普通の女子高生だと思っていたら、魔王の孫娘でした

桜井吏南

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7章 すべてを終わらせる

117.二十八年前の真実

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 十七時間前

「パパ、いつ帰って来る?」
「また空が明るくなって、太陽がてっぺんにのぼったら」
「分かった」

 セイヤ大好きのセイカは本日何十回目の同じ問いに、正直うっとうしいと思いながらも優しく答え頭をなぜる。するとセイカは満足したのか笑顔を浮かばせ、少し離れた場所で一人お人形遊びを始める。
 本当にセイカはセイヤ大好きに育った。母親のあたしよりも大好きだとかで、セイヤもセイカにはもうデレデレ。二人でいる時たまにあたしに見せない笑顔を浮かべ楽しくしている姿を見るのは正直面白くない。

 どうしてこうなったんだ?  セイヤに子育てを任せすぎてた?
 それとも月一で二泊三日の里帰りしていたのが、まずかったんだろうか?
 どのみちこの経験を踏まえてお腹にいる息子リュウセイには、ママが一番大好きだって言わせよう。
 セイヤには悪いが、子育てを手伝わせないつもりでいる。リュウセイにもパパが一番大好きなんて言われたら、あたしはきっとくだらない嫉妬でセイヤに辛く当たってしまう。
 セイカはセイヤ。息子はあたし。これでバランスが取れるだろう。



 十六時間前

 ──っ!?

 突然激痛が走る。どうやら陣痛が始まった。
 予定日より一週間以上早い。

「ママ、どうしたの?」
「セイカ、心配しなくても大丈夫。ニシキを呼んできてくれる?」
「うん、分かった」

 私の異変にいち早く気づいたセイカは、すぐに駆け寄ってくれ心配してくれる。
 心配掛けまいと無理に笑顔を浮かべ、キッチンにいるニシキを呼んでくるよう頼む。
 ニシキはあたしが生まれる時に父様に作られたコピー魔族。魔王族に子供が生まれると、魔王がもしもの時のためにコピー魔族を作る掟がある。
 セイヤにはニシキの存在を隠している。明日帰って来たら打ち明けようと決めた。
 夫婦だから隠しごとはダメだよな? すべてを一気に話すのは混乱させるだけだから、小出しにしようと思う。



「スピカ様、どうしましたか?」
「陣痛が始まったみたい。ニシキ、産婆になってくれる?」
「かしこまりました。セイヤ様には連絡入れましょうか?」
「明日帰って来るから大丈夫。びっくりさせたいしね」
「かしこまりました」

 相変わらずニシキはあたしが何を言っても、疑問を持たずなんでも聞いてくれる。
 以前から違和感ありまくりで駄目だと思いつつ、未だあたしはニシキに魔族のため汚れ仕事もたまにやらせている。
 きっとセイヤに打ち明けられずにいるのは、こういう負い目があるからだろうな。
 セイヤにすべてを打ち明けても軽蔑せず協力してくれると思うんだが、あいつは人間でしかも魔王を倒した英雄。
 本当ならばリュウノスケのように王都で活躍し、輝ける人生を送るべきなんだろう。
 なのにセイヤは優しいからあたしと一緒になることを選び、魔族嫌いの王から隠れるように領土をもらいひっそり暮らしている。
 これ以上あたしの身勝手な理由で、セイヤを日陰の道を歩かせたくない。
 隠しごとをなくしたいのに、負担を掛けたくない。
 矛盾だな。



 八時間前

「ンギャンギャ」
「スピカ様、おめでとうございます。元気な男の子です」

 夜が明ける少し前に、元気な息子を産んだ。
 ニシキに言われ受け取ったのは、セイカと同じように玉のような可愛い男の子。赤毛で真っ赤な瞳。どことなくセイヤに似ていて、この子も間違えなくあたし達の子供。

 将来魔王の力を受け継いで新たなる魔王になるのだろうか? ……なんてな。

「ママ、おはよう」
「おはようセイカ。ほら貴女の弟リュウセイだよ」
「おとうと。星ちゃん、おねえちゃん」

 隣の部屋で寝ていた星歌が目を擦り、あいさつをしながら入って来る。
 リュウセイを紹介すると、興味津々とばかりに見つめていた。
 セイカなら優しいお姉ちゃんになってくれるだろう。

