしミゼルにおける大学入学試験のレベルは他の街より高く、学生の多くは中等教育の終了後一、二年予備校に通った後に入学試験を受ける者が殆どだった。
 シスカは中等教育を卒業後すぐに、エルスールに次ぐ難関校とされているライプフェルト大学を受験し合格。ライプフェルトは三年制であるため、十九歳のシスカにとっては今日から始まる学年が最終学年となる。
 ライプフェルト大学においては、最終学年になると学舎で学ぶことはしない。数人ずつの班に別れてミゼルの街を出たあと、一年間の旅を通じて実践的な魔術やその他の技術を学ぶ。
 生徒は始業式の際に渡される手帳を持ち各地へ赴いて様々な奉仕活動をする。依頼主から手帳への記入と報酬(依頼主には後からライプフェルトに請求することができる)の支払いをしてもらう。その記帳の数や活動内容によってその生徒の成績が決まる。基本は班での行動が原則だが、負傷している場合や、生徒の能力の傾向などによりその行動が不向きであると判断する場合はその限りではない。
 過酷ではあるが、より実用的な技術が学べると好評で、シスカもその最終学年を目当てにライプフェルトへの入学を希望したのだった。
 因みに全ての魔術系大学の卒業証明書はそのまま第一種魔術免許となり、それを有するものは政府公認のバウンティハンターや魔術に関する研究者に、更に薬品の取り扱いについての免許を持っていれば魔術薬の調合などの職に就くことができる。

「――っていうか、いいのか? 用意しなくて」
 いつの間にか南の窓際に移動していたメーセがシスカに訊ねる。窓の外、ミゼルの中心部へ向かうメインストリートでは、ミゼル内の大学の校章を身に着けた学生達が家々を出て学校へと向かい始めていた。それに気付いたシスカは、
「そうだった! こんなことしてる場合じゃない!」
 腕の中で再び眠りに就いていたフィオーレを布団の上に移し、ベッドを降りるとクローゼットの中から数点の衣類を掴み出して廊下へと飛び出していった。
 部屋に戻ってきたシスカは、薄手の白いセーターにブラウンオリーブの膝丈スカート姿。セーターの左肩には大学名と守護竜であるファフニールのシルエット、そして校花であるツキノヒカリバナが描かれた楯型校章の刺繍が入る。ミゼルの大学は基本的に服装は自由だが、入学式と卒業式の際は大学から支給される深緑色のローブを纏うこと、そして通学時やキャンパス外でのカリキュラムにおいてはそれぞれの大学の校章が付いたものを必ず一つ以上着用することが義務付けられていた。
 シスカは部屋を出た際にダイニングから持ってきていたパンを食べ終えると、セーターの襟から髪を出してブラシを通し、ハーフアップにしてバレッタで留めた。鏡台の上に無造作に置かれていた通学用のショルダーバッグを手に取り、
「じゃあ、行ってきます。今日は一旦帰ってくるから、それまで留守番お願いね」
 シスカは三体に言った。
「お気を付けて行ってらっしゃいませ」
「あぁ。気を付けてな」
「…………」
 ネーヴェは慇懃に、メーセは少し粗暴に、フィオーレは寝息でそれぞれ応える。シスカは魔獣達に手を振りながら部屋を出て、玄関で黒い靴を履き家を出た。
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