上 下
33 / 79
お兄ちゃんの幸せを守りたい

32.バトル

しおりを挟む
「だぁ~もう考えるの止めた。あなたを倒して私のボディーガードにします」

 きっと何を考えてもいい案なんて出なさそうだから考えるのを放棄。勢いでアイザックにバトルを挑む。

 今私がやらなきゃいけないのは、サクラ達の奪還。
 その後のことはなるようになればいい。

「そうこなくっちゃな」
「イロハちゃん。自暴自棄は身を滅ぼすよ」
「大丈夫です。ちゃんと自我はあります。……タスクさん合図をしたら得意な攻撃して下さい」
「え、あうん」

 お兄ちゃんのありがたい警告に勇気をもらい、スレ違う間際に小声で指示。
 そしてアイザックに突っ込めば、待ってましたとばかりニタッと笑い拳を振り上げた。
 懐に入る寸前で床を思いっきり蹴っ飛ばし宙に浮きアイザックの頭上に手を付く。勢いある拳は標的をなくし空振り僅かに体制を崩しかける。

「今です」

 その瞬間、お兄ちゃんに合図。私も攻撃を仕掛ける。
 お兄ちゃんの行動パターンは私に筒抜けだからどんな攻撃をするかは予想が付き、私はそれに合わせてステッキをアイザックに向ける。

水龍闇スイロウアン
雷矢闇ライヤアン

 バッーン

 まずお兄ちゃんが放った水の龍がアイザックを飲み込み、数秒後強化された私の無数の雷矢が次々と襲いかかる。
 私は地面に着地後のステッキを拳銃モードにして乱射。

 ダッダッダ

 普通の敵であれば一溜りもなく倒れるんだけれど、相手が防御力がやたらに高いアイザック。
 一定のダメージを与えただけでも、めっけもん。

「やったよね?」
「いいえ、まだです。何を攻撃しても構いませんが、接近戦にだけは持ちこまないで下さい。間違えなく殺されます」
「良くオレのことを知ってんじゃねぇか? ここまで追い込まれたのは久しぶりだぜ?」
鍵締封キバクフ
「何?」

 何も知らないお兄ちゃんは少しだけ油断を見せるが、それをきっぱり否定し新たなる警告を出す。

 肉体派のアイザックに接近戦でしかもさしで勝てたら、それはもうチートでしかありません。

 案の定瓦礫から出てきたアイザックはまだ余裕のある声だったけれど、至るところから血を流し右足を引きずっている。
 思った以上の大ダメージを与えたようで、心の底でガツッポーズ。
  アイザックが嵌めている細かなデザインが掘られているリングを封印すると、初めて表情に焦りが浮かび声も出す。
 俗に言うドーピングリングを無効化してしまえば、戦闘パターンが分かってる以上負ける気はしない。

「どう降参します?」
「むしろこれからだろう? こんなおもしれぇ戦い初めてだぜ?」
「今の所貴方が一方的にやられている気がしますけど?」
「これからに決まってんだろう? 出来ればお嬢ちゃんと格闘戦と行きたいとこだが」
「私を一体なんだと思ってるんですか?」

 強気に出たのがいけなかったのかアイザックは獲物を狩ろうとしている血に飢えたハイエナの瞳で見つめられる。ここで迫力負けなどしたくなく、さらに生意気にテンポの良い突っ込みも入れる。 

 こんな可愛い少女に格闘戦を申し込む男はやっぱり筋肉戦馬鹿だ。
 さっさと終わらせて先に急ぎたいんだけれど、どうすればいいんだろうか?

 お兄ちゃんをちらりと見ると呪文詠唱に集中していた。
 基本魔法はイメージする無詠唱なんだけれど、特に協力な攻撃魔法は長い呪文詠唱。その時は無防備になるから、仲間は衛るのが常識。
 幸いアイザックはまだお兄ちゃんに気づいていない。

「猫を被った野獣」
「失敬な。イロハちゃんは猫を被った子猫。いや、その正体は間違えなくエンジェルにだよ」

 私の突っ込みにアイザックはなんの迷いもなくおかしな事を即答する。ズルッと滑るもどうにか踏みとどまるも、どこからともなく沸いて出て来たアイリスの変態でしかない答えに勢いよく転けた。
 これにはアイザックも体制を崩し、今までの張り詰めていた戦いムードは台無し。

 なんで私はこんなマトモじゃない人達にモテるんだろう?
 こんなモテ期いらないよ。

「イロハちゃん、大丈夫? 助けに来たよ」
「子供達の救出は完了したの?」
「ある程度の目処は立ったから、二人に任せてきた」 
「…………」

 転けた私に手を差し伸べるがその手を払いのけ、自力で立ち上がり塩対応。なんと言うかもうある意味予想通りの答えに頭を痛める。

 アイザックを相手するだけでも骨が折れると言うのに、アイリスまで加わっては収拾がつきません。
 ……だけどこれに逆に使える?

