上 下
31 / 79
お兄ちゃんの幸せを守りたい

30.慎重に行こう

しおりを挟む

「分かりました。イロハちゃんよろしく」
「え、あはい。よろしくお願いします」

 滅茶苦茶意気込むお兄ちゃんには悪いけれど、私としてはバレる心配の方が強く不安でしかない。
 かと言ってマイケルとペアを組んだら、それこそ十中八九バレると思うから願い下げ。
 今まで以上に気をつけないと思いながら、お兄ちゃんに話を合わせる。

『アカツキ様、サクラさんの現在位置を送りますね』
「ありがとう」

 ミサリーの声が聞こえると、サングラスのレンズにここの図面を写しだされた。
 現在地がハート。サクラが監禁されている本棟の最上階が花で示している。

 なんでサクラだけ別に隔離されているか不思議なんだけれど、ただ人質を置いときたいだけだから誰でも良かったとか?
 それとも実はサクラには特殊能力があるから何がなんでも手に入れたい……私が知る八年後は裏切って殺されたんだからそれはないか。
 じゃぁやっぱり特に意味はない?

「それではタスクさん私に着いてきて下さい」
「うん。じゃぁマイケルまた後で」
「気を付けろよ」
「イロハちゃん、何かあったらすぐに私を呼ぶんだよ」

 推理は行き詰まり今は救出することだけを専念し行動開始。
 アイリスの過剰な心配をスルーで、私達は階段を駆け足で登る。

 ミサリーのおかげで敵の位置もバッチリ分かるから、戦闘は最小限で済みそう。


「イロハちゃんは、人質の女の子がどこにいるのか知ってるの?」
「はい。ついでに敵の位置も分かるので安全に行きたいと思います」
「すごいね? 三人以外にも仲間がいるの?」 
「リーダーの助手がもう一人。指示を出してくれます」

 お兄ちゃんから質問攻めに答える。
 ひょっとしたら疑われているのかも知れない。
 てっきりお兄ちゃんの警戒心がなくなったから、……そもそも何を疑っているんだろうか?
 敵の仲間?
 なぜ?

「マイケルさんの妹は本当に捕まっているんでしょうか?」
「え、捕まってるよ。カリーナちゃんには不思あっ?」

 疑ってるはずなのに馬鹿正直に答えるけれど、不味いと気づいたのか慌てて口を塞ぐ。
 いかにお兄ちゃんらしく、本当は疑っていないことを知る。
 
 『夢幻なる願い3』だと、カリーナは占いが得意と言う設定だった。それを不思議な力だと言えばそうなんだろう。

「だからここの人は狙っているんですね? でもそう言うことは黙っていた方が賢明です」
「やっぱりそうだよね? でもイロハちゃんは信用できる人だと思う」
「え?」
「マイケルは疑えって言うけれど、僕は信じたい。だってイロハちゃんは妹と似ているから」
「…………」

 冷静に忠告したのに今度は真逆のことを言う。しかもその理由が返答しづらく言葉をなくす。

 やっぱりマイケルは私達のことを疑っているから、妹が誘拐されたと嘘をついた。
 年齢もごまかしたのも今後のためだとは思いつつ、ならなんで名前を偽名にしなかったんだろうか?

 それよりもお兄ちゃんの頭の中が、ちょっと心配になってくる。
 妹の私ってまだ三歳ですけれど、十代前半の女の子に似ているとか言いますか?
 まだ妹がイロハちゃんになら、分からなくもないけれど。

「妹はすごく可愛くて、元気いっぱいで賢いんだよ」
「そうなんですか」

 私のことになるとすごく幸せな笑顔を浮かべ語り始める。私は恥ずかしくなるも、お兄ちゃんの笑顔に見とれてしまう。

 まぁお兄ちゃんだから仕方がないか。


『アカツキ様、サクラさんはこの棟の最上階にいます。安全なルートはダクトになりますが、いかがなさいますか?』
「一度はやってみたい侵入方法ではあるけれど、現実問題待ち伏せされたら一貫の終わりなんだよね?」
『アカツキ様はずいぶん慎重なのですね? 確かにここにも厳重警戒するよう連絡がありました。博士のダミー映像と音声で対応しております』

 出来るだけ小声でミサリーとこれから作戦会議をする。落ち着いている声の割りには、結構大変な状況だった。これ以上は頼らないでお兄ちゃんと二人で決めた方がいいと思いつつ、しゃべり続けて正体がバレるのが怖くて、実は今の所最低限の話しかしてなかったり。
 と言ってもたまに妹の私の話を暴走し、私は相づちを交わすだけでもすんでいる。

