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7章 すべてを終わらせる
126.幻夢②
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「俺は卑怯ですね。師匠にそんな風に言わせてしまうなんて。あれはどう考えても俺が」
申し訳ない気持ちでいっぱいで、何を言っても言い訳にしかならない。
「セイヤ、ワシは幻夢が作らせた幻ではない。戦闘モード中に命を落とせば、幻夢に捕らわれ抜け出せない。永い年月の中でワシはようやく意思を持ったまま、セイヤの幻夢にたどり着いた」
「!?」
しかし師匠は俺の両肩をがしっり持ち、強く否定。これも俺が言わせていると言えばそうなんだが、師匠の揺るぎない瞳が真実だと告げている。
「おそらくこれが最初で最後だろう。セイヤの幸せそうな姿を見られて、ワシは満足だよ。さっきの答えからして、願望ではないんだろう?」
「はい。まぁ色々ありましたが最高な形で決着は付きました。娘の星歌は今十六歳です。スピカ似で心優しい子に育ってくれました」
「どうりで老けていると思った。だったらリュウノスケもだな」
さすが師匠と言うべきことなのだろう。言わなくてもすべてをお見通しのようで、更に痛いとこまで付かれ苦笑する。
ここに龍ノ介がいたら、おもいっきり怪訝しい表情を浮かべもう反論してくるはず。
もっと師匠といろいろ話していたいが、そろそろ目覚めないと本格的にヤバい。また五日も掛かったりしたら、星歌に泣きながら激怒される。
ひょっとしたらスピカも便乗して、逆鱗が落ちるかも知れない。
今度こそ戦闘モードは封……今後機会がないと信じたい。
「ですね。師匠、今までいろいろとお世話になりました。師匠のことはけして忘れません」
「ワシの方こそセイヤとリュウノスケを育てられて充実した余生を過ごせた。達者でな」
突然の死によりちゃんと伝えられなかった感謝を伝え頭を下げる。
師匠が師匠じゃなければ、きっと俺は最初で挫折し強制送還されていた。スピカと結ばれなかったら、当然星歌は生まれてこなかった。そう考えると自分の死よりも恐ろしい。
師匠はにこやかな笑顔で頭をなでながら、何よりも嬉しい返答をしてくれる。
その瞬間、TV画面のようにプツンと消え意識もなくなった。
これで幻夢が終わる。
「パパ、良かった。目覚めてくれてよかった」
次に意識が戻ると泣きじゃくる星歌のドアップが写り、胸元でワンワンと声を出す。その背後には困った様子のスピカがいる。
現実に戻って来たんだな。
「星歌、ただいま。今回は大丈夫だって約束しただろう?」
「パパの大丈夫はあてにならない。それにお母さんが今回の戦闘モードは最終段階だから、恐ろしい代償が起きるって」
「ちょっと大げさに言ったかも?」
「……ちょっとじゃないだろう? まぁ確かに自我を持った師匠がいたが、そこまでたいしたことはなかった」
「その割には、三日も寝ていたな」
「三日も? 心配かけてすまない」
尋常じゃない星歌の原因は、スピカのせいだと発覚。冷たい視線を向けるのだが、それなりの理由があった。
俺の体感だと数時間程度だった。やっぱり幻夢は計り知れない。
「本当だよ。昨日から生きた心地がしなかった。パパ、お腹空いた?」
「ああ、ペコペコだ」
「じゃぁ私が作るから、着替えたら来てね?」
言いたいことを言って機嫌が直ったらしく、いつもの星歌に戻り張り切って部屋を飛び出す。
星歌の手料理は久々だから、余計に楽しみだ。
ルンルン気分で起き上がり、今更ここは俺の部屋だと気づく。
「身体はもう平気なのか?」
「ああ。多少痛みが残っているが、このぐらいどうってことない。星歌の料理を食べたら、完全復活だ」
今度はスピカに心配され、返答しつつ服を着替える。
パジャマを着ているのは、スピカが着替えさせてくれたから?
「セイヤは本当にセイカが大好きだな? あたしより好きなのか?」
「娘に嫉妬する母親がどこにいる? 星歌は俺達の宝だろう?」
星歌に嫉妬するのは今なお健在。昔は何かある度にへそを曲げられてたから、俺も軽くあしらう手段を覚えた。
どうせスピカだって、俺より星歌が大切なくせに。
しかし
「あたしはセイヤが一番だよ。なぁ食事の前にあたしを食べないか?」
「は? って何をしてる???」
今日はやけに積極的で、背後から抱きしめられる。胸の感触がモロに感じた。
声が裏返り、心臓が高鳴り体温が沸騰。
身体中の痛みが吹っ飛ぶ。
「ゆ・う・わ・く。せっかく元の身体に戻ったんだ。以前のように激しく抱かれたい。思う存分セイヤを感じたい」
「!!」
甘く耳元でささやかれ、スピカに押し倒される。馬乗りになったスピカは今度は唇を重なり合わせ、舌が絡み合う。スピカの甘い味にとろけてしまう。
俺達は夫婦で、この部屋は二人だけ。
妻にここまで誘惑されたら、当然受け入れるのが旦那の務め。
それに俺だってスピカが今すぐ欲しい。今までホムンクルスだと思いそっとしていた。
だから……。
「スピカ、愛してる」
妻を受け入れた。
──パパ、お願いだから目覚めて。パパが死んじゃったら、太が傍にいたとしても幸せになれないよ──
どこからともなく星歌が必死に俺を呼ぶ声が聞こえる。それと同時に手のひらから星歌のぬくもりも感じた。
あの時と同じ。
ここは現実ではないのか?