「リーダー、今からこの人を倒すんで手伝って下さい」
「任せてよ。マイエンジェルの頼みならなんだって叶えるよ」

 試しに可愛らしくお願いすれば、アイリスは嬉しそうに胸を張りキモく答えた。アイザックに突っ込み、ポッケットから太い注射器を取り出しわき腹に思いっきり打ち離れる。
 台詞とは裏腹に見とれてしまう流れるようできれいな絵になる一瞬だった。
 ダメージがあったアイザックは表情をしかめガクンと膝をつき、注射器を力任せに引っこ抜く。

網縛封モウバクフ

 チャンスは有効活用しないと意味がないのでお兄ちゃんの魔法がより決まるよう、壁に張り付けアイザックの動きを封じる。

 蜘蛛の巣状の結界に捕らわれたアイザックはかなり負傷のため、見た目はある特殊な性癖が好むいけないアダルトな光景。

 今の私もこれはちょっと不味いのでは?

「イロハちゃんは見たら行けません」

 突然視界が遮られ何も見えなくなり、アイリスがまともなことを言っている。
 驚きすぎて開いた口が塞がらず。否定も肯定もできずにいると、またしても嫌な気配がして何かが壊れる音もした。

「嘘でしょ? あれはドラゴンでもイチコロのしびれ薬なのに、なんで動けるんだ?」
「え?」

 信じられない光景を目の当たりにした驚きもどこか怯えた声と台詞。私は無理矢理手を退け視界を作ると、アイザックはもがき結界を無理矢理破ろうとしている。

 恐るべき体力馬鹿。

 強力な痺れ薬で動けるだけでも驚くべきことだけれど、この結界だってそこそこ強力なはず。

「二人とも退いて。破雷龍ハライロウ

 そこでお兄ちゃんの声が聞こえ魔法は発動。

 稲妻を纏った龍は私達の横をすごい勢いですり抜け、もがき続けあと少しで破られそうになるアイザックを直撃し爆発。

 ドーンバキッ

 爆発音と共に鈍い音もする。

「やった?」
「さすがにあれだけまともに直撃すれば普通じゃなくても死んでると思うけど、……ちょっと様子を見てくるね?」
『え?』

 動く様子もないアイザックを見て今度こそ決着が付き一安心しようとした途端、ここで殺してしまうのは惜しいと思い恐る恐る近づく。
 するとナイスバディで碧髪ソバージュの精霊がアイザックを護ろうと、両手を開き涙をため立ちはだかる。

 確かこの子は、アイザックの精霊ミシェル。
 気が強くツンデレでもあり、アイザックの精霊っぽくない子。

「大丈夫、殺したりしないから」

 できるだけ優しく殺意がないことを伝えては見るけれど、敵の言葉なんか信じるはずなく動かない。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

他国から来た王妃ですが、冷遇? 私にとっては厚遇すぎます!

七辻ゆゆ
ファンタジー
人質同然でやってきたというのに、出されるご飯は母国より美味しいし、嫌味な上司もいないから掃除洗濯毎日楽しいのですが!?

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

私はお母様の奴隷じゃありません。「出てけ」とおっしゃるなら、望み通り出ていきます【完結】

小平ニコ
ファンタジー
主人公レベッカは、幼いころから母親に冷たく当たられ、家庭内の雑務を全て押し付けられてきた。 他の姉妹たちとは明らかに違う、奴隷のような扱いを受けても、いつか母親が自分を愛してくれると信じ、出来得る限りの努力を続けてきたレベッカだったが、16歳の誕生日に突然、公爵の館に奉公に行けと命じられる。 それは『家を出て行け』と言われているのと同じであり、レベッカはショックを受ける。しかし、奉公先の人々は皆優しく、主であるハーヴィン公爵はとても美しい人で、レベッカは彼にとても気に入られる。 友達もでき、忙しいながらも幸せな毎日を送るレベッカ。そんなある日のこと、妹のキャリーがいきなり公爵の館を訪れた。……キャリーは、レベッカに支払われた給料を回収しに来たのだ。 レベッカは、金銭に対する執着などなかったが、あまりにも身勝手で悪辣なキャリーに怒り、彼女を追い返す。それをきっかけに、公爵家の人々も巻き込む形で、レベッカと実家の姉妹たちは争うことになる。 そして、姉妹たちがそれぞれ悪行の報いを受けた後。 レベッカはとうとう、母親と直接対峙するのだった……

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

彼はもう終わりです。

豆狸
恋愛
悪夢は、終わらせなくてはいけません。

オタクおばさん転生する

ゆるりこ
ファンタジー
マンガとゲームと小説を、ゆるーく愛するおばさんがいぬの散歩中に異世界召喚に巻き込まれて転生した。 天使(見習い)さんにいろいろいただいて犬と共に森の中でのんびり暮そうと思っていたけど、いただいたものが思ったより強大な力だったためいろいろ予定が狂ってしまい、勇者さん達を回収しつつ奔走するお話になりそうです。 投稿ものんびりです。(なろうでも投稿しています)

処理中です...