普通の女子高生だと思っていたら、魔王の孫娘でした

桜井吏南

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8章(エピローグ)物語は続いていく

134.心優しき王様

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「あっ?」
「星歌……」

 アリア姫達の案内で謁見の間に行くと、私を無碍に扱い罵倒した兵士達がいた。
 途端に恐怖が私を襲い、さっとパパの背後に隠れ怯える。
 あれは洗脳のせいだと分かっていても怖い。

『すみませんでした』
「え、あうん」

 兵士達はしょんぼりとしたまま私達の元に近づき、頭を深々と下げ謝罪。本心から反省しているのが分かり、反射的に頷いてしまう。

 ちゃんと反省しているのだから、仲良くなれなくても許すべきだよね?

「ありがとうございます。聖女様はお優しいですね」
「勘違いしないで。許すだけだから……」
「許してもらうだけでも充分です」

 優しくないのに優しいと言われたから修正したのに、やっぱり優しいと言うことになってしまった。
 なんか腑に落ちない。

 優しいと言うのはすべてを水に流して、仲良くすることじゃないだろうか? 私は根に持つタイプだから、仲良く出来るのは時間が掛かると思う。
 マヒナに関しては絶対許さない。
 優しいと言う人は、何があっても最終的には許し仲良く出来るパパのような人。

「それでは我々はこれで失礼します」

 それで満足した二人は表情を和らげ敬礼し、元いた場所に戻って行く。
 本当の彼らは良い人なのかも知れない。



「皆様はこちらです。王がすぐに参ります」
「はい、分かりました」

 私達は王座の近くまで案内される。

 初めて見るリアルな王様だから、変に期待してしちゃうんだよね?
 セレス姫とアリア姫がキレイな人なんだから、王様も当然イケメン? 年配者みたいだからダンディ? それとも人の良さそうな恰幅良いおじいさん?
 雷親父とか肥満ハゲ爺とかじゃないよね?

 期待はどんどん膨らんでいく。

「父上、みなさんを連れてきました」
「ご苦労様。皆さま、わざわざ起こし下さりありがとうございます。マットと申します」

 ついに王様がセレス姫と一緒に登場。
 七十五歳と聞いていたけど若々しいダンディ。王のオーラが半端ない人。それなのに偉そうではなく低姿勢。 
 これがリアルな王様。外見はイメージ通りだけれど、内面は良い意味で意外な物だった。

「なんかイメージと違うな」
「そうだね。でも市民のことをちゃんと考えてくれる優しい王様だと思うな」

 私の背後で太陽はひそひそと、私が思っていることを話し合っている。
 私も振り向いて話に加わり盛り上がりたいけれど、王様は王座には座らず私達の元に近づいてきた。
 歩き方でさえも威厳が感じられる。

「二人とも静かにしないか。王様の前だぞ」
『すみません』

 黒崎から注意されシュンとなる二人。

「君が聖女様ですね」
「あはい。初めまして、村瀬星歌と申します」

 最初に私へと声を掛けられ、ガチガチになりながらも言葉を返す。
 少しでも粗相をしたら黒崎の雷が落ちそう。実際背後からの圧がすごくて、冷汗が流れ出す。

「そんな緊張しないで大丈夫ですよ。あなたは私達の希望なのですから」
「え、私が希望?」
「はい。だってあなたは人間と魔族の共存する世界の象徴なのですから」
「…………」

 王のお言葉はプレッシャーでしかなく、胃までキリキリして来て早くお家に帰りたい。

 聖女と言う役割もパパ達と一緒なら頑張れると思っていたのに、今度は私が魔族と人間の象徴?
 地球ではごくごく普通の女子高生だったはずなのに、トゥーランでの私の価値は今もうなぎのぼり。
 このままだと神様的存在になって、みんなから崇められる?

「マット王、星歌を政治の道具にしないで下さい。星歌の将来は強制ではなく、やりたいことを見つけて欲しいんです」
「そうだね。そのためにあたしが女魔王代理になるんだ。もしそう言うことなら、話は決裂。和平会議はするけれど、共存はなしの方向で進める」
「そう言うつもりで言ったのではありません。重ね重ね申し訳ございません」

 王様相手にも動じず両親は私を守るように強く指摘と警告。
 あまりの迫力に王様の方が恐縮してしまい、申し訳なさそうに頭を深々と下げ謝罪される。

「分かってくれればいい。大体象徴なら英雄だけで十分だろう? 洗脳の首謀者である人間と魔王を復活を企む魔族を倒したんだ。魔族だろうが人間だろうが悪人がであれば、英雄に滅ぼされる」
「言われてみれば、確かにですな」
「オレまで巻き込むなと言いたいが、星歌の代わりであれば異論はない。星夜もだろう?」
「当たり前だ」

 お母さんの代替案は満場一致。

 それで本当にいいのかなと思っても、せっかく私への配慮をしてくれたんだから感謝するしかないよね。
 両親が望むように、私は私がやりたいことを早く見つけよう。
 もちろん人間と魔族の共存を手助けして行きたい。
 トゥーランのことも、もっとよく知りたい。

「所で聖霊チョピ様の姿がないのですが、もう役目が終わったので眠りについたのですか?」
「いいえ。ちょっと用事があって出かけているだけです」

 話はチョピのことになり深く考えずに答えれば、王様は少し残念そうにため息をつく。

 チョピに会いたかった?
 私達には可愛いマスコット的存在なんだけれど、トゥーランだと尊き聖霊様。見るだけでもご利益があるのだろう。
 チョピだけじゃなくガーロットとフェイリルも一緒です。って言ったら驚かれる?

「おじい様、チョピ様はチーズが大好きなので、チーズメインの食事会に招待すればいいと思いますよ」
「そうなのか? ならそうしよう。いつなら開いているか聞いて、教えてくれないだろうか? その時はもちろん聖女様達も一緒に」
「わかりました。きっとチョピは喜んで頷いてくれると思います」

 セレス姫の起点のおかげでようやく王様の顔に笑顔が浮かぶ。少年のような屈託のない笑顔に少し興奮気味。チョピのことが大好きだって良く分かる。
 王様もオーラは凄いけれど、普通のおじいちゃんなんだね。
 可愛いと思ってしまった。

「よかったですね。ではそろそろ当初の目的を果たしてはどうでしょうか?」
「そうだな。スピカさん、聖女セイカ様」
『はい』

 いきなり本題に入ったようで名前を呼ばれる。しかも私にはなぜか様付。
 せっかくのなごみムードがぶち壊され、緊張が再び走り唾をごくんと飲みこむ。

「この度は長年にわたり盛大なるご迷惑をおかけして誠に申し訳ございませんでした。いくら洗脳のせいだとしても、私は自分のしたことが許せません。今後は王位を娘に譲り、私の残りの人生を魔族のために尽くしていく所存です」

 力ある言葉で言い訳など一切せずに、誠心誠意謝罪される。
 王様の強い意志が感じられ、何もそんなに自分を追い込む必要はないと思う。
 でも私の殺害命令を出したのは王様。そう考えるとあの兵士達のように怖いものかある。
 許すだけ許して、しばらくは様子見?

「あたしに関しては百歩譲って、こちらにも非があるからもう良い。これからの活躍を期待してるよ」
「私もです」
「二人ともありがとう」

 私もお母さんと同じく、これからの期待にすることにした。王様なら期待に応えることなど容易でもないだろう。
 優しい涙を流す王様と握手を交わし、私達の和解はこれにて終了。

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