申し訳ない気持ちでいっぱいで、何を言っても言い訳にしかならない。
「セイヤ、ワシは幻夢が作らせた幻ではない。戦闘モード中に命を落とせば、幻夢に捕らわれ抜け出せない。永い年月の中でワシはようやく意思を持ったまま、セイヤの幻夢にたどり着いた」
「!?」
しかし師匠は俺の両肩をがしっり持ち、強く否定。これも俺が言わせていると言えばそうなんだが、師匠の揺るぎない瞳が真実だと告げている。
「おそらくこれが最初で最後だろう。セイヤの幸せそうな姿を見られて、ワシは満足だよ。さっきの答えからして、願望ではないんだろう?」
「はい。まぁ色々ありましたが最高な形で決着は付きました。娘の星歌は今十六歳です。スピカ似で心優しい子に育ってくれました」
「どうりで老けていると思った。だったらリュウノスケもだな」
さすが師匠と言うべきことなのだろう。言わなくてもすべてをお見通しのようで、更に痛いとこまで付かれ苦笑する。
ここに龍ノ介がいたら、おもいっきり怪訝しい表情を浮かべもう反論してくるはず。
もっと師匠といろいろ話していたいが、そろそろ目覚めないと本格的にヤバい。また五日も掛かったりしたら、星歌に泣きながら激怒される。
ひょっとしたらスピカも便乗して、逆鱗が落ちるかも知れない。
今度こそ戦闘モードは封……今後機会がないと信じたい。
「ですね。師匠、今までいろいろとお世話になりました。師匠のことはけして忘れません」
「ワシの方こそセイヤとリュウノスケを育てられて充実した余生を過ごせた。達者でな」
突然の死によりちゃんと伝えられなかった感謝を伝え頭を下げる。
師匠が師匠じゃなければ、きっと俺は最初で挫折し強制送還されていた。スピカと結ばれなかったら、当然星歌は生まれてこなかった。そう考えると自分の死よりも恐ろしい。
師匠はにこやかな笑顔で頭をなでながら、何よりも嬉しい返答をしてくれる。
その瞬間、TV画面のようにプツンと消え意識もなくなった。
これで幻夢が終わる。
「パパ、良かった。目覚めてくれてよかった」
次に意識が戻ると泣きじゃくる星歌のドアップが写り、胸元でワンワンと声を出す。その背後には困った様子のスピカがいる。
現実に戻って来たんだな。
「星歌、ただいま。今回は大丈夫だって約束しただろう?」
「パパの大丈夫はあてにならない。それにお母さんが今回の戦闘モードは最終段階だから、恐ろしい代償が起きるって」
「ちょっと大げさに言ったかも?」
「……ちょっとじゃないだろう? まぁ確かに自我を持った師匠がいたが、そこまでたいしたことはなかった」
「その割には、三日も寝ていたな」
「三日も? 心配かけてすまない」
尋常じゃない星歌の原因は、スピカのせいだと発覚。冷たい視線を向けるのだが、それなりの理由があった。
俺の体感だと数時間程度だった。やっぱり幻夢は計り知れない。
「本当だよ。昨日から生きた心地がしなかった。パパ、お腹空いた?」
「ああ、ペコペコだ」
「じゃぁ私が作るから、着替えたら来てね?」
言いたいことを言って機嫌が直ったらしく、いつもの星歌に戻り張り切って部屋を飛び出す。
星歌の手料理は久々だから、余計に楽しみだ。
ルンルン気分で起き上がり、今更ここは俺の部屋だと気づく。
「身体はもう平気なのか?」
「ああ。多少痛みが残っているが、このぐらいどうってことない。星歌の料理を食べたら、完全復活だ」
今度はスピカに心配され、返答しつつ服を着替える。
パジャマを着ているのは、スピカが着替えさせてくれたから?
「セイヤは本当にセイカが大好きだな? あたしより好きなのか?」
「娘に嫉妬する母親がどこにいる? 星歌は俺達の宝だろう?」
星歌に嫉妬するのは今なお健在。昔は何かある度にへそを曲げられてたから、俺も軽くあしらう手段を覚えた。
どうせスピカだって、俺より星歌が大切なくせに。
しかし
「あたしはセイヤが一番だよ。なぁ食事の前にあたしを食べないか?」
「は? って何をしてる???」
今日はやけに積極的で、背後から抱きしめられる。胸の感触がモロに感じた。
声が裏返り、心臓が高鳴り体温が沸騰。
身体中の痛みが吹っ飛ぶ。
「ゆ・う・わ・く。せっかく元の身体に戻ったんだ。以前のように激しく抱かれたい。思う存分セイヤを感じたい」
「!!」
甘く耳元でささやかれ、スピカに押し倒される。馬乗りになったスピカは今度は唇を重なり合わせ、舌が絡み合う。スピカの甘い味にとろけてしまう。
俺達は夫婦で、この部屋は二人だけ。
妻にここまで誘惑されたら、当然受け入れるのが旦那の務め。
それに俺だってスピカが今すぐ欲しい。今までホムンクルスだと思いそっとしていた。
だから……。
「スピカ、愛してる」
妻を受け入れた。
──パパ、お願いだから目覚めて。パパが死んじゃったら、太が傍にいたとしても幸せになれないよ──
どこからともなく星歌が必死に俺を呼ぶ声が聞こえる。それと同時に手のひらから星歌のぬくもりも感じた。
あの時と同じ。
ここは現実ではないのか?
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