 今夜はお兄ちゃんに、う~んと甘えちゃおう。

「分かった。ここからはタスクさんとなんとかしてみる」
『そうですか? 何かあったらすぐに連絡します。それと博士達の方は順調に進んでいるので安心して下さい』
「うん」

 最後にアイリス達の状況を知らされ通信は途切れた。
 言葉からして私達の事は常に映像を出して見ているはず。
 もちろんアイリス達の動きも映像が流れているのだから、ミサリーが順調で安心してと言えばそれは今現在進行形。
 心配する必要はないだろう。

「タスクさん。これからこの階段を掛け上がり戦闘するか、ダクトから安全に行きますか? 但し出口で待ち伏せされてる可能性もあります」
「間違えなく階段からの方が安全だよ」

 究極だろうと思う問いに迷いなく答えられ、作戦会議は呆気なく終了。

 私もダクトは辞めた方がいいと思ってたからいいけれど、ここまで即答で決められると理由が気になってくる。
 しかしこれからはそんな余裕がなくなり、今以上に気を引き締めて向かわないといけない。

「タスクさん、これからは私語禁止で気を引き締めて下さい。敵の人数や場所は分かりますが、戦闘は避けられません」
「分かってるよ。早く終わらせて無事に帰らないと妹が泣くからね」
「確かにそれは言えますね。私も家族が心配します」

 お兄ちゃんのことだから本気にそれだけしか思ってないだろう台詞。私は少し笑いそうになりながらもそう言葉を返す。

 私が死んだり大ケガなんかしたら、お兄ちゃんだけでなく両親も大騒ぎする。もちろんアイリスも。

「タスクさん、しゃがんで私の横に着て下さい」
「え、うん?」

 最後の和やかムードは突然の敵反応のより中断。ステッキを大きくさせ身構え神経を集中させる。
 お兄ちゃんは訳もわからないながらも、私の言うとおりにしゃがみ隣に移動してくれた。

 上の階から突然三つの赤い光が点滅。ここの階段を降りてきて回避は出来そうにもない。とてつもない嫌な殺気が近づいて来て、体が危険を警告する。

 これが噂の幹部クラスの殺気って奴?

「イロハちゃん、ひょっとして?」
「かもしれません。戦闘の準備をして下さい 」

 お兄ちゃんにも感じたのか口調も顔つきも変わり、さっきの私達を警戒するタスクとなる。
 余計緊張が走り、ここは卑怯な手段先手必勝を取ることに。

 足音が徐々に近づきもう少しで姿を見せる瞬間、

火炎球プロクスボム」 

 バーン

 威力を最大限に上げ呪文をぶっぱなす。
 さっきのとは比べ物にならないぐらいの威力で爆発するもんだから、言うまでもなく階段は火の海となり行く手を阻まれ先にいけなくなる?

 やり過ぎた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

転生者はチートな悪役令嬢になりました〜私を死なせた貴方を許しません〜

みおな
恋愛
 私が転生したのは、乙女ゲームの世界でした。何ですか?このライトノベル的な展開は。  しかも、転生先の悪役令嬢は公爵家の婚約者に冤罪をかけられて、処刑されてるじゃないですか。  冗談は顔だけにして下さい。元々、好きでもなかった婚約者に、何で殺されなきゃならないんですか!  わかりました。私が転生したのは、この悪役令嬢を「救う」ためなんですね?  それなら、ついでに公爵家との婚約も回避しましょう。おまけで貴方にも仕返しさせていただきますね?

愛人をつくればと夫に言われたので。

まめまめ
恋愛
 "氷の宝石”と呼ばれる美しい侯爵家嫡男シルヴェスターに嫁いだメルヴィーナは3年間夫と寝室が別なことに悩んでいる。  初夜で彼女の背中の傷跡に触れた夫は、それ以降別室で寝ているのだ。  仮面夫婦として過ごす中、ついには夫の愛人が選んだ宝石を誕生日プレゼントに渡される始末。  傷つきながらも何とか気丈に振る舞う彼女に、シルヴェスターはとどめの一言を突き刺す。 「君も愛人をつくればいい。」  …ええ!もう分かりました!私だって愛人の一人や二人!  あなたのことなんてちっとも愛しておりません!  横暴で冷たい夫と結婚して以降散々な目に遭うメルヴィーナは素敵な愛人をゲットできるのか!?それとも…?なすれ違い恋愛小説です。 ※感想欄では読者様がせっかく気を遣ってネタバレ抑えてくれているのに、作者がネタバレ返信しているので閲覧注意でお願いします…

