普通の女子高生だと思っていたら、魔王の孫娘でした

桜井吏南

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7章 すべてを終わらせる

124.私の弟……

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「それでどうするの?」
【この魂をスピカに飲んでもらって、身籠れば良いの。生命誕生ってそう言うものでしょ?】
「え、あうん。さすが聖霊……」

 すごく簡単にやり方を説明されるけれど、規格外過ぎて喜ぶよりも呆気にとられてしまう。

 生命誕生はそうではない。
 …………多分。

「セイカ、フェイリルはやたら張りきっているみたいだが?」
「え、あうん。弟の魂をお母さんが飲めば、身籠るみたい」
「!! ならすぐ飲もう。普通に飲めば良いのか?」

 私の半信半疑の言葉を母さんは一ミリも疑わず。パパから弟の魂を受け取り、順序を問う。
 私もそれは興味津々で、目を輝かしフェイリルを見つめる。

【まず魂に私の力を注ぐね】

 そう言いフェイリルは魂にキスをすると、ピンポン球ぐらいのサイズだった魂が見る見るうちにパチンコ玉のサイズまで縮んでいく。光の輝きも濃縮された。

【セイカ、スピカに通訳お願い。これは咬まずに飲み込んだら、この水を全部飲んで。そしたら魂は身籠もるわ】

 とフェイリルは言って、水が入った牛乳瓶らしき物をバッグから取り出す。お母さんにそのまま伝えると、お母さんはやっぱり疑わずに実行する。
 まずは魂をごくんと飲み込み、瓶を受け取りごくごくと飲む。
 こんな言い方をしたら失礼なんだろうけれど、なんだかすごくあっけない。

「スピカ、大丈夫か?」
「ああ。なんかお腹が温かくて優しい気持ちになってくる。生まれてくるのが楽しみだな」
「そうだな。良かったな」

 幸せいっぱいの母親の笑みを浮かべるお母さんを見て、パパも優しい笑みを浮かべ緊張の糸が途切れたようにその場に倒れてしまう。
 安らかな表情だから心配はなさそうだけど、幻夢が始まってしまった。
 
 今のパパには幸せで満ちあふれているから、幻夢になんか負けずすぐに目を覚ますよね?

「セイヤ、お疲れ様。愛している」

 母さんはパパに膝枕し、笑顔のままそっと口づけ。
 さすがにそれで目覚めることはなかったけれど、ますますパパの表情が和らぐ。ここで私が邪魔するのは申し訳ない気がする。
 しばらく二人だけにさせてあげよう。
 あの時とは違ってそこまで心配はなく、後はお母さんに任せておけばいい。


「星歌、良かったな」
「うん。私来年お姉さんになるんだね」

 太の傍に行くと笑顔で言われるから、嬉しさのあまりついお子様回答をしてしまう。

 きっと十四年前も同じことを言ってはしゃいでたんだよね? 
 そう思うと私って、成長がないな。

「いいな。オレも弟が欲しい。陽は妹で可愛いんだが、姉のように感じる時もあるんだよな」

 私の幼発言には突っ込みされず弟を羨ましがられ、双子ならではの複雑な心境らしく深いため息をつく。

 そりゃぁ陽の方が大人なんだからしょうがない。

「でも陽はきっと頼りになる兄だと思ってるよ」
「そうか? それならいいんだけどな」

 取り敢えず今はフォローに回る。
 今も龍くんにお姫様抱っこされていて、とてもじゃないけれど二人の元に行けそうもない。

 私も太に甘えてもいいのかな?
 いいよ──

「マヒナ、シノブ様はセイヤ様に倒されたんだ。オレ達は負けたんだよ」
「は、なんであなたが命を掛けて護らなかった?」

 せっかくのいい雰囲気だったのに、マヒナが目を覚ましニケルさんと激しい口論が勃発。
 滅茶苦茶キレているマヒナを、ニケルさんが冷静に怒りを鎮めようとした。

「そんなの決まってるだろう? オレにとってシノブ様よりマヒナの方が大切なんだ」
「…………」

 迷いもせず言い切るニケルさんに、いくらマヒナでも真っ赤に頬を染めらせしおらしくなる。

 あ、恋愛感情持っているんだ。

「それにお嬢様は人間と無理に交流しなくても、別々の道を歩いていく選択肢もあると言ってくれた。それならお前だって文句ないだろう?」
「……そうだな。でもシノブ様は母様の息子なんだったんだぞ」
「それなら問題は解決済みだ。ですよね? お嬢様?」
「シノブは浄化され消滅しました。弟の魂は、お母さんのお腹の中にいます」

 マヒナなんかと話したくなかったけれど、聞かれたからそれだけ素っ気なく答えはした。
 そうでもしないとまたパパの身が危な……お母さんがいるからそれはないか。

「……あたしと仲直りしてくれないか?」
「絶対にイヤ。パパと仲良くしたとしても、私は大嫌いままだから」

 しょんぼりと悲し気に言われるけれど、私は考えることもなく速攻却下で視線をプイッとそらす。
 あれだけパパに酷いことをして、私とシノブを結婚させようとした。
 そこまでやらかしといて仲直り出来るって本気で思ってる?
 パパなら喜んで仲直りしたとしても、私はそうじゃない。すべてを水に流せるほど大人じゃない。図々しいにもほどがある。
 それなのにマヒナはショックを受け、涙を浮かばせ身体を震わせてる。

「星歌は結構根に持つ方だから、諦めた方が良いと思うぜ? どうしてもしたいんであれば、あんたが大嫌いな人間と和解しないと仲直りはないな」
「…………」
「マヒナ、これからのことよく話し合って考えていこう。オレも人間は嫌いだが、この少年となら交流してもいい。シャニ―もそうだ」

 私を熟知している太だからこそ言える台詞。
 軽々しく言われるのがちょっとあれだけれど、マヒナに更なるダメージを与えたためまぁいいか。
 そしてニケルさんに優しくなだめながら、私達に軽く会釈をしてこの場を退場。距離を取ってついていくのはシャニーだろう。

 剣を交えて友情を育んだ?

「太もそうなの?」
「ああ。もしオレがこの世界の住人だったら、ダチになってたかも知れないな」

 何も深く考えず無邪気に太は答えるけれど、なんだかそれはある意味せつないくて何も言えなくなる。

 そうか。もうすぐヨハンさん達とお別れなのか。
 もう二度と会えなくなる永遠のお別れ。
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