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7章 すべてを終わらせる

123.軍配はどちら?

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「形勢逆転だな。それとも龍ノ介は二人を見捨ててオレを倒すか?」
「いくらなんでもそれは出来ないね。それでお前の望みはなんだ?」

 手も足も出せなくなった龍くんなのに、それでも冷静だった。
 シノブの要望を問う。

「そんなの決まってるだろう? セイヤとその餓鬼の1対2で勝負させろ」

 今まで以上に勝ち誇り余裕の笑みを見せるシノブは、当たり前のようにパパとなぜか私までご指名する。
 1対2って言っても、シノブには人質がいる。それを盾にしたら身も蓋もない。
 そもそもパパはシノブに手が出せない。

「は、星夜はまだしも、なぜ星歌も一緒に?」
「そんなの決まってるだろう? 星夜に今度こそ絶望を与えるため。スピカが生きている以上、魔王の器はスピカでいいからな」

 完全に怒れている答え。
 そう言う奴だとは分かっていたけれど、改めて聞くとドン引きのドン引きだ。
 魔族の行く末よりも自分のことしか考えてないだろう。私に力があれば、ぎゃふんと言わせたい。

「どうする? セイヤ?」
「いいだろう。スピカ、すまない」
「……ああ。もう覚悟は出来てる」

 は、パパはなんでお母さんに謝るの?
 そして覚悟って何?
 まさか死亡フラグ?
 そんなの絶対いやだよ。

 大人の落ちついた静かな会話。αの時以上にフツフツと燃えている。
 まったく意味がわからないし、とてつもなく怖い。

 一体何が起きてるの?

【セイカ、メリケンサックに触れて聖女の力を宿して。そしたら何もかもが良い方向で終わるからね】
「え、本当? パパちょっと待って」

 チョピの言葉が唯一の希望に思えた。深く考えずに言われた通り、メリケンサックに触れ力を注ぎ込む。
 するとメリケンサックはパッと金色に輝きだす。

「星歌、ありがとう。一瞬で片づけるから、星歌はここで待ってなさい」
「は、一瞬で? だけどシノブは私も」

 私には普段と変わらない優しいパパで頭をポンポンされ、パパは一人だけシノブの元へ行ってしまう。

 恐怖よりも信じられない。
 一瞬でって自爆でもするつもり?


「シノブいい加減しろ」
「は、俺に指一本も触れられないお前──ガフ」

 バシーン

「え…………?」

 余裕の笑みで勝ち誇った台詞を吐くシノブだったけど、言い終わらないうちに空高く吹っ飛ばされ天井に跳ね返り降下。そこをすかさずパンチの連打を食らわせる。
 さっきとは立場が真逆だった。

 これがパパの本当の実力?
 力の差は歴然だった。
 でもそんなことしたら囚われの身になっている陽とニシキが危ない。

「星歌、陽なら助けたから大丈夫だ」
「助けた? ニシキは?」
「私なら自力で脱出したので、ご安心を」
「…………」

 確かめる前に龍くんからの報告。
 お姫様抱っこされている陽は、もはや定番となっている。
 こうなってくるとヒロインは確実に陽だけ。ニシキは何食わぬ顔で戻って来てた。
 呆気に取られているのは、私達子供組だった。

「さすがセイヤね。セイカちゃんが絡むと尋常じゃない強さを発揮するのね」
「そうだな。当初はリュウセイの身体だから、なるべく無傷で救う予定でいたんだがな。それでセイカを失ったりしたら、なんの意味もない」
「そりゃそうだ。 そもそもオレが治療してやれば、首が吹っ飛ばない限りどうにかなる」
「まぁーそうなんだが、やはり親としてわな」
『…………』

 大人達の会話は怖かった。

 んなことニコニコ笑顔で話されても、納得なんか出来ません。
 お母さんが元気になって良かったけど。

「何はともあれこれで星歌が洗脳を解けば、ミッションコンプリートだろう?」
「そうだね。でもすべての人間の洗脳を解くって、結構大変なんじゃないのかな?」
【それなら大丈夫。聖霊の山脈で気持ちを込めて祈りを捧げたら、すべての人の洗脳がとけるよ】
「え、そうなの? 聖霊の山脈で祈れば、いいんだって」

 気を取り直し太とこれからの話をしていると、チョピからナイスな情報を聞かされ問題は早期解決。
 全員の体調が回復次第、聖霊の山脈に向かおう。
 そして祈って洗脳を解いたら、地球の日本に帰る。

「? だったらどうしてさっさと行かなかった?」
「どうしてと言われても、洗脳を解ける力は審判の花で手に入れたから?」

 アホな質問を真顔の黒崎にされてしまい、反射的に真相を答える。
 悪しきものを浄化は出来てたけれど、あれは本当に浄化だから洗脳した人間をすべて浄化していた。
 黒崎はたまにって言うか、結構抜けていたりするんだよね。

「あっ?」
「お前って結構そう言うとこ抜けているよな」

 理解した黒崎は赤面し凹んでいる所、私の心の声を太が代弁と言う追い打ちをかける。
 これには結構可哀想と思いながらも、なんだか微笑ましく笑ってしまう。
 
「黒崎は──」
「星歌、チョピ。これは一体どうなってるんだ? シノブが光の泡となって消えたと思ったら、この光の球だけが残ったんだ」
「え、パパ?」

 黒崎は今後のことが気になり聞こうとしたら、慌てふためくパパの声にかき消されてしまう。
 何事かと思い声のする背後に振り向くと、あんなにすごかった威圧感と殺気がなくなり弱弱しい姿。

 シノブとの決着がついたから、戦闘モードを解除したんだ。
 そんなパパが大切に持っているものを見せられる。
 温かくて優しい光を解放す玉?

【これはセイカの弟の魂だよ。穢れは全部浄化されたからきれいなの】
「パパ、それは弟の魂。穢れは浄化されたからもう大丈夫だって」
「……どうすればいいんだ?」
「え、なんだって?」

 何を思ったんだろうか、悲しげな表情に変わる。龍くん達とにこやかに話していたお母さんも、血相を変えこちらにやって来る。私にも当然意味が分からないから、チョピをまじまじ見つめた。

【ここからは、私の出番ね!!】

 どこからともなくフェイリル登場。
 元気いっぱい得意げに胸を張るのは頼もしいけれど、そう言えば戦闘中に姿を見ていない気がする。

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