ハズレ職業の料理人で始まった俺のVR冒険記、気づけば最強アタッカーに!ついでに、女の子とVチューバー始めました

グミ食べたい
ファンタジー
 疲れ切った現実から逃れるため、VRMMORPG「アナザーワールド・オンライン」に没頭する俺。自由度の高いこのゲームで憧れの料理人を選んだものの、気づけばゲーム内でも完全に負け組。戦闘職ではないこの料理人は、ゲームの中で目立つこともなく、ただ地味に日々を過ごしていた。  そんなある日、フレンドの誘いで参加したレベル上げ中に、運悪く出現したネームドモンスター「猛き猪」に遭遇。通常、戦うには3パーティ18人が必要な強敵で、俺たちのパーティはわずか6人。絶望的な状況で、肝心のアタッカーたちは早々に強制ログアウトし、残されたのは熊型獣人のタンク役クマサンとヒーラーのミコトさん、そして料理人の俺だけ。  逃げるよう促されるも、フレンドを見捨てられず、死を覚悟で猛き猪に包丁を振るうことに。すると、驚くべきことに料理スキルが猛き猪に通用し、しかも与えるダメージは並のアタッカーを遥かに超えていた。これを機に、負け組だった俺の新たな冒険が始まる。  猛き猪との戦いを経て、俺はクマサンとミコトさんと共にギルドを結成。さらに、ある出来事をきっかけにクマサンの正体を知り、その秘密に触れる。そして、クマサンとミコトさんと共にVチューバー活動を始めることになり、ゲーム内外で奇跡の連続が繰り広げられる。  リアルでは無職、ゲームでは負け組職業だった俺が、リアルでもゲームでも自らの力で奇跡を起こす――そんな物語がここに始まる。

特に呼ばれた記憶は無いが、異世界に来てサーセン。

黄玉八重
ファンタジー
水無月宗八は意識を取り戻した。 そこは誰もいない大きい部屋で、どうやら異世界召喚に遭ったようだ。 しかし姫様が「ようこそ!」って出迎えてくれないわ、不審者扱いされるわ、勇者は1ヶ月前に旅立ってらしいし、じゃあ俺は何で召喚されたの? 優しい水の国アスペラルダの方々に触れながら、 冒険者家業で地力を付けながら、 訪れた異世界に潜む問題に自分で飛び込んでいく。 勇者ではありません。 召喚されたのかも迷い込んだのかもわかりません。 でも、優しい異世界への恩返しになれば・・・。

天才女薬学者 聖徳晴子の異世界転生

西洋司
ファンタジー
妙齢の薬学者 聖徳晴子(せいとく・はるこ)は、絶世の美貌の持ち主だ。 彼女は思考の並列化作業を得意とする、いわゆる天才。 精力的にフィールドワークをこなし、ついにエリクサーの開発間際というところで、放火で殺されてしまった。 晴子は、権力者達から、その地位を脅かす存在、「敵」と見做されてしまったのだ。 死後、晴子は天界で女神様からこう提案された。 「あなたは生前7人分の活躍をしましたので、異世界行きのチケットが7枚もあるんですよ。もしよろしければ、一度に使い切ってみては如何ですか?」 晴子はその提案を受け容れ、異世界へと旅立った。

君を愛することは無いと言うのならさっさと離婚して頂けますか

砂礫レキ
恋愛
十九歳のマリアンは、かなり年上だが美男子のフェリクスに一目惚れをした。 そして公爵である父に頼み伯爵の彼と去年結婚したのだ。 しかし彼は妻を愛することは無いと毎日宣言し、マリアンは泣きながら暮らしていた。 ある日転んだことが切っ掛けでマリアンは自分が二十五歳の日本人女性だった記憶を取り戻す。 そして三十歳になるフェリクスが今まで独身だったことも含め、彼を地雷男だと認識した。 「君を愛することはない」「いちいち言わなくて結構ですよ、それより離婚して頂けます?」 別人のように冷たくなった新妻にフェリクスは呆然とする。別人のように冷たくなった新妻にフェリクスは呆然とする。 そして離婚について動くマリアンに何故かフェリクスの弟のラウルが接近してきた。 

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

処理中です...