普通の女子高生だと思っていたら、魔王の孫娘でした

桜井吏南

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8章(エピローグ)物語は続いていく

136.夫婦の役割は?

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 朝目覚めると愛する妻が、俺の胸元で幸せそうに寝ていた。
 当たり前となりつつある夢のような幸せな日々を、俺は今こうして過ごしている。こんな日が訪れるなんて夢にも思わなかった。
 今度こそこの幸せを永遠の物にしたい。 

「んあ、セイヤ、もう起きたのか?」
「すまん起こしたか? 軽く筋トレしに行くだけだから、スピカはまだ寝てていいんだ。朝食の用意が出来たら、起こしに来るよ」
「それはダメだ。今日からあたしが家事全般をするんだから、あたしも起きる」

 そっとベッドから抜けだそうと試みたが、うまく行かずスピカは目を覚ましてしまう。まだ寝ているようにと言ってみるも、ムッとなり強い口調でそう言い返され起きる。

 今時の夫婦は、家事分担は当たり前。
 しかも女魔王として責務がある上、現在は妊娠中。そんなスピカに、負担を掛けさせるわけにはいかない。

「いいよ。家事は今まで通り俺がするから、スピカは……洗濯とたまに夕飯の支度をして欲しい」
「そんなあたしに任せられないのか? あたしは君の妻でセイカの母親なんだぞ? 君は家族のため仕事に打ち込めば良い」
「その考えはこの世界では、古い考えなんだよ。共働きの夫婦は家事を分担するのが、普通なんだ。もちろん俺は今まで以上に家族のために働くし、全力で護り支えていく」

 何がそんなに気にくわないのか、むくれてしまうスピカ。
 日本の常識を教え、スピカをギュッと抱きしめる。

 俺は家事が好きな方だから、全然苦にはならない。
 洗濯はまぁ女性物があるからと理由で、三年ぐらい前から星歌が担当をしていた。
 そしてたまにはスピカの手料理を食べたい。

「そんな常識知るか。とにかくこれからは、あたし主体で家事はやる。でもセイヤの手料理は捨てがたいから、夕食の支度だけは日替わりな。後は手伝ってくれれば良い」
「え、まぁそれでスピカがいいのであれば、それでもいいんだが」

 これ以上この件を話し合えば喧嘩に発展しそうになったため、スピカの望むがままにした。
 夕食の支度が交代であれば、後は積極的に手伝えば問題はないだろう。

 流星が生まれれば、子育ても積極的……。

「それから先に言っておく。リュウセイの子育てはあまり関わって欲しくない」
「は、なぜだ?」
「そんなの決まってるだろう? セイカの育児をやらせ頻繁に預けた結果、あたしよりセイヤ大好きなパパっ子になってしまった。リュウセイもそんなことになったら、あたしはセイヤに嫉妬をして傷つける。セイカはセイヤ。リュウセイはあたし。OK?」
「…………」

 衝撃的な事実にハンマーで思いっきり殴られた衝撃を受け、言葉を失いスピカを引き離し呆然となった。

 俺は無意識のうちに、スピカを傷つけていた?
 しかしあの時の俺は、そこまで子育てをしていなかったはず。大半はスピカで月に一度数日の外泊時は、ルーナス先生かヨハンに来てもらっていた。
 それなのに星歌の一番は、スピカじゃなく俺だった?

「……すまない。分かった。流星が産まれたら子育てに専念してくれれば良い。俺はスピカの指示通り動くから」

 数々の疑問が過ぎるもとにかく謝り、代わりに裏方へ回りサポートすると申し出た。
 いくらスピカが望んだとしても、全部を任せるわけにはいかない。
 スピカが鬱にならない程度に支えれば良い。

「あえ~とその少しぐらいなら、関わって良いんだぞ。……そんな落ち込むな」

 なぜか困った表情に変わり逆に心配されてしまい、今度はスピカに抱き寄せられ額にキスをされるのだった。



「本当お前ら似たもの夫婦だな。心配して損した」
「は、似たもの夫婦?」
「だってそうだろう? お前だってずっと星歌の一番はオレだと思って、くだらねぇ嫉妬をし続けていたよな」
「うっ……、そうだった」

 トレーニング室でいつも通りのメニュー黙々とこなしていると、龍ノ介がやって来てすぐに凹んでることに気づき心配された。
 何か助言が欲しく事情を話せば、拍子抜けされ図星をつかれる始末。
 まったくもってその通りで何も言い返せず、ますます凹んでしまう。

 半年前まで俺は龍ノ介にずーっと嫉妬していた。しかもそれは誤解で、幼い星歌の一番は俺だった。
 だとしたらスピカもただ誤解をしているだけで、星歌の一番はスピカだった?
 それとも一番は俺とスピカの両方だった? 

「でも根を上げるまで、ほっとけば良いだろう? それか地球でのご近所付き合いやワイドショーを見ていれば、ワンオペがどんなに理不尽なことに気づくはずだ」
「その間俺は何をしていれば良いんだ?」

 かなりの荒療治にそれはどうなのかと思うよりも、そしたら俺の存在意義が失われる不安が生まれた。
 子育てだけじゃなく、家事全般までやらせたらどうなる?
 俺の余裕が出来た時間は、筋トレに費やせば良いのか?
 女魔王の騎士でいるためには、今よりもっと強くならないといけない。毎日八時間は欲しい所。
 しかしあんまり筋トレばかりしていたら、星歌に心配され激怒され嫌われる。

「この際だから何か趣味を見つけたらどうだ? 星歌と一緒に習い事を始めるとか?」
「星歌と一緒に? そんなことしたらスピカがへそを曲げないか?」

 俺にとっては凄く魅力的な提案なんだが、スピカのことを考えると気が引ける。
 また無自覚でスピカを傷つけ愛想尽かされると思うと、怖くてたまらない。
 やっと手に入れたこの幸せを失いたくないんだ。そのためになんだってする。

「お前が星歌と仲良くする分には問題ないだろう? ──ってなんでそこまで凹む?」
「俺はスピカを傷つけ嫌われたくないんだ。どうしたらスピカが幸せに、俺を好きで居続けてくれる?」
「……。阿呆らしい。スピカの幸せは、ただお前と星歌。これから産まれる子の傍にいること。お前が想っている以上に、スピカはお前のすべてを愛してるんだよ。だから安心しろ」

 もう少しで龍ノ介から、見放されそうになる。

 今の俺はとことん情けないのだろう。
 こんな姿をスピカに見られたら、
 “あたしの愛が信じられないのか?”
 と激怒され、そして甘やかせてくれる。
 そうだよな。龍ノ介の言う通り、スピカは俺のすべてを知った上で愛してくれている。 俺が師匠を失い自暴自棄になった時でも、傍にいて支えてくれた。
 俺だってどんなスピカでも愛している。

「もう一度スピカとよく話し合ってみる。星歌とも何か一緒に始めようと思う」

 そう確信したら、ようやく自信が持て前向きになれた。

 俺達には時間がたくさんあるんだから、お互いに本音でぶつけ合い答えを出せばいいんだ。
 それで喧嘩になったとしても、崩れるほど俺達の絆は軟じゃない。
 そんなの分かっていたはずなのに、忘れていた。
 星歌とは太くんのこともあるし、今のうちに出来るだけ共通の時間を作ろうと思う。

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