普通の女子高生だと思っていたら、魔王の孫娘でした

桜井吏南

文字の大きさ
上 下
146 / 157
7章 すべてを終わらせる

127.パパ、目覚める

しおりを挟む
 夕日が差し込む頃、ようやく幻夢からパパが目覚めた。

「ここはどこ……俺の部屋」
「ここはレジストだよ」

 ガバッと起き上がり酷い寝汗のパパの姿を見たら、びっくりして涙がピタッと止まり答えを返す。
 パパが目覚めたら胸に飛びつこうと思っていたのに、そんな空気はどこにもない。

「最終段階の代償はやっぱりきつかったんだな? 五日目の夕方だよ」
「……。二重だったから、気づけなかった。前回同様星歌のぬくもりと呼び声がなかったら戻ってこれなかった……。ここは本当に現実なのか?」

 お母さんの言葉にショック受けたのか、見る見るうちに顔面蒼白。しかも今の状況を疑って絶賛自信喪失中。

 二重の幻夢。
 一度目覚めれば安心して普通疑わない。それだけ現実味があった?
 一体どんな内容?

「……セイカ。セイヤの傍にいてあげて。あたしは夕食の支度をしてくるよ」
「それなら私が」
「こう言う時のセイヤには、セイカが一番の栄養剤なんだ。なんせセイヤの一番はセイカだからな。まぁあたしにとっても一番はセイカとリュウセイだからな」

 と言ってお母さんは幸せそうにお腹をさすり、部屋から出ていく。
 お母さんも心配していたはずなのに、ずいぶんあっさりしている。

「パパ、多分これは現実だよ」

 自分では現実だと断言できるんだけれど、幻夢の中の私だったら違うかもしれない。そうだったら怖いけれど。

「そうらしいな。幻夢の母さんは星歌に嫉妬していて、父さんが一番と言っていた。よく考えればスピカは嫉妬はしてても、父さんが一番なんて言ったことはなかった」
「そうなんだ。なら良かった。パパ、おかえりなさい」

 ようやくここでおかえりなさいと言えて、予定通りパパの胸元に飛び込み甘える。
 二日ぐらいは平常心でいれたんだけれど、三日目からは心配になって昨日からなるべくパパの手を握っていた。
 目覚めないで消えてしまったらと思ったら、不安でたまらなかった。

「ただいま。心配をかけてごめんな。この五日間何か変わったことはあったか?」
「セレス姫達が魔族との和平会議に向けて動き出した所。私のやることは聖霊の山脈に行って、祭壇で祈りを捧げること。そしたら人間の洗脳が解けて、一応めでたしめでたし?」
「そうだな。後のことはここの住人に任せればいいんだ」

 そんな私をパパは優しく受け止めてくれる。簡単に状況を説明。
 すべての洗脳を解くには、聖女を護りし戦士の協力が必要不可欠。

「父さんも同行してもいいか?」
「もちろん。今回は全員参加。決行は五日後の夜」

 満月がより力が発揮されるらしい。

「了解。全員で行くなら心配はないな」
「うん!!」

 力強いパパの二つ返事は、完全復活を物語っていた。

 これでもう大丈夫だよね。
 ホッとしたら最早お決まりかのように、グーとお腹が鳴ってしまう。恥ずかしくて顔を赤らめ小さくなるけれど、確かにお腹がとてつもなく空いている。
 そう言えば今日はまだ何も食べてなかったよね?

「リビングに行くか?」
「……そうだね」




「おっさん、もう平気なのか?」
「ルピ」
「ああ、おかげさまで。太くん、星歌を独占してすまなかった」
「は、そんなの当り前だろう? オレだってもし家族が寝込んだら、星歌と同じことをすると思う」

 リビングには太とルピーナだけで私達を見るなり、すぐに駆け寄って声を掛ける。申し訳なさそうに謝るパパに、太はキョトンと当たり前とばかりに言葉を返す。
 私もパパがそんな風に思っているとは夢にも思わず、びっくりしてしまいパパをガン見。

 なぜいつもパパは太にそんな気を遣う?
 パパの一大事なんだから、彼氏より優先するのは当然のこと。謝る必要はない。
 それとも私と太の考えがレアだとか?

