普通の女子高生だと思っていたら、魔王の孫娘でした

桜井吏南

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7章 すべてを終わらせる

128.茜空の下で

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  落ち込んだままの太を庭に連れだす。
 現在我が家は山脈にあるレジストの外れに、建てさせて貰っている。庭からは街を一望出来て、更に今は夕暮れ時で絶景だった。
 庭からこんな景色が見えるなんて、夢にも思わなかったな。
 山脈に沈んでいく太陽(トゥーランではアロウと言うそうだ)を眺めながら、トゥーランの今までの出来事を思い返す。

「え、あそうだな。今振り返ってみると、なんだかんだでいい思い出だな」
「うん。私もそう思う」

 思わず太に話を投げかけると、一瞬驚かれるもちゃんとした答えが返ってくる。私と同じでなんだか嬉しい。

 そうだよね? 嫌なこともたくさんあったけれど、それ以上に嬉しい楽しいことがあった。
 お母さんが生きていて、これからは一緒に暮らせる。しかも弟も生まれてくる。
 何よりも太と付き合えた。

「そう言えばオレ賭けしてたよな? どっちが強くなれるか」
「そうだったね。太だと思うけど」
「オレは星歌だと思う。だってシノブを浄化して、これから世界中の人達の洗脳を解くんだろう?」

 すっかり忘れていた賭けの話になり、お互いに勝ちを譲り合う。
 まさかそんな冷静な回答を言われるなんて思っていなかったから、びっくり仰天太を見つめた。
 さっきの一件を引きずった上での答えだから、明日になったらまた自分自分になるとか?
 でもそんなこと言われると、確かに私ってずごいんじゃって調子に乗りそう。

「私もまだまだ子供だね?」
「は、いきなりなんだ?」
「一緒にパパ達のような大人になっていこうね」

 偉そうに人に意見を言える立場ではなかった。

 私もお子様だったらしく、太とは五十歩百歩。今気づかなかったら、成長しようとしている太に抜かされる所だった。
 私はそう言い、太の手を握る。
 調子にあまり乗らない余裕ある素敵な大人に二人でなりたい。

「そうだな。だったら二回戦は、どちらが先に大人になるかだな」
「もう。そう言うことを言っているから、餓鬼って言われるんでしょ?」
「ゔ……そうだった」

 せっかく少しだけ見直していたのに、結局太は何も分かっていない。
 らしいと言えばらしいかもだけれど、この暗い空気を読んで欲しかった。
 反射的に突っ込みを入れると、自覚はあるのか再び傷心。
 大人になるのは、まだまだ先のようだ。

「……幻滅したか?」
「少しだけね。でも嫌いになったりはしないから安心してよ」

 怯えた瞳が母性本能をくすぐる。
 途端に太が愛しくて愛しくてたまらなくなり、太を抱きしめ頬に軽くキスをする。

 人の目はないとは言えここは庭。リビングにはパパと陽がいる。
 それに外からも玄関からも丸見え……でも……。
 公開告白に公開キスで散々凝りたはずなのに、喉元過ぎれば熱さを忘れるで実は凝りてなかった。

「星歌?」
「太、大好きだよ」

 それだけでは収まらずそう言い、太の唇に私の唇をそっと重なり合わせる。

 ファーストキスは甘酸っぱいイチゴの味って漫画に書いてあったけれど、実際はチョコレートの甘い味。
 私達らしい。

「なんだよ。オレが先にしたかった」

 頬をほんのり赤く染め少しいじけながらも、今度は太から同じキス……もっと大人のものだった。太がもっと近くに感じられて、どんどん太を好きになっていく。



『…………』

 何度も何度も唇を重なり合わせフッと我に返った私達は、急に恥ずかしくなりパッと離れ少しだけ距離を取り視線を泳がす。
 身体全身が猛烈に熱く心臓がありえないほど高鳴りだす。太の顔が真っ赤だから、きっと私もそうなんだろう。

「わ私ちょっと散歩してくる」
「あじゃぁオレは剣の自主練をするか」

 お互いに視線を合わせられず、適当な用事を無理矢理作り背を向け行動開始。
 こんな姿を誰にも見られたくないから、散歩して頭を冷やすしかない。
 それにパパが知ったら失神する。


「セイカ、食事ができたよ」
「え、あ? はい」

 そんな矢先リビングの窓が開きお母さんが私を呼ぶ。ビクッとして声が少し裏返る。

「? 顔が赤いけど……ああそう言うこと」

 勘の鋭いお母さんには誤魔化す隙なく、速攻で見抜かされ微笑まれる。どこまで見抜いたのか気になるけれど、すべてだったら逃げるしかないから辞めておく。

「誰にも言わないでよ」
「もちろん。セイカ、こっちに来て」
「うん」

 言われるがままお母さんの元に行くと、頭上に手をあてられる。
頭上から伝わってくる優しい気持ちは、私の高鳴る鼓動を包み込む。あっと言う間に平常心にを取り戻せた気がする。

「これも魔術?」
「そう。心を落ち着かせる魔術。今のままだったらセイヤにもバレるからな。せっかく目覚めたのに、また寝込まれ更にいじけられたら大変だろう?」
「そうだね」

 さすがお母さん。私とパパのことをちゃんと考えてくれている。
 これで安心だと思いながら家の中に入ると、さっきとは違って随分賑やかで微笑ましい光景が広がっていた。

 チョピがパパに滅茶苦茶甘えていて、ソファーでは陽とガーロットが戯れている。
 いつの間に帰って来たんだろう? そう言えば最近よく三人で出かけている。
 パパのことで頭がいっぱいで気にも止めなかったけれど、一体三人揃ってどこに行っているのだろう?
 チョピとフェイリルの二人ならまだしも、三人一緒って言うのが不思議。

【セイカ、セイヤが目を覚めて良かったね】
「うん。所で最近三人で外出しているようだけれど、何しているの?」
【五日後の準備】

 ちょうどいい所にフェイルがやって来てくれたから、頷き真相を探ると答えはシンプルだった。

「それはわざわざありがとう。私も明日から手伝うね」
【準備は私達の役目だから大丈夫だよ】

 聖霊達にすべてを任せるには申し訳けないと思ったのに、軽く拒否されなんだかなと言う感じになった。


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