 優しい夫に可愛い子供達。
 あたしは今ものすごく幸せだ。



 一時間前

「スピカ様大変です。村人達にスピカ様の正体がバレたようで、亡き者にしようとしています」
「嘘だろう?」

 山菜取り行ってもらっていたニシキが帰って来るなり、血相を変えそう恐れていたことを告げられる。

 いつかはこんな日が訪れると思って覚悟はしていたはずが、いざ現実に訪れるとなんだかショック。

 今まであんなに良くしてくれたはずなのに、
 魔族でも関係ないと言ってくれたのに、
  魔王の娘だと分かった瞬間、問答無用で襲ってくる。
 あたしと父様はまったくの……。
 イヤこれが魔族であっても、同じことだよな。
 あたしも最初はこうなると分かってたから、人間を遠ざけていた。
 それなのにセイヤと来たら、親は親で、あたしはあたし。
 村人達もあたしを知っているから、いつの日か正体を打ち明けても大丈夫と言ってくれた。
 だからあたしは甘い誘惑に負けて……。
 そんなはずないのにな。
  魔族と人間が手を取り合える世界なんて所詮夢物語。

「スピカ様」
「ニシキ、あたしはやっぱり人間とはうまくやっていけないと確信したよ。だから城に戻ることにする」
「それは名案です。では私がセイヤ様と合流次第案内します」
「──セイヤにはあたしが死んだことにしてくれないか?」 
「え?」

 今あたしはとてつもなく最低な決断を思いついた。
 あたしに純情なはずのニシキでさえ、初めてあたしに困惑の表情を浮かべ見つめる。

 セイヤのことは今でも愛している。
 出来ることなら最後まであたしの傍にいて欲しかったが、それは今以上にもない茨の道。心優しいセイヤは病んで、おかしくなるのは目に見えている。
 まぁあたしが死んだことにしたら、自ら死を選ぶかも知れないが──

「セイカだけが生き残ったことにしてくれ。そしたらセイヤはきっとこの世界に失望し、セイカを連れチキュウに戻って行くだろう。運が良ければリュウノスケもな」
「それで本当にいいのですか?」
「ああ。この先魔族と人間の大戦争が勃発しかねない。だから……」

 泣きたい気持ちをこらえ自分の言葉を正論化した。

 あたしは妻として母親として最低選択をしようとしている。
 もちろんセイカも一緒に城へ連れて行きたいが、セイカだけでもセイヤの傍にいてくれれば精神崩壊のストッパーになる。
 これからセイヤはセイカを生き甲斐にして生き続けてくれる。
 まだ幼いセイカは、そのうちあたしのことなど忘れるだろう。

「ママ、ニシキ。おなかすいた」
「セイカ、こっちにおいで」

 昼食の催促に来た何も知らないセイカ。あたしが呼ぶと嬉しそうに駆け寄ってくれる。

「ママはセイカのことが大好き。何があってもセイカのことをずーと大切に思ってる」
「星ちゃんもママだいすき」

 ぎゅっと抱きしめ、あたしの溢れんばかりの気持ちを伝える。
 星歌も抱き返しキャッキャッと言いながら、嬉しい言葉を返してくれた。
  堪えていた涙がどっと溢れ、キス魔となった。

  やっぱりセイカとも離れたくない。
  一層あたしもチキュウとやらに行って、親子仲良く……暮らせるはずないか。
  これ以上魔族の民を裏切れない。

「ママ?」
「セイカ、ニシキとパパを迎えにいってあげて。ママはリュウセイとおうちで待っているからね」
「うん、わかった」

 初めて我が子に嘘をつく。

 私は最低な母親だ。

「スピカ様。必ずセイカ様をセイヤ様の所に送り届けます」

 ニシキも納得してくれたよう。
 あたしの言葉をすっかり信じ込んで、笑顔に手を振るセイカをつれ部屋を出ていく。


 さようならあたしの可愛いセイカ。
 セイヤと仲良く幸せに暮らすんだよ。
 そして二度とこの世界に戻って来たら駄目だから──。
 伝承の聖女にもならないで。


 その後あたしは生まれたばかりのリュウセイを連れ、秘密の地下道から村から脱出。
 数時間後ニシキと合流し、城に急いで向かった。
 うまい具合にあたしは村人達に殺されたことになり、セイカはセイヤとリュウノスケに助けられたそうだ。
 セイカの記憶は、数日分とニシキの存在を消したらしい。

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