「太くんは大人だな。俺だったら少なからず嫉妬するよ」
「オレが大人? おっさんに言われるなんて思わなかった」

 パパらしい答えに、単純な太は満面の笑みを浮かべて大はしゃぎ。私と言えば嫌な予感しかしなくて、ため息をつき肩をガクッと落とす。

 太が大人。

 そんなこと何があろうとも、声に出してはいけない言葉。
 精神年齢がお子様に大人だねと言えば、間違えなく調子に乗る。そして騒ぎを起こす。
 パパだってそのことえを知っているのに、どうしてそんなに過剰評価するんだろう? 
 イヤ過剰評価しててもいいから、声に出さないで欲しかった。

「陽、聞いてくれ。オレ、大人になった。もうお子様なんて言わせねぇ」
「は、何を寝ぼけたことを言ってんの? 確かに少しは成長しているとは思うけれど、そうやってすぐ調子に乗る辺りまだまだよ」

 食器を持ってやって来た陽に有頂天の太は胸を張って言うのに対し、手慣れている陽は鼻であしらい相手にせず。
 私も少しずつ成長しているとは思うけれど、大人にはまだまだでようやく青年になった所。その証拠に……あれ?
 てっきりぶち切れ兄妹喧嘩勃発するかと思っていたら、意外や意外何もショックを受け部屋の隅で凹みだす。心配そうにルピーナが寄り添う。
 
 もしかして自覚している?

「陽ちゃん、太くんは海よりも広い心を持った大人なんだ。俺と星歌の仲を温かく見守ってくれる」
 「おじさん、太が海よりも広い心と言ったら、おじさんは宇宙より広い心を持ってますよす。そもそも太はおじさんには嫉妬しませんが、黒崎くんにはバリバリ嫉妬してますよ」

 申し訳なさそうにも懸命に太の肩を持つパパだったけれど、陽に論破され頬を赤く染め脂汗をかく。
 確かに太は何かと黒崎に嫉妬している。太は肩を落としますます凹んでいた。
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

ウルティメイド〜クビになった『元』究極メイドは、素材があれば何でも作れるクラフト系スキルで商売をして生計を立てていく〜

西館亮太
ファンタジー
「お前は今日でクビだ。」 主に突然そう宣告された究極と称されるメイドの『アミナ』。 生まれてこの方、主人の世話しかした事の無かった彼女はクビを言い渡された後、自分を陥れたメイドに魔物の巣食う島に転送されてしまう。 その大陸は、街の外に出れば魔物に襲われる危険性を伴う非常に危険な土地だった。 だがそのまま死ぬ訳にもいかず、彼女は己の必要のないスキルだと思い込んでいた、素材と知識とイメージがあればどんな物でも作れる『究極創造』を使い、『物作り屋』として冒険者や街の住人相手に商売することにした。 しかし街に到着するなり、外の世界を知らない彼女のコミュ障が露呈したり、意外と知らない事もあったりと、悩みながら自身は究極なんかでは無かったと自覚する。 そこから始まる、依頼者達とのいざこざや、素材収集の中で起こる騒動に彼女は次々と巻き込まれていく事になる。 これは、彼女が本当の究極になるまでのお話である。 ※かなり冗長です。 説明口調も多いのでそれを加味した上でお楽しみ頂けたら幸いです

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

野生児少女の生存日記

花見酒
ファンタジー
とある村に住んでいた少女、とある鑑定式にて自身の適性が無属性だった事で危険な森に置き去りにされ、その森で生き延びた少女の物語

公爵家三男に転生しましたが・・・

キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが… 色々と本当に色々とありまして・・・ 転生しました。 前世は女性でしたが異世界では男! 記憶持ち葛藤をご覧下さい。 作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。

〈完結〉毒を飲めと言われたので飲みました。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。 国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。 悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。

聖女追放 ~私が去ったあとは病で国は大変なことになっているでしょう~

白横町ねる
ファンタジー
聖女エリスは民の幸福を日々祈っていたが、ある日突然、王子から解任を告げられる。 王子の説得もままならないまま、国を追い出されてしまうエリス。 彼女は亡命のため、鞄一つで遠い隣国へ向かうのだった……。 #表紙絵は、もふ様に描いていただきました。 #エブリスタにて連載しました。

出来損ないと呼ばれた伯爵令嬢は出来損ないを望む

家具屋ふふみに
ファンタジー
 この世界には魔法が存在する。  そして生まれ持つ適性がある属性しか使えない。  その属性は主に6つ。  火・水・風・土・雷・そして……無。    クーリアは伯爵令嬢として生まれた。  貴族は生まれながらに魔力、そして属性の適性が多いとされている。  そんな中で、クーリアは無属性の適性しかなかった。    無属性しか扱えない者は『白』と呼ばれる。  その呼び名は貴族にとって屈辱でしかない。      だからクーリアは出来損ないと呼ばれた。    そして彼女はその通りの出来損ない……ではなかった。    これは彼女の本気を引き出したい彼女の周りの人達と、絶対に本気を出したくない彼女との攻防を描いた、そんな物語。  そしてクーリアは、自身に隠された秘密を知る……そんなお話。 設定揺らぎまくりで安定しないかもしれませんが、そういうものだと納得してくださいm(_ _)m ※←このマークがある話は大体一人称。

処理中です...